特別編:「実写デビルマンを観ましょう!」

 動画配信サイトGYAO! にて映画デビルマン無料配信中!

 2022年5月31日(火) 23:59まで!


「カケルくん。実写デビルマンを観ましょう!」

「い、いきなりなんですかこよみ先輩!? いつもの創作雑談はどうしたんですか!? しかも冒頭の掴みからして実写デビルマンとか難易度高くないですか!?」

「ほう。ではカケルくんはデビルマンを観た事があるのですか? 原作漫画でもなく、TVアニメでもOVAでもなく、Netflixにて配信されているcrybabyでもなく、2004年に公開された実写映画のデビルマンのことですが」

「……デビルマンについては、家に文庫版があったから原作漫画だけは読んでます。実写映画は……存在だけは知っています。なんでも、ひどく評判が悪いとか……」

「ええ。ええ。ハッキリ言ってとてもひどい出来です。間違いなく映画史に残るひどさでしょう」

「……なんで。わざわざつまらないとわかっている映画を観なければいけないのですか?」

「あらゆる反面教師になるからです! 実写デビルマンは、やってはいけないことが全部描かれています! これ以上の参考資料は有り得ません!」

「…………」

「お? 引いていますか? 若干引いていますね? 大丈夫ですかカケルくん?」

「ドン引きしてるんですよ……今日はもう体調悪いんで帰って良いですか……?」

「ダメですよカケルくん。許しませんよカケルくん。ほら。この通り。今日はポケットwifiとタブレットPCを持ってきています! 今ここで私と一緒に実写デビルマンを観てください」

「ウワー! 用意が良すぎる!」

「ほら。タブレットPCは画面が少し小さいのですから、お隣に失礼しますよ。肩をくっつけましょう」

「ウワー! いつもより距離を詰めてくる!」

「図書館では静かにしなければいけませんからイヤホンを使いましょう。私が右を使うのでカケルくんは左です。半分こしましょう」

「ウワー! 女の子と一度やってみたい系イベントをどんどん消化していく! これで観る動画が実写デビルマンじゃなければ完璧なのに!」

「さっきからいちいちうるさいですね! 静かにしないとその唇塞ぎますよ!?」

「……ッ! わかりました。観念します。静かにしますから。実写デビルマン一緒に観ましょう……」

「わかればよろしい。では、再生しますね」


「あ、ここから先は実写デビルマン及び原作漫画デビルマンの内容についてのネタバレを含みます。なので、これより下を読む人は実写デビルマンを観てから読むか、ネタバレについて了承した上で読んでから、実写デビルマンを観てください」

「実写デビルマンを観ないという選択肢は認めないんですね……」

「ほら。ついでにGYAO!の試聴ページのURLも貼っておきますから」


https://gyao.yahoo.co.jp/title/62455c40-a6d5-40e3-a8fb-692cd6126cc9


「絶対に逃がさないという意志を感じる……」

「2022年5月31日(火)23:59 まで無料ですよ! またとないチャンスですよ!」


――だいたい二時間後


「……どうでしたか? 実写デビルマンは」

「なんというか……思ったより凄かったですね」

「そうでしょう。そうでしょう」

「なんで満足げなのかはわかりませんが……なんというか、少なくとも『原作読んでない』人による映画ではないんですよね。原作の設定や台詞をなぞってはいるし、細かいアレンジや省略はあってもだいたいストーリーは原作通りなんですね……」

「シレーヌがアモンに対し恋愛感情があったという設定も拾っていますしね。オリジナルキャラや設定をねじ込んでストーリーがめちゃくちゃになった系の映画とはまた違った話なんです」

