ある女

筆者のあとがき

 私がその高校生からの相談を受けたのは、四月の下旬ごろだっただろうか。

 何度目かのひどくバズったツイートに、「あたしの体験を小説にしてください」とコメントをくれた女の子がいた。


 初めて受けた類いの相談だった。どこか困惑しつつも、私でよければ、という気持ちで承諾すると、彼女は40ツイートを越える丁寧な説明で、自分の窮状を説明してくれた。

 内容は壮絶だった。私自身被虐待児であるし、それなりの話は聞いてきたつもりだ。しかし、彼女の話は想像をはるかに絶するものだった。実親からの虐待と、里親からの過干渉・モラハラ。彼女の心は折れてしまう寸前のところにあった。必死のSOSだったのだろう。

 この小説は、彼女の体験に、私なりの脚色を織り交ぜたものである。個人を特定するのを防ぐためにフェイクを入れていることと、具体的な状況のイメージにはどうしても私の想像と主観が入ることをご了承願いたい。しかし、彼女の受けた精神的・肉体的暴力は、できる限り彼女の言葉を使って書いたつもりだ。

 彼女は「なるべく多くの人に、こういう家もあるんだってことを知ってほしい」と話した。「子どもを愛する親ばかりではないんだってことが知られてほしい」と。

 彼女が私に小説を書いて欲しいと依頼したのも、その一心だったのだろう。


 小説を書き始めてから、件の女の子は私に相談もくれるようになった。多くは、里親から受けた被害の報告であり、ある種愚痴と言えるようなものである。里母さんからの過干渉、冷たい態度をとられるとパニックになりそうなこと、家に帰るのが怖いこと。スマホを勝手にみられること。どれも度を越えた精神的支配が見え隠れし、私は早々に外部機関に相談するよう勧めたが、帰ってきたのは「私なんか」という激しい自己否定だった。「私が悪いんですごめんなさい」と繰り返す彼女は、外に向かっていくことそのものにトラウマを持っていた。これ以上勧めるのも酷かと思ったが、自分には話を聞くことしかできないのが歯がゆかった。

 インターネット上の情報から虐待の通報をすることは難しい。せめて住所と名前がわからなければ、諸機関も動くことができない。だから、彼女が現状から脱するためには、彼女自身が動くしかない。けれど、彼女は戦うための手足をもがれている状態にある。初めて経験する類の悔しさだった。


 そのうち、私とつながっているタブレットも監視され始めたと彼女は言った。それから数日たって、連絡がぱたりと止んだ。彼女が相談していたという他の人からも、最近連絡がこないと心配のメッセージをもらった。Twitterのアカウントも消されているようだ。

 インターネットというつながりの希薄さを、改めて思い知らされた。


 どうかあの子が、今も元気でいますように。

「看護師になるのが夢なんです」と無邪気に語ってくれた夢を、叶えられますように。

 どこかであの子が見ていることを願って、祈りと共に最後の一文とする。


ゆきこ

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親ガチャに2回失敗しました 澄田ゆきこ @lakesnow

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