第9話 教室への帰り道
「もーほんとつまんなかった〜!」
「内職すればいいじゃない」
「成績落ちたらパパが怒るからやだ」
(今日はいい出会いがあったなぁ)
「「「あ」」」
3人は、教室への帰り道で出会った。
当然のように律玖と会話をする凌史に、薫は驚いた。
「あ……怒留湯さん……だよね? 入学式で挨拶してた……なんで楽々浦くんと一緒に?」
「あぁ、こいつ? 幼馴染なのよ」
「そーそー! 撮影現場で出会ってから、ずーっと仲良し!」
「そんなんじゃないわよ。ただの腐れ縁」
こんな異色な幼馴染があるんだなぁと、薫はしみじみ思う。
「凌史が中等部にいるって聞いて、こんなアホでも入れるなら、っと思って試しに受けてみたら、上手く行っちゃって。公立の学校も一応受かってたんだけど、結局、レベルの高い授業を受けてみたくなって、ここを選んだの」
「またまた〜、ボクがいなくて寂しかったくせに〜」
「うるさい」
仲がいいのか悪いのかわからない。
「あ、お疲れ様〜」
廊下の端から音楽室から帰ってきたハルカが呼びかける。
肩にはクラリネットのケースを引っ掛けている。
「凌史くん、演技指導どうだった? やっぱり中等部のときとは違う?」
「まぁなんか、やっぱレベル低いなぁって感じかなぁ……絶対あの先生よりボクの方が演技上手いと思うんだよねぇ……」
ナルシストなのではない。事実である。
物心ついたときには、すぐそばに演技があったのだから。
「薫くんは?」
「本当に楽しかったよ。全員手加減なしでドッヂボールしたんだけど、人生で一番楽しかったかも」
「そんなに〜?」
屈託のない笑みを、ハルカは浮かべた。
「ん……なんか意図せずさっき呼ばれた人間が揃っちゃったわね」
空気が一気に静かになる。
「出会ってすぐの人間をバケモノ呼ばわりする、あの軽率な女ども然り、私たちちょっと嫌われてるみたいね」
「も〜、ほーんとにあーいう人たちヤダ! 妬ましいなら実力で黙らせにくればいいのに!」
凌史はわかりやすくほっぺを膨らませる。
「卑怯……だよね。僕と楽々浦くんは身体能力高いから怖いのかな……? 怒留湯さんは……イジメても正論で武装できるからね」
「ま、私、一応かなり気も強いから、きっとあのバカどもには勝てるわよ」
「そ、そっか……」
「だからってハルちゃんのこと狙うのはさ! ずるいよね! 卑怯じゃん!」
「ん……でも、わたしの気が弱いところとか、自分に自信が持てないところとかそういうところが悪いと思うから……」
ハルカはうつむき気味にそう言った。
「……ねぇ、あなた喜久嶺さんって言ったわよね?」
律玖が、はじめてハルカに話しかける。
「気が弱い、自信が持てない。それって、言い換えると謙虚ってことよ。ここまでの才能を持っているのに、それって、本当に素晴らしいこと。私から言わせて貰えば、きっと、否、絶対に、悪いのは天狗になってる人たちよ」
今までで一番柔らかい表情で、律玖はそう言った。
「そう……かなぁ……?」
「えぇ、私が保証するわ」
「ボクも!」「じゃあ僕も」
4人は話しながら教室に向かって、再び歩き出す。
「なんかさ! この四人なら、すっごく仲良くなれそうだね! りっちゃんがこんな優しくなるの、いい人に対してだけだもん」
「うっさいわね……でも、間違ってないわ。喜久嶺さん、とってもいい子みたいだから」
「えっ? ありがとう! すごいね、ちょっと会話するだけでわかるんだね」
「まぁ……なんかそんな気がするだけよ」
「というか……出会ってすぐの僕に話しかけてくれた時点で、すごくいい人だと思うよ」
段々とハルカの顔が赤くなっていく。
「それに、なんかすごいよね。僕たち、苗字の最初の字を取ると喜怒哀楽になるんだよ」
「それ、言おうと思ってたんだ! すごいよね、運命かもしれないよ」
「入学式のとき、名簿を見たときに思ったんだけれど、うちのクラスの人たちみんなそうじゃない? 苦路くんとか狂花さんとか……みんなどこかしら感情とか気分に関する漢字が入ってるのよね」
「えーじゃあみんな運命だよ! みんな仲良くしよ!」
「「「無理そう……」」」
「えー! いいじゃん!」
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