六.敷地の正体
一行はまず病院に来ている。紡は昨日の仙服の猩猩緋が
それはさておき、病院に来ている理由は倒れた佑の様子を見る為である。医者の診断は母も佑も「父と同じ」とのことであるが、一応紡からも同じ因果かどうかチェックするということだ。
「同じものがいると見て間違い無いでしょう」
「そうですか……」
俯く唯。なんとかしたい桃子は紡に提案する。
「紡さんなら無理矢理引っ張り出せないんですか?」
紡は腕を組んで考えると、
「エクソシスト系の映画見たことある?」
「二度と見ません」
「悪魔を引っ張り出すのに、聖水かけたり聖書やロザリオ押し付けて『自分の名前を言わせる』とか『神への屈服を誓わせる』とかやってるじゃん。でも日本の憑き物落としに名乗らせるような手順は無い。つまり、相手によってやり方というのは違う」
「つまり?」
補足するのはつばき。
「正しい方法を使いましょう。金庫の鍵が開かないからってダイナマイトはねぇ。どうなっても知りませんよ、と」
「あぁー……」
「やめて下さいそんなの!」
補足を聞いた唯は真っ青になって声を上げた。
「つまり、相手が分からない限りは大胆な策に出れない、と」
「そうなるね」
「見当は付いてるんですか?」
「うーん……」
弟も倒れ、進展も
「お願いです! 早くなんとかして下さい! このままみんな目覚めないなんてそんな!」
「それに貴方も危険ですからね。努めます」
口ではそう答えるも、紡だって少し困った表情をしている。額に指を当ててぶつぶつ呟く。
「気になるのは会社のこと」
「会社ですか?」
「何故この『呪』は踏み入った相手に祟るに際して、まず本人ではなく遠い会社の方から障りを起こしたのか」
「偶然じゃないですか?」
桃子はなんとなく佑の顔を見る。意識は無いが苦悶に歪む表情を見て思わず目を逸らし、目に入ったのは
「おや、佑さん左利きですね」
「えっ」
「だってほら、右耳にちょっとした傷が。利き手じゃない方で耳掻きするから上手く出来なかったんですね」
確かに佑の右耳の穴周りに細かい掻き傷のようなものが。どうだこの名推理! 桃子はドヤッと胸を張る。
「いえ、佑は右利きですけど」
「なんと!」
「あは。大体耳掻きでそんな傷付きますか。
「やだ痛そう」
唯もちょっと笑ったので、紡もなんとなく気楽になったかこっちを向いた。
「そもそも左利きだったらなんなのさ」
「いえ、剣道は左利き有利な競技なので、羨ましいなぁと」
「すごくどうでもよかった」
そう言いつつ紡はなんとなく佑の傷を確認して、
「……」
「どうしました?」
紡は額に手を当てる。
「うぅふぅふぅふぅふぅふぅ〜、
「誰が今泉ですか。それとその間伸びした喋り方はなんなんですか」
「さ、図書館に行こうか。すいません唯さん、ちょっと失礼します」
「あ、はぁ……」
図書館に着くなり郷土資料を根こそぎテーブルに並べ読み漁る三人。もちろんあの土地について探っているのだが、
「なんか見付けた?」
「いえ、まだなんにも……」
現代から遡る桃子、江戸時代を漁る紡、江戸以前の散発的な資料を洗うつばき。
「あっ」
「どうしたつばきちゃん」
「あそこは集落だったんじゃないですか? ほら、ここに『元々は山裾で川に添う形で発展してきた村だったが、鎌倉時代末期に何人かの村人が独立して山に登り、中腹に新たな集落を作った』とあります」
「やっぱりか! でかしたつばきちゃん!」
紡はつばきを、図書館なので囁くように褒めながら抱き寄せ頭を撫でる。
「よしよし、ここまでは読み通り。後は、桃子ちゃん集落の航空写真とか載ってない?」
「いやぁ〜……、どれも既に今の更地状態ですねぇ」
「そうか……」
紡は自分の資料に視線を戻す。
「写真がいるんですか?」
「地図があればベストだけどね……、んっ」
「どうしました?」
「これ」
紡が資料の一文を指でなぞる。
「なになに? 『江戸時代中期頃、
「どういうことか分かる?」
「これで興奮している紡さんは背徳的変態、ということは」
「殺すぞ。これは個人間の交流すら無いほど徹底して関わらなかったってこと。つまり決して触らない、完全に『えんがちょ』だったわけだ」
「つまりここに今回のヒントがあると」
「それだけじゃありませんね。霊障があったのなら住人達も土地を捨てるはずです。ですが彼らは近親交配してでもここに留まっている。つまりえんがちょされる原因は彼ら自身にあったわけです」
「つまり、人為的な『呪』だ」
紡が不敵に笑う。
「そして大体正体も分かった」
「本当ですか!?」
「だからこそ解決の為に、集落の地図かせめて航空写真が欲しいところなんだけど……」
「そういうことでしたら、頑張って探しましょう!」
「しーっ、ここ図書館」
「声が大きいよ」
「しゅみませ……」
しかし快進撃はここまで、肝心の地図が見付かることはなかった。
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