ハケンアニメ!(映画) 2022-05-31

#届けハケンアニメ #映画感想

 クリエイター達の為の最高の映画をありがとうございました!

 原作小説の書き下ろし付き文庫版読んでる人の感想です。

 原作・映画、共にネタバレまみれです。役者さんのことはよく知らないので、あくまでキャラクターとして語ります。okな方どうぞ。

 これから観に行く人はエンドロール後を楽しみにしてほしい。


 原作だと3人それぞれの物語になってるから、斉藤瞳監督とサバクをメインにして有科香屋子プロデューサーと並澤和奈アニメーターをサブにしたの良かったと思う。いい感じにまとまってた。


 原作で有科プロデューサーが言ってた台詞に「ここは悪い人のいられない業界」ってのがあってね。狭い業界だから悪どいことをする人は仕事が来なくなるんだって。

 その意味で悪い勝ち方をしようとする人が登場しないの良いよね。意見がぶつかるとしても、作品をより良くする為に沢山考えた結果。ズルしようとする人がいなくて気持ちよく観てられるよ。


 印象的だったのが、トワコの決意表明たる「なんでも、あげる!」を「何でも、揚げる!」にされてカップ麺のコラボ商品が勝手に売られてて瞳監督がブチ切れるとこ。

 監督の気持ちよくわかる。いくら宣伝のためって言われても、心血注いで身を削って作り上げてきた作品やキャラクターをいじられるのは嫌だし、丁寧に描いた絵に下手な落書きされた気分にもなるよね。良いものを作れば評価が得られると思いたいのもわかる。創作者としてはそうであってほしいし、学校の中や仲間内だけの狭い世界ならあり得ることだから。

 けど、世界は広いから宣伝して知ってもらわなくちゃいけない。

 行城プロデューサーの言う、「良い作品が売れるわけではないし、良くない作品でも売れるときは売れる」「だから何でも使って宣伝しなければいけない」(意訳)は刺さるよね。

 長く原作が連載してて、じわじわ評価が上がってアニメになったものじゃ無くて、原作なしで12話しかない中で一気に評価を上げるには悠長なこと言ってられないんだ。行城プロデューサーの考えは間違ってない。

 私もネット上で小説書いてるから、良いものを作れば評価がついてくるわけじゃないのは身に染みてる。まず作品の存在を知ってもらって、読んで貰わないと評価すらしてもらえない。良い作品かどうかは読んでくれた人の中のさらに一握りの誰かに刺さるまでわからないから。これだけ大量のコンテンツや作品が溢れかえっている時代に読んでもらうってことは、いわば「他のことに使えるかもしれないあなたの時間を、私にください」って言うのと同義。時間を使うに足る作品だと見てもらえないと手に取ってもらうことすらできない。(余談だけど、長いタイトルのラノベが増えてる理由はその辺の事情だと思う)


 リデルとサバクの1話放送前に王子監督と瞳監督の対談。現実的にそういうシチュエーションがあるかはよくわからないけど、面白い事だと思う。王子監督の“自分の作品”と言うより見た人の持った印象が全てだって姿勢が良いし、あの場で啖呵切っちゃう瞳監督の勢いも若くて良い。


 並澤アニメーターが町おこし企画に駆り出された時。役場の宗森さんが「リアル以外も充実してる」って言うの良いよね。つい空想だから……って卑屈になっちゃうけど、クリエイティブな仕事っていうのは自信持って良いことなんだよね。心を豊かにする空想の世界を悪くなんて言わせない。

 ちなみに、原作では並澤アニメーターの自転車を役場の宗森さんが直してあげるシーンがあって、並澤アニメーターがリアルを疎かにし過ぎてたなって思い直す話があるよ。


 王子監督が絵コンテ変えちゃって困る有科プロデューサー。王子監督の気持ちよーくわかる。自分の納得できてない作品を世の中に送り出せるわけがない。

 並澤アニメーターのいるスタジオまで行って頭下げに行く有科さんも仕事の鬼よね。あの熱意が凄い。モノづくりに妥協なんてない。


 ストレスMAXで宣伝用の撮影の後に騒いじゃった瞳監督。要は「私がようやく腹括ったのに、余計なこと言って決意を揺らがさないでくれ」ってことだよね。気持ちはわかる。がしかし伝え方が9割なんだよな。不器用さが良い。戸惑っても売り言葉に買い言葉しないスタッフまじ大人。そしてひょっこり現れる行城プロデューサーが「ちゃんと感謝しましたか?」って言うの完璧に保護者じゃん。良い人だ。

