まぎあいどるっ!

寿美見さくら

第1話

 下校のチャイムが鳴り響く校内。深紫色の長い髪をなびかせながら廊下を一目散に走る少女がいた。

 彼女の名前は秋霖しゅうりんめいり。後藤館学園高校の2年生だ。

 校門を出てから駅までは一直線。中学時代は陸上部だっためいりには朝飯前の距離だ。そもそも何故彼女はこんなに急いでいるのかって?実は今日は、彼女の運命を決める特別な日なのだ。


「ラッキー!全部青信号だった!これで間に合いそうね!」

 めいりは駅近くのスタジオへと足を踏み入れた。入り口には「本日開催!新人アイドル合同ライブ!」という貼り紙が貼ってある。……そう、今日は彼女のデビューライブの日なのだ!

 楽屋に入り、用意された衣装に着替える。菫色のフリルがついたワンピースタイプのドレスは、動くたびにフリルがひらひら、ラメの布がきらきらと輝く。めいりは着替えてドレッサーに向かう。このスタジオでは、メイクを自分で行うアイドルが多いのだ。通学用の鞄からポーチを取り出し、中身をひっくり返した。下地とファンデーションを塗り、続いてピンクラベンダーのアイシャドウと青みピンクのチークをそっと塗る。巷で話題に出るカラーベースとやらでいうと……ブルベの彼女にぴったりなカラーだ。そしてラメ入りのリップグロスを唇に乗せれば、メイクは完成だ。

 最後に机の上に置いておいた衣装とお揃いのミニハットをつけて、めいりは小走りで楽屋を後にした。


 ステージの裏に着くと、ちょうどめいりの出番の1つ前のアイドルがパフォーマンスをしていた。

「秋霖さーん!準備お願いしまーす!」

 めいりはステージを終えた前のアイドルとハイタッチをして、入れ替わるようにステージへと向かった。

「はじめまして!新人アイドルの秋霖めいりです!」

 客席から歓声が湧く。ペンライトの色が次々紫に変わっていくのがしっかり見えた。

「それでは一曲歌います、『弱腰ック☆引退宣言』!」

 この日のために一生懸命練習してきた楽曲だ。めいりはマイクをスタンドから抜いて、ステージの中央へと移動した。


 満員電車に揺られて ちょっぴり憂鬱なMorning

 一限からRunningなんて 理由つけて休みたくなる

 Ah 何でもそう今までは 弱腰でいたけれど

 心の殻破って大きく高く 踏み出そう!


 ……と、サビを歌おうとした瞬間、

 ──めいりちゃん!

(……直接脳内に……!?)

 甲高い男の声が、めいりの脳内に語りかけてきた。めいりは暗記していた曲を歌いながら、彼との会話を試みた。

 ──ワシは今自分が持っとるマイクの精霊や!お前さんの力を貸してくれ!

(どういうこと?)

 ──この後、「誰かを応援する力」を邪悪なエネルギーに変える魔物が現れるさかい!

 関西弁を話す声は切羽詰まっている。そうこうしてるうちに、間奏に入ってしまった。

するとその時、会場の後ろの方でペンライトが紫から赤黒い炎へと変化していった。

(もしかして……!)

──ああ、あれや!ワシの力を貸すから、魔法少女に変身や!

マイクの精霊が声をあげると、めいりの体をまばゆい光が包み込んだ。たちまち衣装はピンク色のドレスに変わり、髪も淡いピンクのツーサイドアップに変化した。背中には小さな羽根が生えている。


「魔法少女なアイドル!マジカル☆メイリー!ただいま登場よ!」

(か……体が勝手に口上を……!?)

──安心せえ!変身速度は0.01秒やからな!

(そっちじゃなくて!)

ツッコミを入れている間もなく、後ろからじわじわとペンライトが炎へと変化していく。

──めいりちゃん、ここで一発攻撃や!

(ど、どうやって!?)

めいりは歌いながら一瞬考え、そして閃いた。親指と人差し指を構えて銃のポーズを取る。そして……客席に向かってバキュンッ!!

──おお!ええ感じやん!

炎は瞬く間に消え、元の紫のペンライトに戻る。

──盛り上がってきたところで、ワシからも手助けや!

気づけば曲はCメロ。このパートはコール&レスポンスが含まれている。

「みんなー!私のパートに合わせて、コーレスお願い!」

──いっくでー!!


 今日も!(めいり!)

 明日も!(メイリー!)


めいりが客席にマイクを向ける度、マイクからビームが放たれる。次から次へと炎が浄化されていく。

(客席にビーム見えてない!?大丈夫なの!?)

──この辺のやつはだいたい、魔法少女の力を持つ連中らにしか詳細は見えんから大丈夫やで!知らんけど!

(知らんけどって……)

──もうこれで心配は無用やな!ほんならラスサビ、盛り上げて行こか!


***


「終わった……」

めいりはマイクと共に楽屋に戻り、椅子に座り込んだ。

──いや~、おつかれさん!

マイクは元気そうに語りかけてくる。

「……お気楽そうで良いね……」

そんなことを言っていると、他のアイドルたちが近くに寄ってきた。

「めいりちゃんのライブ、とっても良かったよ!」

「ありがとう!」

「2番のところで、歌い始めたところも斬新だったな~!あの子にも伝えておいて!」

「……え」

めいりは慌てて楽屋から飛び出し、外の様子を見に行った。外で数人の観客が話しているのが聞こえる。

「さっきの2ライブ、凄かったな!」

「なんか間奏の辺りで記憶が飛んだんだけど、目を覚ましたらもう一人の子がいて」

めいりの顔がどんどん青ざめていく。

「ちょっと、どういうこと?」

彼女は思わずマイクを握りしめた。

──あ~忘れとったわ、変身中は記憶改竄装置が作動するからな。別人だと思われとるんちゃう?

「大事なことはーーーっ!!!!もっと早く言えーーーっ!!!!」

めいりの悲痛な叫びが、ライブ会場にこだました。



***


私、秋霖めいり!高校生でアイドル!

さらに、初ライブで関西弁を話す謎のマイクに語りかけられて魔法少女に変身しちゃった!

でも、変身中は周りから別人だと認識されてて……!?

次回!「一人二役は楽じゃない!」ってえっ……!?次回に続……かない!?



【おわり】

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まぎあいどるっ! 寿美見さくら @sourcherry_66

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