「原作漫画のストーリーを一応踏襲しているのに、どうしてこんな出来になってしまったのか……」

「それについては、ここ以外にも様々な人が考察、検証してくれているので、そちらを調べてみることをオススメします」

「ん? じゃあこよみ先輩は何をするんですか? ただデビルマン観ただけですか?」

「いいえ。もちろん私も実写デビルマンの感想を言いますよ。しかし、一点のみに絞ります。ただ一点だけです」

「なるほど。その一点とは?」


「制作陣に、同性愛者がいなかったのが一番の問題です!」


「……なんて?」

「はい。つまり実写デビルマンのスタッフは、原作デビルマンにおける同性愛要素を理解できていなかったのでは? という話をしているのです」

「はあ……いや、でも普通の人は……その、同性愛を理解するのは難しいと思うんですけど……」

「そうですか? そうでしょうか? けれど原作デビルマンの物語については、飛鳥了が不動明に向けた『特別な感情』なしに語ることはできないハズです。そうでしょう?」

「まあ、それは、そう……ですね。あの漫画結局全部サタンが悪いので……」

「原作デビルマンでは、その『特別な感情』についてサタンが『私が両性生物だったから』と語っていましたが……これは理由になってはいませんよね? 『なぜ彼を愛したの?』と聞かれたのに『私が女だったから』などと言っても、それは答えでもなんでもありません」

「まあ確かに。何か説明してるようで何にも説明してないよなって気はしてました」

「飛鳥了は男だったとしても不動明を愛していましたよ! CBキャラウォーズの説明書でもホ〇って呼ばれてましたもの!」

「そ、そんなマイナー過ぎる公式パロディ作品の一部分の設定だけ持ってこられても!」

「しかし残念な事に、実写デビルマンではこのような同性愛的描写は抑えられています。了と明は幼馴染で、同じ顔。そして了は自身を怪物だと思っていて、明も仲間になって欲しいと考えています」

「実写デビルマンの了は最初から、自分をサタンだと認識していたのですよね」

「それにしては……という部分がないわけでもありませんが、一応そうだとしておきましょう。実写デビルマンでも、了は明を守るために行動します。明以外は基本的にどうでもいい感じです。美樹ちゃんに嫉妬してるような感じもあります」

「そういうのも愛ではないのですか? 原作の水着回でも美樹ちゃんに嫉妬していますし」

「ただこれ……『兄弟』のテンションなのでは? とも感じるんです。弟に彼女が出来て、遊んでもらえなくなってスネてるお兄ちゃん……そういう風にも見えるんです」

「うーん。それは、見方の問題ではないですかね……?」

「ラストシーンの教会。全てを失い悲しみにくれる明。そこに『白い』スーツを着て現れる了。正直、このシーンの作り方は素晴らしいと思ったんですよね私。結ばれるための場所で、結ばれるための服を着て現れ、しかし愛する者と『決別』しなければならない了! こんなに悲しく美しいシーンがあるでしょうか?」

「あれ……そう言われると良いシーンな気が……」

「明が『黒い』喪服を着ていれば、その見立ても完璧だったと言えるんですけどね……明が着ていたのは普通のパーカーです。黒くもないです。だから明の白いスーツがなんか浮いているし、かみ合ってない感じになっちゃってるんです……」

「直前に美樹ちゃんを抱えていたし、喪に服しているのは間違いないんですけどね」

「『新しい世界に俺と一緒に来い』というセリフも、なんかプロポーズというよりは兄弟ゲンカのノリなんですよね……」

「なるほど。なんか問題点がわかってきました」

「実写デビルマンが『同性愛』描写を避けずに描いていてくれれば、了関連のおかしさも解消された……とまでは言えません。しかし『これは同性愛ではありません!』という言い訳のために冒頭やラストの回想にある『明と了の幼少期』がねじ込まれているのだとしたら、それが大きな歪みの一つなのでは? と」

「ちょっと、結構、興味深い意見かもしれません」

「まあ、私の話はそんなところです。ひどい作品ですが、面白いですよね。実写デビルマン」

「いやあ……デーモンになっちゃいましたよ……ぼく……」

「違いますよ。あなたは人間の心を持つデビルマン……身体はデーモンだけど、心は人間です……!」


『ハッピーバースデー! デビルマン!』

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