第4話 異世界への道 その4

唐突に誰かが呼んでいる声が聞こえてきた。真っ暗な世界が広がる中で、聞きなれた声だった。それがどこか安心する。


身体が揺れ動き、閉じていた瞼をゆっくりと開けた。


視線先にはどこまでも続く、白い世界が広がっていた。


(――――またここかよ)


「先輩!!」


声がした方へと視線を向けるとそこには山田がいた。


「や、山田かぁ……」

「先輩、しっかりしてください」


とてつもない身体の倦怠感に瞼を閉じようとすると山田が無慈悲にも腹部へ握り拳を振り下ろす。


「起きるっす!」

「ゴフッ」


内臓を叩かれ、死ぬかと思った。あまりの痛さに目が冴える。慌てて、身体を起こして、文句を言った。


「なにするんだよ!!? 内臓破裂したらどうするんだよ!!」

「先輩が起きてくれないからじゃないですか!」

「いや、普通に起こせし」

「いや、寝そうだったし」

「寝るかよッ!!」


そういいつつ、目を擦りながら周りを見渡すとそこはさっきまで早島たちがいた部屋ではなく、真っ白い空間にいるようだった。


「んで……ここどこ?」

「さぁー、あたしにもさっぱり。先輩が変なことするからでしょ」

「転移魔法陣書いただけじゃん!! 変なことしてないじゃん」

「いや、普通に重要書類にお星さま書き始めたら頭おかしいでしょ?」


 それもそうだった。


「それで先輩」

「ん?」

「なんか見えません?」


山田の言葉に辺りを見渡すと夢で見たことがる巨大な石造りの門がそびえたっていた。きめ細かい彫刻、壮大さ。


「おいおい嘘だろ……あの時の夢と一緒のやつじゃないか」


そして、その前には人影があった。ローマ帝国時代の神話に出てくるような金髪の女か、男かもわからない中世的な顔立ちをした人物が立っていた。


「……お前も既視感あるわ」

「え?」

「いや、なんでもない。独り言」


その既視感ある謎の美少年は嬉しそうに笑みを浮かべて拍手し始めた。拍手の音が空間に響き渡る。


「おめでとう。まさか、君たちみたいな人が転移を成功させるなんて、驚きだよ。主人公、もっとイケメンかと思ったのにおじさんじゃん、うぇー……」


(――――おい、最後、なんか、聞こえたぞ)


 目の前の美少年は早島を見て、品定めするかのような目をしたあと、「まぁ、いっか」と言った。


「何がまぁいっかだ!」


状況が全然わからない山田が恐る恐る質問をした。


「あの……ここは一体? それにあなたは誰?」

「あはは。自己紹介がまだだったね。僕は神だよ」

「神?」

「そう。神様さ。あ、どの神かは言えないからあしからず」


ということは神は複数存在するのか、それともこの目の前にいる自称神だけが特別な存在なのか。それはわからないがとりあえずこの神が何者であれ、早島たちに害をなす存在ではないことは確かだろう。そして、多くの作品の始まりが大体この流れだ。だから、次にどうなるのか、予測がついた。山田の方は理解できていないようで困惑している様子だったが俺は一応聞いてみた。


「どうせあれだろ、ここに来たってことは「君たちは選ばれました」とかいうやつだろ?」


 それに神という少年は驚いたように大きなリアクションと取る。


「え? なんでわかったの!?」


(――――やっぱりかよ……)


「で、なにか、世界を救うのか? それとも滅ぼす方?」

「ち、ちょっと話を勝手に進めないでもらっていい??? こっちも段取りってあるじゃん??? 話の流れがあるじゃん??」


いや、そんなもん知らんし。悪いけど俺にとっては異世界転移は夢だったんだ。はやく、聞かせてくれよ。これから俺たちは何をするんだ?」


早島の問いかけに神と名乗る少年は少し困った表情を浮かべる。仕切りなおすように咳払いした。


「き、君らは恵まれているんだよ? 誰しもがこの僕の世界アルティミアへ来れるわけではないんだ。しかも、自分で描いた転移魔法陣で、必ずしもここに来れるわけでもない。君が最初の1人目、あ、2人目だよ?」


そういって、巨大な石門を見上げる。


「君らは選ばれた」

「選ばれた……?」


 山田が声を漏らす。


「そう! 君らはこの『アルティミアの門』に選ばれたんだ。すごいことなんだよ? ここに来ようとした数千万の人間を拒んできたのに君らを選んだ。あぁ、なんて、すごいことなんだろ感動だよー」


両手を広げて天を仰ぐ。その姿はとても神々しかった。まるで本物の神様のようなオーラを感じる。あ、てか、こいつ、神か。


「あの、でもどうして私たちが選ばれたんですか?」



(―――――まぁ、初見の人はそういう質問するだろうな。選ばれたのには理由があるけど、だいたいの作品では理由がないパターンもあったりするし。今回はどんな展開なのだろうか)


