第6話 クエストの材料集め
ひとまず宿を押さえた私は街の外へ出て、草原に立った。
ここは〈聖都ツィレ〉の南門から出たところの〈聖都入り口〉という名称で、初心者でも倒せるモンスターがいるフィールドだ。
「ふううぅ~! いい景色!」
これこれ! 私はこの景色が見たかった。大地の匂いをかいで、眩暈がしそうなほど高い空の青を肌で感じたかったのだ。リアルで感じられる草の香りや、高い空に視線を巡らせ、やっとスタート地点に立てる喜びで胸がいっぱいになる。
レベルが上がったらいろいろ行ってみたいところがあるので、それもまた楽しみだ。
――さて。
私が今から行うのは、『リアズ』のチュートリアルだ。正確には、チュートリアルクエストの一つと言えばいいだろうか。そのクエストで手に入れる〈冒険の腕輪〉がほしいのだ。
今はまだクエストを受けていないけれど、クエストに必要なアイテムは知っているので、先に集めてしまおうという魂胆だ。
草原を見渡すと、二種類のモンスターがいる。
オレンジ色でスライムのようにぷるぷるしている〈プルル〉に、頭に花が咲いている小さなうさぎの〈花ウサギ〉の二種類。
それから薬草などの植物類がいくつか生えている。
クエストに必要なのは、この二種類のモンスターがドロップする〈ぷるぷるゼリー〉を五個と、〈ウサギの花〉を三個。それと〈
「よーし、いきますか!」
まずは〈プルル〉に狙いを定める。というのも、私のレベルが1なので、〈花ウサギ〉よりも弱い〈プルル〉から先に倒すのだ。
私は〈プルル〉の前に立つと、よいしょーっと
〈プルル〉が消えて残ったものは、ドロップアイテムの〈ぷるぷるゼリー〉だ。球体で、大きさはピンポン玉より少し小さいくらいだろうか。食べると体力を少量回復することができるので、初心者は重宝するドロップなんだけど……。
「この世界だと、庶民のおやつでもあるんだよね」
私は公爵家の娘なので食べたことはないけれど、使用人の話ではなかなか美味しいらしく、実はかなり気になっていた。
ゲームは最新のフルダイブではあったが、さすがに味覚までは表現できなかった。――いや、正確にはできるのだろうけれど、ゲームからログアウトせず食事を摂らなくなってしまうなどの懸念があり、実装しなかったというのが正しいだろう。
――食べちゃう?
見た目も匂いも蜜柑ゼリーなので、普通に美味しそうだ。クエストアイテムだけれど、ドロップ率は確か90%くらいだったので、またすぐ集めることができる。
ということで、食べることにした。
「いただきます!」
ぱくっ。口に含むと、ぷるんとした触感と冷たさに頬が緩む。そういえば、ここに来るまでは慌ただしくて、甘いものなんて口にしていなかった。久しぶりの甘味だ。
「ん~っ、美味しい!」
ほんのりと香る蜜柑の風味で、今までの緊張がほぐれていくような気がする。あっという間に完食してしまった。
「よし、この調子でどんどん狩っていきますか!」
すると、数匹倒したところで《ピロン♪》という音が脳内に響いた。レベルが上がったときの音だ。
「順調、順調!」
今はステータス画面の確認ができないので、チェックなどは後回しだ。
〈プルル〉を七匹倒したところで〈ぷるぷるゼリー〉が集まったので、次は〈ウサギの花〉集めだ。
『ぴっ』
さっそく私の前に〈花ウサギ〉が出てきた。大きさは現実世界のウサギと同じくらいだけれど、頭の上に個体別に違う色の花が咲いていて、攻撃のためだろうか……牙が長い。まあ、ぱっと見は可愛らしいウサギさんだ。
ゲームのときは気にならなかったけれど、小動物を倒すと言うのはなかなかに忍びない気持ちになる。
可愛いゲームグラフィックは人気だったけれど、現実になると一気に厳しくなるな……と、私はちょっとしり込みする。……とはいえ、可愛いからモンスター倒せません! では埒が明かないので、握っている
「ごめんねウサギちゃん!」
『ぴーっ!?』
この世界のいいところは、きっとモンスターを倒したらドロップアイテムを残して消えてくれるところだと思う。正直、ウサギの死体が残っても私に処理能力はないし、持ち帰るだけでも大変だっただろう。
それから数匹の〈花ウサギ〉を倒して、必要な〈ウサギの花〉を集め終わった。そのころには、〈花ウサギ〉を倒すことにもそこそこ慣れてしまった。
最後は〈白花の薬草〉だけれど、これはフィールドのいたるところに生えているので、すぐに採取が完了した。
全部を集めるのに、時間にして一時間程度だっただろうか。思ったより早く終わることができて、私はほっと胸を撫でおろした。
あとは街に戻り、クエストを進めるだけだ。私はちょっと浮かれ気分で、小走りで街へ向かった。
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