亡き貴方に捧ぐ~別れの曲~

亜鉛

さようなら


 足元には沢山の魔族が倒れている。もうすぐ……すべてが終わる。



 私は部屋の中央に何とか辿り着くと、おもむろにピアノを空間から呼び寄せた。



 軽く鍵盤をたたいてみると、透き通るような美しい音が鳴る。どんなに私の手が血で汚れようとも、ピアノが奏でる音は変わらない。最後だし、上手に弾けるといいなぁ。



 まだ手が動くようで良かった。私は鍵盤に手を添え、広い空間でピアノの音が響き始める……














『よっ!今日も遊びに来たぞ!俺この前すげぇ良い景色がある場所見つけてさ、お前も見に来いよ!』



 貴方は幼いころから明るくて、優しくて、いつも私の太陽だった。何かを見つけては私に教えてくれて、一緒に外に出かけて……あの頃は本当に楽しかった。多分その頃から私は貴方のことが好きだったんじゃないかな?








『俺が勇者で、お前が聖女か……。俺達ただの田舎者なのにな。まあ、魔族は危険だけど俺がお前のことを絶対守ってやるから安心しろって!』




 私が聖女に選ばれてしまった時も、貴方は私を励ましてくれた。貴方だって本当は怖かったはずなのに。ちょっと声が震えてたよ?








『俺には……俺にはお前が必要なんだ……。だから頼む……死なないでくれ!どうか……どうか………』




 私が死にそうになった時、貴方がそう言ってくれたのを覚えてるよ。そのあと私は奇跡的に助かって、そのあと貴方から正式に求婚された。あの時が一番嬉しかったな……。貴方から貰った一本の赤い薔薇は今でも目に焼き付いてるよ。














 でも、奇跡が起こったのは一回だけだった。








 なんでかな?あの日ほど神さまに聞いた日はなかったよ。なんであんなことになっちゃったのかな?私には今でも分からないよ。世界を救うなんて、どうでもよくなっちゃった。




 周りから人の声が減っていったけどそれにすら気づかなかった。私って駄目な女だね。ごめんね。




 死んだら地獄に落ちちゃうのかな?それはやだな……天国にいる貴方に会えないや。天国に行けるといいなぁ。




 でも、ちゃんと最後までやらないとね。大丈夫、もうすぐ終わるから。これでみんなが希望を持てるといいな。










 曲が終わった。広いところでで弾いたからか余韻も長く感じる。




「最後まで私に付き合ってくれてありがとうね」 




 私は長年弾き続けたピアノをその場に残して、城の最深部に歩みを進めた。

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