「双子キャラについて考えましょう」
むかしむかし。
嘘。そんな昔の話じゃあないよ。
「カケルくん。カケルくん」
「はい。こよみ先輩」
「起立しなくても大丈夫ですよ。ところで、私が『カケルくん』と呼ぶのも二人称ですね」
「そうですね。ぼくもこよみ先輩を『こよみ先輩』と読んでいます。『ぼく』が一人称で、『こよみ先輩』が二人称ってことですか」
「加えて言うなら二人とも『丁寧語』の口調ですね。私の方は若干、慇懃無礼ですが」
「口調。変えた方がいいッスか? やっぱ違う方が読みやすいのぜ?」
「それはやめておきましょう。この図書館には私とカケルくんしかいませんからね。お互いが主人公であり、お互いがヒロインということになります。主人公とヒロインであれば、口調以前に存在するレイヤーが異なりますので、さして問題は生じないと思います」
「こよみ先輩が主人公だったら、ぼくはヒロインなんですか? なんかそれってちょっと違くないですか?」
「あら。そう思いますか? では『主人公』であり続けられるよう頑張ってください。そうすれば『ヒロイン』なんかにならずに済みますよ」
「……がんばります」
「ではお話を続けましょう。双子のヒロイン。その設定を詰めていきましょうね」
「うーん……でも考えると『双子の女の子』って以上は掘り進めた設定は考えにくいなあ……こういうのって、生年月日とか血液型から決めた方が良いのですか?」
「オススメは出来ませんね。確かに生年月日や血液型を決めれば占いには使えましょうが、双子だったら誕生日も血液型も出身地も同じでしょう。性格の差異を決める要素にはなり得ません」
「あ、そうだった……星座占いとか血液型占いってこういう時アテにならないんですね……」
「……ではコンセプトに立ち返りましょう。『たくさんの女の子と仲良くしたい』というコンセプトなら、『どんな女の子と仲良くなりたいか?』という話から始めてみましょうか」
「え。作者のシュミでいいってことですか?」
「無論です。作者自身萌えていないキャラクターを、どうして魅力的に描けましょうか?」
「ふーん……と言っても……ぼくは、ぼくのこと好きな人だったら誰でも好きかなって……」
「……童貞臭い意見ですね」
「辛辣!」
「では『どんな風に主人公のことが好きなのか?』という感じで詰めていきましょうか。『好きな人』について、誰でもいつでも同じ態度をとるとは限りません。何かを共有したり、何かを渡したり、あるいは守ろうとしたり、逆に攻撃的になったり、束縛しようとしたりするかもしれません」
「何かを教えようとすることも、ですか?」
「否定はしませんよ。私はカケルくんのことは、憎からず想っていますから」
「…………」
「こら。自分から仕掛けておいて照れるのはよしなさい。逆に恥ずかしくなってしまうでしょう」
「ああ、でもなんか『共有』と聞いて思いつきました。『食べ物を半分こにして分けてくれる』っていうのはどうでしょう。そういうの結構好きかもしれません」
「良いですね。石器時代であれば、共同体で、仕留めた獲物を分け合う世界でした。共に猟に出るハンターであれば、食べ物を分け合うことは自然とあることでしょう」
「それだ。元気で活発で、ビキニで巨乳のハンターです!」
「あれ。いつの間にビキニが出てきたんですか?」
「動きやすい服装の方が狩猟には便利ですよ!」
「……確かにそうですね。まあ私も石器時代風の異世界に、ビキニがあるかどうかなんて話にツッコミをいれるほど野暮ではありません。では、双子のもう片方もハンターなのですか?」
「それも良いとは思いますけど……片方を活発なギャル系ってことにするなら、もう片方はちょっと違ったキャラ付けにした方が良いかなって……」
「ええ。その通りです」
「わかってきました。ギャル系の反対だったら清楚系だと思います。服装もビキニとかミニスカートではなく、丈の長いワンピースとかのが良さそうです。そうなると、ハンターではない別の仕事をしてると思うのですけど……」
「そういうことでしたら『シャーマン』などはどうでしょう。自然と対話し、病気の治癒や狩猟の成功を祈る巫女です。ハンターと違い村で働く職業なので、機織りなども行っていたかもしれませんね」
「それですそれです。シャーマンならハンターとはまた違うファッションになると思います。巨乳の巫女さんです!」
「姉妹二人とも巨乳で行きたいのですね」
「ロマンですから!」
「では二人のタイプが大まかに決まりましたね。『ギャル系のハンター』と『清楚系のシャーマン』の二人です」
「……ここまで言ってなんですけど、双子の髪の色とか肌の色って合わせなくちゃダメですかね?」
「意見を、聞きましょうか」
「まず。ギャル系ハンターというと、褐色肌で金髪ロングな女の子が浮かんだんです。それから清楚系シャーマンというと、褐色肌は同じなのですが、銀髪ショートって感じがしたんです。これって、アリなのですかね?」
「アリです」
「アリなんですか?」
「理屈で言えば、確かに双子で髪や肌の色が違うのは変でしょう。しかしこのお話はファンタジーの世界ですし、遺伝子の在り方が地球とは違うのかもしれません。あるいは、後天的に髪の色が変わってしまったという設定も考えられます」
「な、なるほど……」
「理屈と膏薬はどこにでもつけられるものです。肝心なのは、コンセプトを満たし得るかということです。優先すべきはそちらです」
「うん。わかりました。なら次は口調を決めるとして……ここまで来たらギャルの方は一人称が『あーし』で、くだけた口調でギャル語とか使ってほしいし、清楚系は一人称『私』で、丁寧な言葉でたまに毒を吐くような感じにしたいですね」
「いいですよ。いいですよ。あなたの感情が見えてきます。高まりを感じますね」
「それならば……次は肝心の名前ですね。どうしましょう? 元々は『リーネ』と『ディーネ』って考えていたのですけど……」
「それも正直そう悪くはありませんよ。ただ、双子とはいえ語感が似すぎていると。名前の区別がちょっと難しい場合があります。リーネとディーネは〇ーネで語感が同じですね」
「せっかく褐色金髪ギャルハンターと褐色銀髪清楚シャーマンに出来たのですから、似合いの名前を考えてあげたいですねえ……」
「金と銀……太陽と月……アポローンとアルテミス……」
「太陽と月? サンとルナって感じですか? いいですね。それ」
「……あはは。私が、難しく考え過ぎていたようですね。少々ありきたりにも見えますが……サンとルナなら語感はカブっていませんし、キャラクターのイメージにも合うし、二文字ゆえに外国語っぽさも少なくて良いと思います」
「やった。では完全に決まりですね。ギャル系のハンター『サン』と、清楚系シャーマンの『ルナ』。この双子が、ヒロインですね」
「ええ。それでとりあえずは、ヒロインはOKでしょう」
「ではカケルくん。そこにあなたのことが好きな女の子が二人もいます。カケルくんはどうしますか?」
「……ちょっと、いきなりは……目を合わせたりするのもちょっと怖いんで……」
「それも大変いじらしいのですが、せっかくなんですからお話をしに行きましょう。一緒に遊んだりしましょう。つまり……次は起こり得るはずの『イベント』を考えましょう」
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