第10話 初心者パーティ
お互いに準備を整え、三〇分後に冒険者ギルドへ集合して依頼に行くことになった。とはいっても、私は〈エレンツィ神聖国〉に来るまでの道中で回復アイテムを購入したので、改めて用意するものはない。
なので、依頼掲示板を見ることにした。
――美味しい依頼はないかなぁ?
実家から持ち出したお金はあるけれど、永遠に保つわけではない。なるべく節約をしているけれど、いい装備や消耗品のアイテムを買っていたらすぐ底をつきそうだ。
「ゲームでもあったクエストが多いなぁ」
ギルドが発行している討伐依頼のほかに、護衛、薬草などの採取や、はては買い物の手伝いや牧場の手伝いなど……ゲーム時代にも常設されていたクエストがあった。危険がなくすぐ収入になるけれど、報酬はあまりよくない。初心者のお金稼ぎ用クエストと言われていた。
「あ、シナリオクエストもあるんだ……」
ゲームにはいくつかのシナリオがあって、クエストを通してこの世界のことを知ることができる。
たとえば、私の出身国の〈ファーブルム王国〉と〈エレンツィ神聖国〉の二国に関連する戦争系のシナリオ『崩れた夢』があった。プレイヤーは第三者として参加していたので、どちらの味方でもなかったけれど……まあ、気持ちのいい楽しいシナリオではなかった。
端から順番に見ていき、最後の依頼で私は視線を止めた。
「なんだろう、この高額クエスト。依頼内容は、〈嘆きの宝玉〉の納品?」
……はて?
聞いたことのあるアイテム名ではあるけれど、自分で使ったことがないのでいまいち思い出せない。というか、ゲームでは使用用途不明のアイテムだったはずだ。
依頼が気になったので、ナーナさんのところへ行って聞いてみることにした。
「ああ、その依頼ですか? かなり前からあるんですけど、誰もそのアイテムを知らなくてずっと未達成なんですよ」
「年季が入っていそうな依頼書だと思ってたら、本当に長期間このままだったんですね」
私が苦笑すると、ナーナさんが「そうなんですよ~」と項垂れた。ギルドとしては、早く達成してほしいみたいだ。
「報酬も三〇〇万リズと高額なので、最初のうちはみんな調べたりダンジョンに行ったりしていたんですけど……なかなか成果が得られず……」
「どこで手に入るのかわからないと、どうしようもないですからね」
「はい……。内容は納品なので、もし見つけたら依頼を受けていただくのがいいと思います」
討伐などは依頼を先に受けないといけないけれど、納品なら確かにアイテムを集めてからの方が、期限もないので楽だろう。私は頷いて、「そのときは声をかけますね」と告げた。
ナーナさんと話が終わったら、ちょうどケントとココアが戻ってきた。どうやら、回復アイテムを買ってきたようだ。
「お待たせ、シャロン」
「準備万端です!」
二人とも今から冒険に出るのが楽しみなようで、目をキラキラさせている。かくいう私も、初めての狩りでワクワクドキドキしているのだ。
今回受ける依頼は、初心者にピッタリな〈薬草〉採取と〈ウルフ〉の討伐の二つだ。プルルより経験値が美味しいけれど、いかんせん私一人で倒すにはちょっと強い。なので、二人と一緒に狩りに行けるのは助かる。
ナーナさんに依頼の手続きをしてもらい、私たちは〈冒険者ギルド〉を後にした。
***
私たちが向かうのは〈シュリアの森〉というフィールドで、〈聖都ツィレ〉の斜め下――南東の方向にある。
街から歩いて三〇分ほどで森に到着した。森は太陽の光が入り込み、薄暗さなどが感じられない綺麗な場所だった。草花も多く、ぱっと見ただけで薬草を確認することもできる。低レベル者がレベル上げをするのにうってつけだろう。
ここもやっぱりゲームのときとは違い、実物で見ると圧倒される。都会っ子だった私は、普通の森であるここでも神秘的だと思ってしまうくらいだ。
「す~は~」
私が大きく深呼吸をしていると、ケントが「緊張してるのか?」と笑った。
「いや、この美しい場所にきて嬉しい気持ちを落ち着かせようと思って」
正直に答えると、ケントが目を瞬かせた。なんと返事をすればいいかわからずに、困っているような表情だ。「どういうことだ?」と私に聞いてきた。
「……あまり家から出ることがなかったから、景色を見たりするのが好きなの。だからいろいろなところに行けるように、レベル上げも頑張るつもり!」
「ああ、そういうことか! 俺も俺も! いろんなところに行ってみたい!」
「本当!? 気が合うね~!」
やはりこの世界の景色を堪能したいという気持ちは、現地で生きる人も同じみたいだ。わかるわかると頷いていたら、ココアが苦笑してる。
「森の入り口で喋ってないで、早く入ろうよ」
「それもそうだな。んじゃ、話した通り俺が前を歩くから、シャロンとココアの順でついて来てくれ」
「「了解!」」
進む前に隊列の確認を行っておく。簡単すぎる作戦だけれど、私たちはレベルも低いのでこれくらいでちょうどいい。変に連携を意識するより、上手く動けると思う。
モンスターが飛びだしてきてもすぐ対応できるように、ケントは剣を鞘から抜いて歩き始めた。かなり疲れてしまいそうだけれど、レベルが低いうちはその方が安全かもしれない。
「うっし、頑張って依頼を――っ! ウルフだ!!」
すぐに一匹のウルフが茂みから顔を出し、ケントが声をあげた。私は〈
――リアル狼、怖っ!
