七.スキピオ
「物理で探す!!」
ブチ切れ陰陽師☆紡ちゃんの絶叫と共に一行は別荘へ。
「桃子ちゃん金属探知機借りてこい! 警察なら出来るでしょ!」
「有休お巡りには無理ですよ!」
「そもそも金属探知機で探すものなんですか?」
図書館で静かにしてた分をギャアギャア騒ぎながら敷地に向かい、
「大丈夫ですか!? エンコしませんか!?」
「あは。エンコなんてまた死語を」
「やっぱり戦後十年製じゃ厳しいか!」
険しい山道をロボットアニメのパイロットみたいな顔でアクセルベタ踏みし(運転は式神なのに)、
「イタ車だろ! ヴェズヴィアナ鋼索線のプライドを思い出せ!」
「ヤンマ! ヤンマ! ンゴッパヤマヤ!!」
「フニクリフニクラフニクリフニクラァッ!!」
「怖いよぉぉぉ! 陰陽師と幽霊が発狂してるよぉぉぉ!」
なんとか敷地まで辿り着いた。しかしこれは地獄の一丁目、
「虱潰しにダウジングするか」
「えぇーっ!? 集落一個分をですかぁ!?」
「桃子ちゃんも手伝ってね」
「私ダウジングなんて出来ませんよ! 零能力です!」
「大丈夫。ダウジングは潜在意識でやるものだから、無能も無能力者も出来る」
「無能……」
コンビニでパック紅茶を買い込んで手に入れたストローを組み合わせて即席ロッドを作り、広い敷地を端っこから塗り潰すようにウロウロウロウロ。
「……」
「……」
「……」
「ワン!」
明らかに怪しい集団と化している三人とその間を行ったり来たりして戯れるスキピオ。
「ワン!」
スキピオが後ろ足でだけで立ち上がって桃子に前足を掛ける。
「わっ! と、飼い主が忙しくて構ってくれないから寂しいんですね。気持ちは分かりますよ」
桃子がスキピオを撫でてやっていると、遠くから紡の声が響く。
「こらーっ! 犬同士遊んでんじゃねぇーっ!」
「そんなんじゃないですよーっ! それと誰が犬ですかーっ!」
桃子が大声で返すと、別方向からつばきの声がする。
「遊んでるならいい機会なんで休憩しませんかーっ!?」
身体より気持ちが疲れている。誰も反対することは無く、三人フラフラと別荘へ退避した。元気なのは足元をグルグル回るスキピオだけである。
縁側で、試合に負けた選手がロッカールームでするように座り込む三人。ぼんやり広い庭を眺めているとスキピオがつばきの足元に絡む。見ると口には野球ボールを咥えている。
「昨日遊んであげたから『今日も遊んで』って言われてるよ」
「あは」
つばきがボールを受け取ってポーンと投げると、スキピオは尻尾をプロペラかスクリューかというほど振り回して駆けていく。
「犬可愛いですねぇ。紡さんも出所不明の鶏なんかお遣いにするより、犬を飼ってキープしときませんか?」
「あは、なんか怪しい鶏肉みたいな言い方ですね」
「駄目駄目、ウチはもう大きいの二匹飼ってるんだから」
「あはぁ?」
「なんと!」
そんなしょうもないやり取りをしていると、ボールを拾ったスキピオが戻って来ずに遠くへ行く。
「ありゃ、行っちゃいますよ?」
「追おうか。迷子になってしまったら岩下さんに申し訳無い」
休憩だったはずが犬追いになってしまった三人は、スキピオを見失わない程度にゆっくり追い掛ける。
「あー! まぁたボール埋めようとしてますよ! こらっ!」
つばきが駆け足でスキピオの元に向かう。
「あの子元気だねぇ」
「ですねぇ」
「駄目ですよぉ穴掘ったら!」
つばきがスキピオを抱き抱えて宥めるように首筋を撫でると、スキピオはじゃれ合いと判断したか、ボールを離してつばきの顔を舐めまくる。
「ぎゃっ」
「Ha-ha!」
「まぁスキピオの気持ちも分かりますよ。犬は寂しいと穴掘るんです」
「さすが、犬同士よく分かってるんだね」
「違いますぅー!
「……」
「……紡さん?」
桃子の抗議に紡が反応しない。顎に手を当てて考え込んでいる。
「犬同士……、犬同士か!」
「えっ?」
「つばきちゃんその子離してやって!」
「そんなことしたら、んっ、この子、穴掘りますよ?」
「掘らせてやれ」
「でも、んんっ! 向こうが、離れなっ」
「どうします紡さん? めっちゃペロられてますよ」
「剥がせ」
片腕の桃子にそう言い残して紡は別荘の方へ歩いていく。
「どちらへ?」
「ちょっと準備に」
「ス、キ、ピ、オ〜!」
「離れてぇ〜!」
「大きな蕪ぅ!」
桃子の謎の掛け声で遂にスキピオを引き剥がすことに成功した。
「はぁはぁ……」
「ひぃひぃ……」
「……そもそも幽霊モードになれば済む話だったのでは?」
「あっ……。……あはっ☆」
その間にスキピオはもう穴を掘り始めている。切り替えの早い犬である。
「あーあ、本当にいいんですかねぇ?」
「なんなら手伝います?」
そうは言うが桃子に止める気は無いしつばきに手伝うつもりも無い。見る間にスキピオは穴を掘って行き……
「ワン!」
「終わったみたいですね」
「おや、これは……」
「わっ!」
「なんと!」
そこにあったのは、
「何が出て来た?」
「ぎゃっ!」
「びっくりした!」
紡が戻って来たようだ。急に声を掛けられて飛び上がる二人。何故声を掛けられただけでってそれは……、
「つ、紡さん! 骨! 動物の頭蓋骨埋まってたんですよ! 動物の! 骨!」
「だよね」
「だよね!?」
「犬の骨だよ」
紡は桃子をそっと押し退けると、スキピオが掘った穴に長方形の紙を置いた。
「それは……」
紙には読めない文字とよく分からない図? 柄? が書いてある。
紡は手で印を組むと、
「『オン・シュチリ・キャラロハ・ウン・ケン・ソワカ』」
静かに微かに唱えた。
「……うん。これでいいでしょ」
「そうなんですか?」
「あっ、スキピオ……」
つばきの声で視線を下ろすと、スキピオが穴の中にボールを置こうとしている。
「こら、およし……」
桃子がボールを取り上げようとすると、スッと紡の手がそれを制した。
「紡さん?」
紡は黙って頭蓋骨を撫でると、
「この子にあげたいんだよ。入れさせてやりな」
スキピオがボールを置くのをじっと見ていた。
スキピオはボールをコロンと穴に落とすと、
「クゥーン……」
伏せて鼻をピスピス鳴らしている。そんな彼の背中を紡が撫でていると、
『〜♪』
「紡さん、携帯なってますよ」
「あ、うん」
画面を見ると相手は唯だった。紡はちょっと二人から離れて通話を開始する。
「もしもし、はい、はい、そうですか! よかったですね、はい。えぇ、まぁこちらも、やることはやりました。はい。では後程」
通話を切った紡は二人の方を振り返る。
「岩下さんのご家族、目を覚ましたって」
「本当ですか!?」
「あは!」
急な吉報に、伏せていたスキピオも起き上がって「ワン!」と吠えた。
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