第十七話 誰が為のものか
序.
時を少し遡り、ぎりぎり夏の暮れという頃。
ここはある狭い四畳半。ごちゃごちゃと片付いていない、掃除も碌にされていない如何にも男の独り住まい。活躍シーズンを終えつつある扇風機が壁の高い位置にピン留めされた月捲りのカレンダーと大学の学年暦をはためかせる中、一人の青年がその中心でぼんやりと寝転がって天井を見ている。
ただ見ている。身じろぎもせずにただただ見ている。ただただ、ただただ見ている……。
時を戻して少し前、ある大きな一軒家。五十代くらいの女性が埃取り片手にあちこちパタパタやっているところ。なんと言っても広い一軒家なので細かい掃除は業者に頼んだりしているのだが、細かい埃だけはどうしても自分でサーチ・アンド・デストロイしないと気が済まない。
専業主婦なので時間はたっぷりある。今日も欲望の赴くままに埃を追い詰めていると、
ルルルルルル、と固定電話の呼び出し音が鳴った。
「あら、何かしら」
最高に盛り上がっているところに水を差された形ではあるが、人間社会に生きる以上そういうことは仕方無い。埃取りを一旦置いて、受話器に持ち替える。
「もしもし」
『もしもし、
「はい」
『私、
「あら! 息子がお世話になっておりますぅ」
女性は相手に見えるわけでもないのにペコペコ頭を下げながら電話していたのだが、ある瞬間を境にその動きが硬直した。女性は震える声でその原因となったワードを繰り返した。
「
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