第3話 終わりよければすべてよし
「今日、長らくこの村を守ってくれていたセルムを送り出そう。」
村長は疲れが見え始めているパーティーの参加者に話し始めた。
「彼はここを離れた後、王都の騎士団の入団試験を受ける。そこで、最後に彼への贈り物をこの場で渡す。」
すると、村長の一人娘がどこからか長さのある木箱を抱えてきた。村長がそれを両手で受け取ると、徐に此方の正面に立ち、箱をセルムに渡した。セルムはその箱の重さに驚き、中身を見ようとした。その時、村長はセルムにさっと耳打ちした。
「発ってから開けるのだぞ。」
セルムは村長の制止を無視して箱を開け放った。
そこには見た事の無い様な幅と厚さを持った刀があった。
鈍い鼠色に光っているそれは、今日壊してしまった斧とはまるでその質が違っていた。
それまでの村長の態度からは信じられ無い様な貴重な贈り物にセルムが驚いていると、村長もまた、何か想定外だったようで驚いていた。村長の娘を見るとウインクを返してきた。
「あ~、今まで捨てられていた鉞で凡ゆる場面を乗り切って来た彼に鯨包丁を送る事にした。」
村長は沈黙が続かない様にか急に話し始めた。箱の脇に細工が施された紙切れを見つけると、セルムは素早くそれを懐に仕舞い込んだ。
「たった今、彼に迎えの馬車が来た。拍手で彼を送り出そう!」
やっぱり部外者を送り出すための葡萄酒は無いのだなと少し落胆しつつ、皆に促されて会場を離れた。
箱馬車に乗り込もうとすると後ろから親友の声が聞こえた。
「セルム!」
「ちゃんと来たか。」
「遅れてすまん。これを持ってけ。」
ソトが何か小さい物を投げたが、急だったので顔面で受け止めてしまった。
「ってぇな…ってこの宝石は」
「金欠になっても盗みだけはするなよ。王都は桁違いに警備兵が多いからな。困ったらそれを売るんだぞ。」
「でも、お前が夏に山頂で見つけた…」
「いいんだよ。そのうち剣の腕が上がったら俺も王都に行けるように村長に推薦してもらうからさ。」
「ソト…」
「泣くなよ、俺が追いついた暁にゃ石を返してもらうからな。」
「ああ、そうする。行ってくる。」
馬車に乗ると、すぐに御者が走らせた。
「死ぬなよ!」
「お前もな!」
しばらく手を振って別れを惜しんだが、姿が見えなくなると窓際に腰を据えて贈り物の箱を再び開けた。
「鯨包丁…だったかいつ見ても大きいな。」
立派な刃物を貰えたのは正直嬉しい。しかし、海から遠く離れたこの村に何故こんな代物があったのかが腑に落ちなかった。村長がわざわざ部外者である自分の為に取り寄せるとは到底思えなかった。昔、村長の娘が時折捨てて行っていた絵本以外に学ぶ機会のなかったセルムの頭では到底答えは出そうに無かった。仕方無く懐から例の紙切れを取り出した。紙切れの端は鳥の形になるように折られていた。文字を読むのは得意でなくその女文字は癖が強かったが、時間だけはある。解読できそうだった。
スモールソード @RubrumDragonfly
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