平凡記
@cucum
第1話
「えーー、ここで筆者が伝えたいのはー、
そうだねぇ、、なんだと思う?じゃあ
北村」
自分で答えを教えるかと思いきや、メッシもびっくりのスルーパス。暖かい春の日差しが差し込み、爽やかな風が頬を撫でるこの5時間目に現代文などやるべきでない。可哀想な北村くん、南無三。
「えっと、これからの時代はコミュニケーションが大事です的な感じっす」
薄い。あまりに薄すぎる。名前を呼ばれるまで寝ていたと言えど、さしあたり数行あたりで読み取れる内容である。
「そのコミュニケーションの重要性はどこから生じたものなのか、それを答えなきゃ」
やはりさすがに厳しい。北村くんはだんまりを決め込んでいる。
「んーーーじゃ、相田。答えて」
番号順で進む名指しの質問に慢心していたのにまさか隣の席にくるとは考えなかった。
「はい、、。えー、、テクノロジーが発達して対面しなくても会話できる今だからこそ、会って話すことが大切ー、みたいな」
これじゃ北村くんの付け足しをしただけではないか、人の事を笑えない薄さだ。
「まぁ相田の言いたいことは、割合合ってるがもっと詳しく言うなら、SNSが生んだ利便性と共に失った我々の意志がー#☆♪×○…」
意識が遠くなる程につまらない話を無駄に良い声で説いてくる。既に何名もの方々がお空で船を漕いでいる。
この光景は別段今日だからこそ見られるものでは無い。授業が1時間目でも6時間目でも見られるものだ。現代文という教科の所為でもあるが、皆この教師に苦手意識を持っているようだった。別に怒ったりはしないし、ただ淡々と授業を進めていくが、その淡々さが日々刺激を求むる高校生たちには物足りないのであった。
だが、私はこの教師が好きだ。それは決して恋愛感情なんてものではなく、俗に言う推しのような存在であった。
定年間際の毎日同じグレーのスーツを着こなす彼は、ネクタイだけ柄の入ったものを日替わりでつけていた。そんな所も可愛いと思い、友人に共感を得ようとしたが、奇異の目で見られるのみであった。
私の周りの友人も皆推し先生、所謂推しセンを作っているが、大概若いイケメン風の先生である。因みに1番人気なのは数学の寄谷先生だ。まだ新任で初々しさもありながら、授業は分かりやすく好評らしい。他には、体育の佐々木先生や英語の加藤先生も人気だ。
私にはその魅力がサッパリ分からない。まぁ逆も然りだとは分かっている。
なぜこの教師が私の推しセンなのだろう?と真剣に考えながら、隣で寝ている北村くんの膝をシャーペンでつついた。
平凡記 @cucum
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