「それは……」


 自分を神という人物は腕を組んで、しばらく考え込む。小首をかしげた。


「なんでだろうね?」


 それには思わず、ずっこけそうになった。山田も驚いたような声をあげた。


「あなた、神でしょッ?!」

「神だけど、神も万能じゃないんだよねぇ~」


 はは、っと言って、頬を掻いた。


「こいつ、ポンコツ説」


 とボソッと言う。


「まぁ、とにかく、君らはアルティミアの門に選ばれた。つまり、君らはこの世界にとって重要な役割を果たす人物になるということさ」


大体の話の流れはわかってきた。ラノベで読んだことがある展開だ。


「……なるほど。重要な役目ね」

「そう、重要な役割。これから君らの行く異世界ではモンスターと呼ばれる危険な原生生物がいる。それれを倒してもらうために君らは選ばれた」

「げ。モンスターがいるのかよ」


モンスターがどれだけ強いのか、わからないが、アニメとか漫画ではめちゃくちゃ強そうなんだよな。


あのドラ〇エで、初戦のボスにぶっ殺されたことがあり、頭にきて推奨レベル10レベのボスモンスターを20レベでボコったことがある。


それに多くのモンスターの資料集や設定などを読み漁っていたりするので、ある程度は耐性があったので、流れはわかるが、山田は違った。


ゲーム、アニメなんて見たことのない女子にとってはいきなり、神です、とかモンスターがいる世界とか言われても何言ってんだ、お前らってなるだろう。


「……よくわからないんで、私、うちに帰ってもいいすか?」


 それに神はうんうんと頷く。


「そうだよね、そうだよね。突然こんなところにこんなおじさんと連れてこられても困っちゃうよね」

「そうですよ!!」

「おい、誰がおじさんだ!! こう見えてもまだ30歳だぞ!!」

「え?  50歳じゃないの?」


 神は真顔で言う。


「ぶっ飛ばすぞてめぇ!!」


 山田は怒気を込めた声でそう言うと神がビクッと肩を震わせた。


「ひぃ」

「まぁ、いいや。実は俺、ラノベ的な世界に憧れてたから、ここに来られたことが嬉しい」

「ラノベって?」


山田が質問してきた。答えるのがめんどくさかったので、スルー。


「とにかく、さっそく、行こうぜ! 異世界!」

「君、ルンルンだね……もっと動揺するのかと思ったんだけど」

「いやいや、むしろ、興奮している。憧れていたものが目の前にあるんだ。おら、ワクワクすっぞ!」


 早島は目を輝かせながら言った。


「それなら話が早くて助かるよ。じゃあ、門をくぐりたまえ! 世界を魔物から救うんだ!」


そういって、神はアルテミィアの門の隅に寄り、二人に道を譲った。


 早島と山田はアルティミアの門の前まで歩み寄る。近づくとさらにその大きさに驚かされた。10メートルは軽くあった。


「さぁ、唱えよ。魔の言葉!!」

「え、ちょっと待って!! 魔の言葉、俺、知らないんだけど??」

「え? 転移魔法陣描いた時、一緒に書かなかったの?」

「書いたけど、なんて書いてあるかわかんなかったんだもん」

「あはは、君、馬鹿なの? ちゃんと見ないとダメじゃん」


 神は笑いながらも、早島の胸を人差し指で軽く突いた。


「ほら、見てみなよ」


 神の指差した先を見ると、早島の服に黒いインクのようなもので文字が書かれているのが見えた。


「あれ、なんか、書いてる」

「あーあー。やっぱり君、頭悪いね。そんなんじゃ、すぐ死んじゃうよ?」


神は呆れた顔をしながらため息をついた。


「仕方ない。僕が教えてあげる。その言葉を詠唱すれば、アルティミアの門は開かれる。今回は僕が導いてあげよう。僕の言葉を復唱してみて!」

「お、おう! わかった」


 早島は神の言う通りにすることにした。


「では、行きます。魔の言葉」

「魔の言葉」

「我が名は山田 翔馬」

「我が名は山田 翔馬」

「アルティミアへ」

「アルティミアへ」

「いざ行かん」

「いざ行かん」

「我らを導き給え」

「我らを導き給え」

「この世界を救うために」

「この世界を救うために」

「いざ、参らん」

「いざ、参らん」


 早島と神は声を揃えて言い放った。


「「異界への扉よ開けゴマ!!」」


 (―――開けゴマ??!)


 すると、アルティミアの門が重量感ある音を立てながらゆっくりと開いた。


 アルティミアの門の先に広がるのはどこまでも続く草原だった。空は青く、雲ひとつない。風は心地よい。そして、何より草の匂いがする。


「きたきたきたぁ――――!! 俺の夢がきたぁああああ―――――!!」


 吸い込まれるようにして、早島と山田はアルティミアの世界へと足を踏み入れた。

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