20 清算

 商人たちはホブゴブリンが落とした宝箱を確認する。


「宝箱に罠はない」

「カギもないわね。開けるわ」


 中身は大量の魔石とハンマーだ。


「魔石はおよそ三百。ハンマーには【強度強化】が付与されている」

「ねえ商人。それって、いいものなの?」

「品は悪くない。壊れにくくなるという効果だ。価値は魔石五百だ。両手持ちのハンマーだが、誰か使うか?」


 誰も手を上げない。


「では、これは俺が買い取ろう。合計八百を三等分する」

「えっ!? 三等分? あいつらにもあげちゃうの?」


 戦士たちや三人組も驚いた表情を浮かべている。


「これは三組で戦った結果だ。もともと彼らの獲物でもある」

「そうなんだ……。変に真面目ね、商人」

「不満な組があれば、再検討するが。どうだ?」


 戦士も三人組も頷いている。

 異議は出なかった。



 商人は清算を続ける。


「護衛費用は俺達と戦士たちの二組で均等に分ける。五百ずつだ」

「お、俺達も半分もらっていいのか? ほとんど商人さんが倒しただろう」と戦士。

「契約通りだ。倒した数によって報酬は変わらない」と商人。

「いいじゃない! もらっときましょうよ」とフードの女。


「それからコストだな。俺のコストは二千。戦士の盾はどうする?」

「俺の盾は買い替えだろうな……」

「なら、俺の手持ちの盾を売ろう。同等品なら魔石二百だ。あとで見繕おう。もっと高性能な盾が欲しければ、差額を出してくれ」

「ああ、それは助かるね」


 少女がニマニマと笑っている。


「どんどん売るわね商人! これが長期的な利益ってやつなのね!」

「まあな」


 他に武具や消耗品を使ったものはいない。


 商人は三人組に請求する。


「では、支払額は三千二百になる」

「あ、ああ。その前に俺たちの戦利品を買い取ってくれ」

「見せてみろ」


 三人組が集めた物資を確認する。


「価値は二千ほどだな。それでかまわないか?」

「お? そんなになったか! それなら足りる!」


 商人は三人組の集めた物資を収納にしまう。

 差額の魔石を受け取る。


 受け取ったうち、七百を戦士たちに渡す。


「これで三人組との清算は完了だ。行っていいぞ」

「ああ……恩に着る。それから……すまなかったな。最初から共同で探索すればよかった」


 三人組のリーダーはバツの悪そうな表情を浮かべている。

 少女が明るい笑みを浮かべてその肩をたたく。


「そうね! これに懲りたら次からは仲良くすることね!」


「……なんか、腹立つわね」とフードの女。

「まあまあ……無事に済んでよかったじゃないか」と戦士。


 商人が言う。


「……今後は良い取引ができると期待している」

「……ああ。それじゃ、俺達は行くぜ。そっちの二人組も、悪かった」


 三人組は立ち去った。


「さて、一度出て俺達二組の清算をするか」

「そうしよう」



 雑居ビルを後にする。

 安全な場所で、それぞれの戦利品を確かめる。


 戦士がリュックサックを下ろし、中身を並べていく。


「俺は主に食料だ。缶詰や菓子類。それに腕時計がいくつか」

「価値は三百ほどだな」


 フードの女が荷物を並べる。


「私のはすごいわよ? 貴金属に化粧品、現金よ!」

「わあっ! すごいわね!」


 金や宝石は、今でも価値を持っている。

 現金は一部で流通していて、魔石と交換できる換金所もある。

 商人は魔石払い専門なので、現金に興味はなかった。


「魔石にしておよそ千の価値だな」

「あら? レートのいい換金屋ならもっと高く売れるわ!」

「では千二百としておこう」

「しょうがないわね。それでいいわ」


 少女が鞄を逆さにして、中身を並べる。


「あたしはこれよ!」


 自慢げに並べられたのは菓子類だ。

 缶に入ったクッキーや、袋のスナック菓子である。


 戦士は楽しげに笑う。


「お菓子……? 少女ちゃんらしいね」


 商人は言う。


「価値は……魔石三十だな」

「う……安い。いいわよ。皆で食べましょ!」


 少女が菓子を配る。


「現物で分けるのもいいだろう……」

「ほら、商人も難しい顔してないで、食べて! おいしいわよ!」


 帰還領域の品物は、比較的新しいものが多い。

 食品もそのまま食べられる。


 商人以外は、菓子をほおばっている。


「さて、俺の戦利品はこれだ。紙類。文房具類。洗剤や化学物質。パソコン。家具類だ」


 商人が積み上げた戦利品は山のようだ。

 雑居ビルのオフィスの中身を丸ごと持ち出したような品々だ。

 傷の少ないデスクやイス、パソコン。

 コピー用紙や文房具など。そのほか様々な品だ。


 少女が騒ぎ立てる。


「うわあ。さすが商人! チートだわ! チート収納だわ!」

「価値は三千ほどになる。内訳が知りたければ説明するが、どうだ?」


 戦士がひきつった笑みを浮かべる。


「いや、内訳は結構だよ」


 フードの女が鋭い視線を商人に向ける。


「……あなた。それだけの品物を持ちながら、宝石も現金もないの?」

「目ぼしいものはあんたが漁った後だからな。俺は最後尾で残った物資を漁っていた」

「そう……。あまり追及はしないけど、あなたが本気で探索していたらこちらの取り分なんてほとんど残らなかったかもしれないわね」

「さてな。ではこれを二組で均等に分ける。宝石や現金はそちらで受け持ってくれ。こちらの物品に欲しいものがなければ差額を魔石で渡そう」


 異議は出なかった。


「ほら、商人。お菓子を受け取るのよ。平等にね!」


 少女に手渡された菓子を、商人は口に運んだ。

 久しぶりに口にする菓子は、懐かしい味がした。

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【一章完】契約は絶対です! ~トレーダーは譲らない~ 世界が崩壊したので物資を集めて契約チートスキルで商人プレイします! 3104 @3104_kaku

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