七.霊能者、超能力者、何者
一行はファミレスに腰を落ち着け、飲み食いしながら先程のおさらいに入る。紡はソイラテとコーヒーゼリー、つばきはアイスピーチティーと黒蜜きな粉サンデー、桃子はアイスルイボスティーとカツカレーオムライス。
「こういう時だけ桃子ちゃんとつばきちゃんの食い意地逆転するよね。お昼食べてないの?」
「だって紡さんの奢りでしょう?」
「あは。理由がストレートに卑しい」
オムライスがあればつばきの痛烈なディスも効かないのが桃子である。
「それで、どうして急に引き上げちゃったんです?」
「そりゃもう当然、何も無かったからだよ」
「無かったんですか?」
紡は桃子のより何回りも小さいスプーンをゼリーに差し込む。桃子が自分のスプーンを伸ばすと手を叩かれた。その隙につばきが少し掠め取る。
「こいつら本当食い意地……! 話戻そうか。私は先生の話を聞いて、おそらく姫子ちゃん凶暴化の原因は転校生にあると思った」
「私だってそう思いました」
「だよね。となると考えられるのは二つ。一つ、彼が人を凶暴化させる気質を持っている」
「あは。犬を飛び降り自殺させるミンクのフェロモンみたいなやつですね」
「何それ怖い」
怖がりつつも大胆につばきのサンデーにスプーンを伸ばした桃子、つばきにルーがたっぷりかかったカツを奪われ相打ちとなった。
「二つ、虐められた時に彼が姫子ちゃんを操って報復している」
「えぇっ!? それってめちゃくちゃ超能力じゃないですか! あんな小っちゃな子が!?」
「超能力も霊能力も年齢は関係無いし、なんなら歳と共に失われていくパターンもあるよ。実際私は物心ついた時から幽霊見えた」
「あぁ、そう……。と言うか、だとしても他人を操って相手が怪我するまで報復とか、めちゃくちゃ危険人物じゃないですか!」
紡は軽く溜め息を吐くと、ソイラテをぐるぐる掻き混ぜる。
「そうだね。でも幸か不幸か彼には周りを凶暴化させるような気質も無ければそうさせるような悪霊が取り憑いてるでもなし、そしてつばきちゃんが見えなかった」
「つばきちゃん?」
「あは」
メニューで顔が見えない向こう側でつばきが笑った。
「途中この子いなかったでしょ?」
「お化粧直しとか無茶苦茶言ってましたね」
「実はあの時もつばきちゃんはずっといたんだよ」
「なんと!」
紡の隣、通路側に座っているつばきが店員を呼ぶチャイムに手を伸ばす。紡は桃子を見据えたまま代わりにボタンを押した。
「ただし普通の人には見えないような幽霊状態でいてもらった。ちょうど私なら見えて、桃子ちゃんには見えない塩梅で」
「はぁ、それがどうなんです?」
「その上でつばきちゃんには彼に握手を求めてもらったり話し掛けてもらったりしたけど、全くの無反応。もし彼が他人を操れるような能力者なら、あの子が見えてなんらかのリアクションをするはずなんだ」
「すいません。ポテト盛り合わせお願いします」
当の幽霊本人はスイーツの後に揚げ物を食べるつもりのようだ。
「果ては掌で目の前を覆ってもらったけど、それでも普通に前が見えてる様子だったね。あれで気付かないフリだったら相当の大物だよ」
「つまり、彼はなんの変哲も無い一般人だと?」
「そう」
「しかしですよ紡さん? 例えば超能力だけど霊能力じゃない、とかあって、幽霊は見えないジャンルの能力者かも知れませんよ?」
紡はコーヒーゼリーを切り崩す。
「だとしたら姫子ちゃん凶暴化が彼女本人の気質だった場合と同じ。『呪』関連じゃないなら私の案件じゃない。ユリ・◯ラーにでも頼んで」
「ユリ・◯ラーと生レバーってイントネーション一緒ですよね」
「お前のレバーを引き摺り出すぞ」
「怖い!」
桃子に呆れたのか、紡もメニューを開き始める。つばきのように立てず、テーブルに置いてページを捲る。
「そして何より、それだと毎回姫子ちゃんなことに説明が付かない」
「と言うのは?」
紡はドリンクコーナーを眺める。
「凶暴化させる気質ならもっと他の子も誰彼構わず大乱闘にならなきゃおかしい。人を操れる超能力なら直接虐めっ子を操ればいいし、人を使って撃退するにしても、女の子よりもっと強そうな男子や大人を使う方がいい」
「確かに……。はっ!」
納得しかかった桃子だが、ここで自分が納得する即ち『姫子がグレてるだけ』という結論に大きく近付くことに気付く。彼女は必死に反論材料を探す。
「そ、そうだ! 気が合うんですよ! 洗脳し易い! あぁ! なんなら姫子ちゃんは白濱少年の使い魔や式かも知れない!」
桃子の荒唐無稽な妄想に、ウエートレスさんからポテトを受け取るつばきがジト目を向ける。
「彼が引っ越して来たのは一ヶ月前ですよ。それまでも姫子ちゃんはこの街に存在して両親がいて暮らしてるじゃないですか。無茶苦茶」
「実は昔から関わりがあって、一足先に送り込まれた尖兵で……」
「はぁ……」
つばきが完全に呆れてしまったので、桃子も流石にこの方向は諦めようかと思ったその時、
「あぁ、そうか」
サイドメニュー辺りを見ていた紡が急に顔を上げる。
「どうしたんですか?」
「前々から関係があった可能性があるんだ。守り守られるような」
「正気ですか!?」
思わず言い出した桃子自身が驚いてしまう。しかし紡は飄々とした感じで
「桃子ちゃん、これ食べる?」
とか呑気に聞いてくるのだった。その指先は、ちょうどサイドメニューのコロッケの上に掛かっていた。
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