「物語を彩るヒロインを考えましょう」
むかしむかし。
嘘。そんな昔の話じゃあないよ。
「こよみ先輩。こよみ先輩」
「どげんしよたですかカケルくん」
「いきなりナマらないでください。こよみ先輩。言われた通り今日は、ヒロインの設定を考えてきました」
「おや。思ったより早かったようですね」
「ふふ。心して聞いてくださいよ。今度は結構自信があります!」
「大した自信ですね。見せてもらいましょう」
「とはいえ。もう一度確認したいのですけど……嫌じゃないですか?」
「何がですか?」
「いや、だから……こういうのってほら、男にとって都合の良いヒロインってことになりますよね? そういうキャラクターって、女性には結構嫌われるんじゃないかなって」
「ふむ……まあ中にはそういう人もいるでしょうね。女性蔑視のような価値観も含まれることもあるかもしれませんし」
「はい……」
「ただ私は気にしてません。創作は創作。現実は現実。二つの思想、哲学は互いに影響を与えあうモノではありますが、それらが同じである必要はどこにもありません」
「それはそれ。これはこれと?」
「もっと具体的に言うと。私はとにかくおっぱいが大きい女の子が出てくると嬉しくなります。片方のお乳がお顔と同じくらいの大きさまでアリです」
「許容範囲クソデカすぎません!?」
「そうですかね? 流石に私も300cmを超えると難しくなるのですが……」
「待て待て待て! 『顔と同じ大きさ』が下限って意味だったの!? 性嗜好の暗黒大陸か?」
「……というのは流石に冗談です」
「どっからどこまでが冗談か……いや、いいです。そろそろお話をしましょう」
「ええ。そうしましょう。そうしましょう」
「まず。ヒロインは双子にしようと思います」
「なるほど。素晴らしいですね」
「たくさん女の子を出していきたいというのは当然あるんですが、順番に一人ずつ登場させるのではとても時間がかかります。女の子も二人一緒に来てくれる方が、話の展開もしやすいと思って」
「いいですよねえ。双恋。私は沙羅ちゃん双樹ちゃんが特に好きで……」
「? 何の話ですか?」
「……何でもありません。続けてください」
「まあ、はい……ええと。双子は主人公と同じくらいの歳……十代半ばくらいですね。ほとんど男の子を見たことが無かったので、二人とも主人公に興味津々です」
「そう。そのあたりは私も評価していた部分ですね。『現地の住民は男の子をほとんど見たことがないが故に、男の子に興味津々』という点。主人公が多少受け身であっても、必然的に女の子と良い感じの展開になると期待できます」
「さらに。二人は主人公が恐竜を素手で殴り倒すのを見ているので、ますます主人公のことが好きになります。この世界の女の子は、強い人が好きなので」
「シンプルで良いと思います。狩猟採集型の社会では、より多くのエモノを仕留めてくる男の方が人気が出るのは当然ですからね」
「けれど、主人公にとっては少し困ったことに、二人とも無防備なんです。主人公が見ていても平気で服を脱いで水浴びしちゃうとか。見られて怒ったりはしないんですけど、それ故に主人公が余計にいたたまれなくなっちゃうんです」
「ふむふむ。石器時代ですからね。あるいはエデンのリンゴを食べる前の、羞恥心を持たない無垢なる人類なのかもしれませんね」
「無邪気なのはいいのですけど、二人とも歳相応に、健康的で……その、巨乳だったりなので、主人公はさらに困っちゃうと」
「なるほどなるほど……」
「……で、それだけですか?」
「え、あ、はい……? あとは名前とかも考えたんですけど……」
「名前は後で良いです。それより……口癖は考えていましたか?」
「口癖……? なんか、決め台詞的な奴ですか?」
「そうとも言えますが、それだけでもありません。いわゆるライトノベル、キャラクター小説に於いて、口癖はある意味キャラクターの容姿や名前以上に重要な設定なのです」
「ううん……確かに。小説は常にキャラクターの顔が見れるわけじゃないですからね」
「まあそこまで難しく考えずとも『一人称と二人称』そして『口調』で区別すれば十分だと思います」
「ふむ。それじゃあ同い年くらいの女の子だし、普通に一人称は『私』で、主人公のことは『あんた』、それで口調は語尾に『~わよ』ってつける感じの……」
「ギャラクティカマグナム!」
「BAKOOOOOOOOOOM!?」
「ふう……ギリギリまで我慢していましたが、ついに耐えきれず超必殺技を使ってしまいました。私も精進が足りませんね……」
「え、何!? なんでぼく今殴られたんですか? ヘンな効果音までつけられて……」
「カケルくん。私は言いましたよね? 最高に高まるヒロインを考えてきなさいと」
「はい……」
「そしてコンセプトも決めていましたよね? 女の子にモテモテなハーレム展開が欲しいと」
「はい。だから双子を……」
「性格も容姿も同じ雰囲気の双子を出してどうするのですか!」
「えっと……」
「たしかに! 双子キャラの魅力は『そっくり』であること! いつも一緒に行動して、何もかもを二人で分かち合うこと! そういうかわいさがあるのはわかります!」
「いいですよね。双子キャラ」
「ですが! そういったキャラクターデザインは『女の子にモテモテなハーレムモノ』というコンセプトに反しているのです! 貴重な女の子キャラクターの枠を『同じような』女の子で二つも埋めてしまうのは得策ではありません!」
「……は! そうか! 双子キャラってアピールするには、常に二人で行動しなきゃいけないじゃないか」
「そう。そしてそうするにしても、容姿にも口調にも目立った差異が無いため『書き分け』にも問題が生じます。同じシーンに出すと、どちらが喋っているかわからなくなってしまいますよ?」
「確かに……双子でも別々の人格を持っているんだから、個性も違っていた方が良いのですね……」
「特に小説はキャラクターの『性格』が前に出やすい表現形態です。『見た目は同じだけど、性格や口調はまるで正反対』という双子も活かしやすいハズです」
「なるほど……それならぼくも、双子の性格は逆ってことにします」
「いいえ。少し待ってください。それでも『男の子に興味がある』という部分は共通して持たせるべきです。これはコンセプトに立脚したキャラクターデザインであり、これと矛盾した個性を持たせる必要はありません」
「そうか……何もかもコンセプトなんですね……」
「その通りです。最初にコンセプトを決めたのにもそこに理由があります。コンセプトはいわば、ルールを作るためのルール。憲法だと思ってください。憲法に反する法律を作る事は出来ません」
「……仮に。もしぼくがコンセプトを『女の子のハーレム』ではなく『石器時代のサバイバル』と決めていたら、どうなっていましたか?」
「その場合は『双子の姉妹』の個性が薄いことは、そう大きな問題にはなりませんね。キャラクターより世界観設定の方を先に出してもらうつもりでした」
「そうだったのですね……」
「コンセプトによって、考えるべき順番、優先すべき項目は変化します。『何から考えるか?』と検討する時すでに、そこから創作は始まっています」
「わかりました」
「ではもう少し、この双子姉妹の設定を詰めてみましょう。せっかくのハーレムモノなんですから!」
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