プルルと花ウサギがどれほどボーナスステージだったかよくわかる。ウルフは私の腰くらいの高さがあり、ぱっと見は大きな犬っぽさがある。けれど口から覗く牙は鋭く、低い声は威圧的だ。
「……っ!」
ケントが剣を構えて、ココアがスキルを使うために詠唱を開始する。初心者ながらも、二人は一瞬で戦闘態勢に切り替えてみせた。
『ガウゥゥッ』
「これしきっ!」
大地を蹴って襲いかかってきた〈ウルフ〉の攻撃を、ケントの剣がはじく。その隙に、詠唱の終わったココアが杖を振りかざす。
「〈ファイアーボール〉」
『ギャウゥンッ!!』
「よっし!」
ココアの〈ファイアーボール〉は見事に命中し、大ダメージを負わせた。……が、相手はまだ生きていて起き上がろうとしている。ケントが「チッ」と舌打ちして、もう一度剣を構えたけれど……私だって、何かしらの役に立ちたい。
「任せて!」
「はぁ!?」
私がメイスを振りかざしながら〈ウルフ〉に向かっていくと、ケントが目を見開いて私を見た。それはそうだろう、私は〈癒し手〉としてパーティに入れてもらったのだから。でも、今は物理攻撃ができるのだから殴り支援として役に立ちたい。
思いっきり〈
「えいっ!」
『キュウウゥ』
私の一撃が決定打になったらしく、〈ウルフ〉は光の粒子になって消えた。その場所には、〈狼の牙〉と〈質の悪い毛皮〉がドロップアイテムとして落ちている。素材として売ることができるけれど、あまり高くはない。
《ピロン♪》《ピロン♪》
――お、レベルが上がった。
さすがウルフを倒しただけあって、レベルが一気に2も上がった。これは嬉しい。レベルが上がるとスキルポイントを1ずつ得ることができるので、私のレベルは3でスキルポイントは2だ。
私はさっそく〈冒険者の腕輪〉を使い〈スキル〉項目を開く。すると、私の取得できるスキル一覧が現れる。
〈癒し手〉が覚えられるのは、〈ヒール〉などの回復系と、〈女神の守護〉などの防御力アップなどの
「ひとまず〈ヒール〉をレベル1取って、〈身体強化〉をレベル1っと」
最初のうちはモンスターから食らうダメージもそこまで大きくないので、〈ヒール〉のレベルも1で十分。〈身体強化〉は味方の能力が向上するので、必須スキルだ。
あとはレベルが上がったら、順次支援スキルを取りつつ〈ヒール〉のレベルを上げていけばいい。
その後、二次職の〈ヒーラー〉へ転職し、覚醒職の〈アークビショップ〉に転職する……という流れだ。
これで、久しぶりに支援の腕前を発揮できるといいな。
私がスキルを振り終わって満足していると、ぽかんとした顔でケントとココアがこちらを見ていた。
「え、〈癒し手〉じゃなかったのか?」
「〈癒し手〉だけど、レベルが低いから最初は武器を持って殴るのがいいかなって」
「なるほど……?」
理解不能だという顔をしつつも、ケントがとりあえず頷いた。理屈としてはわかるけれど、そんなことをする〈癒し手〉はいないと言いたいのだろう。……プレイヤーの間では、割と当たり前だったんだけどね。
「まあまあ、レベルが低いうちにしかできない荒業だと思って!」
「……そうだな。さすがに強いモンスターが出てきて殴りに行ったら、俺じゃフォローできねぇし」
「命が大事なので無謀なことはしないよ」
「そうしてくれ」
心臓がいくつあっても足りそうにないと、ケントが笑った。ココアは私を見て、自分の杖を見て、「なるほど殴るんですね……」と何か悟りそうになっている。うん、殴り〈魔法使い〉は楽しいよ! ……ゲームでは。
私たちが話をしていたら、再び〈ウルフ〉が出てきた。
――よおし、今回は支援として頑張っちゃうぞ。
「いくよ、〈身体強化〉!」
「は!? え!? うおっ! すごい、体が軽い!! これなら、余裕で勝てそうだ!」
ケントは大きく大地を蹴って、〈ウルフ〉に向けて剣を振り上げた。しかし相手も馬鹿ではない。大きく飛んで避ける。が、こちらは一歩上手だ。
「炎よ、我に力を! 〈ファイアーボール〉!」
タイミングよく、ココアがスキルを使って〈ウルフに〉一撃を入れる。さらにケントが追撃し、ウルフにダメージを与えた。ナイス連携プレイだ。
『ギャウッ』
「――っ!」
ウルフが決死の力を振り絞ってケントの腕に爪を立てたが、深手を与えることもできず光の粒子となって消えた。
「〈ヒール〉!」
すかさず私が回復すると、ケントの傷は綺麗に治った。〈ヒール〉のスキルレベルは1だけれど、この程度の怪我なら十分だ。
なぜか、ケントがぽかんとした顔で私を見ている。
「え……シャロンのスキルって……〈身体強化〉じゃないのか? いや、そもそもレベル1だったんじゃないのか……?」
「うん? 〈身体強化〉と〈ヒール〉の二つだよ?」
それがどうかしたのだろうかと首を傾げると、ケントだけではなくココアも驚いている。二人の視線が痛い。
「いや、だってレベルが上がってレベル3って言ってただろ?」
「どうして二つもスキルを覚えてるの!?」
――はい?
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