第9話 冒険者登録

「はぁぁ~疲れた……」


 逃げるように〈大聖堂〉を後にした私は、〈冒険者ギルド〉へやってきた。ここで登録して、冒険者として本格的な活動をする予定だ。

 建物は三階まである。一階は冒険者登録や依頼、素材の買い取りなど、日々の業務が行われている。二階は簡単な資料室と打ち合わせスペースが用意されている。三階はギルドマスターの部屋や応接室などがある。


 〈冒険者ギルド〉は、この世界のほとんどの主要都市に支部がある中立機関だ。

 主なメイン業務は、冒険者へ依頼を発行することだ。その依頼は個人から国まで広く扱っており、モンスター討伐や薬草採取、ほかの街などへ行く際の護衛などがある。冒険者の管理も行っているので、その戦力は一国家にも匹敵するとかしないとか。


「受付は……っと」


 〈冒険者ギルド〉の中に入ると、奥に五つの受付があった。何人か人がいるけれど、そんなに混んではいないようだ。

 特に受付によって業務内容が分かれているわけではないので、私は順番がくるのをのんびり待つことにしたのだが……冒険者たちの話声が聞こえてきた。


「なあなあ、今〈大聖堂〉で奇跡が起きたらしいぞ」

「なんだそれ」

「〈女神フローディア〉の像が輝いたんだって」

「はあぁ? そんなわけあるかよ、騙されたんじゃねーのか?」


 あまり本気にはしていないようだけれど、もうこんなところまで噂がきていることに驚いた。思いのほか、情報の伝達が早そうだ。

 ちょうど受付が開いたので、会話をしていた冒険者の方は見ないようにそそくさと受付カウンターへ向かうことにした。



「すみません、冒険者登録をしたいんですが……」


 私が声をかけると、受付の女性はにこりと微笑んで登録用紙を取り出しながら対応してくれた。


「はい! 初めての方ですね。受付のナーナと申します」

「シャロンです」


 受付嬢のナーナさんは、エルフ族の女の子だった。

 おっとりした蜂蜜色の瞳は優しい雰囲気で、セミロングの黄緑色の髪をうち巻きにしている。年は私より少し上に見えるので、十代後半だろうか。

 職員の制服は、白のブラウスの上に黒を基調とした厚手のものが重ねられている。装飾品などは好きにアレンジをしているようで、個性が出ていて可愛らしい。


「シャロンさんですね、よろしくお願いします。まずは適性を調べますので、〈星の記録〉に手をかざしてください。これから読み取れるのは、職業ジョブ、レベルの二つです」

「わかりました」


 ナーナさんが取り出した〈星の記録〉は、羅針盤に似たアイテムだ。

 ゲームではメジャーなアイテムの一つで、対象の『レベル』『職業ジョブ』の二つを知ることができる。ただし、相手のレベルが50以下という条件があるため、それ以上の人物には使うことができない。


 私が手をかざすと、〈星の記録〉の二本の針が動き出した。

 レベルは1、職業ジョブは〈癒し手〉を指している。


「レベル1の〈癒し手〉ですね。では、問題なければこのまま登録しちゃいますね」

「お願いします」


 登録を待つ間に、〈冒険者ギルド〉の契約書を確認する。

 とはいっても、そこまで大それたものではない。ようは、危険な仕事なので死んでも〈冒険者ギルド〉は責任を持ちませんよ、というのが遠回しに書いてあるのだ。


 冒険者のランクは上からS・A・B・C・D・E・Fランク。

 私はFランクから始まり、Sランクを目指していく。ランクを上げると行けるダンジョンなどが増えるため、レベル上げやいいアイテムを手に入れやすくなる。


 しばらくして、ナーナさんが戻ってきた。


「無事に登録できました。今日から冒険者として、よろしくお願いします」

「はい。よろしくお願いします」


 よし、これで〈癒し手〉として冒険することができる。

 どんな依頼を受けようかと胸が躍っていると、ナーナさんから「よければ……」と声をかけられた。


「実は、〈癒し手〉を探している駆け出しの冒険者パーティがいるんですよ」

「おぉっ!」


 まさかのレベル1だけどお誘いをいただいてしまった。まだスキルを1つも覚えていなくて役立たずだけれど、数レベルならあっという間なのでそんなに問題はないはずだ。私は「ぜひ」と頷いた。

 本当は一人で鉄の鈍器メイスを振り回してレベル上げをしようと思っていたけれど、誰かとわいわい楽しく冒険できるのは楽しいし嬉しい。


「本当ですか? よかったです。あそこにいる二人組のパーティです」


 ナーナさんが示す方を見ると、依頼掲示板の前に二人の子どもがいた。年のころは十代半ばくらいで、私より年下に見える。


「あそこの……〈剣士〉と、〈魔法使い〉ですか?」

「そうです」


 私とナーナさんが二人の元まで行くと、こちらに気づいたようでペコリと頭を下げた。


「ケントさん、ココアさん! 〈癒し手〉のシャロンさんを紹介させてください」

「え、〈癒し手〉が見つかったんですか!? 俺たちだとレベルが低すぎるから、無理だとあきらめてたんですけど……」

「わあ、よかったぁ」


 嬉しそうに微笑む二人を見て、私も頬が緩む。


「〈癒し手〉のシャロンです。レベルが低くて初めのうちはあんまり役に立てないけど、それでもよければ」

「もちろん! 俺はケント。よろしくな、シャロン!」

「私たちもレベルが低いですから……。ココアです、よろしくお願いします!」


 すぐに二人から快諾の返事がきたので、私も改めて「よろしく」と挨拶を返す。


 元気いっぱいな〈剣士〉のケントは、ツーブロックにした短髪の男の子だ。皮の胸当てをつけていて、装備は最低限のものを揃えているというのが見てわかる。腰に差した剣は、初心者用の〈鉄のソード〉だろう。これは初期装備の剣で、正直攻撃力はあまり高くないけれど、駆け出し冒険者にはお値段も手ごろで扱いやすいものだと思う。


 大人しそうな〈魔法使い〉のココアは、低い位置で髪を二つに結んだ女の子だ。オフホワイトのローブに、短い初心者用の杖を手にしている。かぶっている大きな〈マジックハット〉は魔法の威力を3%上げてくれる効果がついているので、初心者のころは重宝する装備だ。

 私が仲間になると聞いて、嬉しそうにしてくれているのが可愛い。私には兄しかいないけれど、妹がいたらこんな感じだったかもしれない。


 話を聞くと、もうこのまま二人で依頼を受けて出かけようかと悩んでいたのだという。〈癒し手〉がいなくとも、回復アイテムを使えば怪我を治せるからだ。

 もちろんそれも問題はないけれど、〈癒し手〉がいると強化バフをつけることができるので、やっぱり心強いのだ。強化バフは味方にかけられる支援スキルで、体力や攻撃力を一定時間上げることができる。

 私はまだレベル1なので〈ヒール〉すら使えないけれど、早い段階で取得する予定だ。


「それじゃあ、パーティ登録をして依頼を受けてみましょうか」

「ああ!」

「はいっ!」


 ということで、私は再びナーナさんに声をかける。ギルドでパーティ登録をすると、経験値がパーティ内に平均されて分配されるのだ。ちなみにレベル制限があり、15レベル以内でないと仕組みを使うことはできない。


「はい、登録ですね!」


 ナーナさんは頷いて、すぐにパーティ登録をしてくれた。これで、すぐに依頼を受けて狩りへ行くことができる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る