 倒れて保健室に運ばれた瞳監督は行城プロデューサーの思惑を知る。彼の暴挙みたいに見えた行動も、瞳監督を独り立ちさせる為の行動なのが良いよね。プロデューサー兼監督に育って貰わないとって意識があるの。ちゃんと言わないから瞳監督にもスタッフの面々にも過去の監督たちにも誤解されてたけど……

 泣き出した瞳監督におろおろするのは、最初の何でもピシッとこなせる行城プロデューサーの印象とまるで違って、仕事じゃない部分に弱みがあるのが見えて良い。


 王子監督がどうしても最後に主人公たち死なせたくて仕方ない。

 書きたいものと上層部の意向が合わなくて、行き詰まって王子監督が嫌になってたけど、有科さんが「上層部と戦えるだけの武器をください」「この終わり方しか無いって思わせられる説得力のある理由を王子監督なら考えられます」(意訳)って言ってもらえて火がつくんだよね。

 何処かで聞いた話だけど、良い作品は予想を裏切った展開で期待に応えるもので、悪い作品は予想通りの展開で期待を裏切るって。

 斬新さと説得力。どっちも準備するのは大変だけど、少なくとも説得力があれば読んでくれた人は良い時間を過ごしたって思ってくれるんじゃないかって思ってる。作り手と読み手の間に思考の違いが多少あっても、しっかりした倫理と説得力があれば、見守る者である読み手に納得してもらえるんだよ。


 瞳監督の方もラストで一悶着あったよね。ありきたりなハッピーエンドで目の前の視聴率にすがるのではなく、数年後思い返した時に意味がわかって良い終わり方だったと思えるような、そんな最後にしたいってスタッフを説得してた。

 割と昔のアニメ作品でも、子供相手だからってご都合主義やただのハッピーエンドにせず手を抜かなかった作品が今も高評価を得て残ってるわけだもの。当時の子供たちが大人になった今なら意味がわかるよねって言ってるもの。


 「この世界は繊細さの無いところだよ」「ごくたまに、君をわかってくれる人はいる」って隣家の少年太陽くんに語りかける瞳監督。よかったね、昔の自分のような、夢を捨てた子供たちに届いたよ。

 リアル以外も充実してる=心を豊かにする、ってのがここでも生きてきてる。


 ハケンアニメ!原作小説だと、リデルとサバクが接戦だったのに全然別のアニメが最終一位取るんだよ。今時だと人気の結果はリアルタイムで全部わかるから、その展開はあり得なくて変更したのかなと思う。

 1位はリデルだったけど、エンドロール後に円盤予約ランキングが出てきてサバクが1位取ったのが明かされるんだよね。行城プロデューサーが踊ってたの可愛い。にっっっこりできる。


 それからさ、アニメ本編のクオリティが凄まじいんだ。こりゃ接戦で1位取るわ。

 個人的にはサウンドバック奏の石も運命戦線リデルライトも1クール12話で解決する話に見えない……2クール24話の厚みがあるよこの話。

 劇中作でガチ泣きしそうだったもん。作り手の情熱を知ってるからってだけじゃなくて、本当にすごい作品だから、断片的にしか登場しなくてもがっっっつり感動できる。なんだこれ凄い。

 かなり人気だからさ、2期の期待したくなるくらい凄かった。リデルもサバクも2期ください。向こうの世界に生きてたら多分Twitterとかで2期!カモン!コミカライズくれ!って騒いでたな。


 ガンダムとかアニメパロディも随所に。

 「殴ったね!?親父にもぶたれたことないのに!」「弾幕薄いよ!何やってんの!」「悲しいけど、これ戦争なのよね」とか。

 上層部の会議室はエヴァのゼーレか?ポスターの配置が完全にゼーレ笑

 わかってやってるよねあれ。他のパロディ教えてください。


 去年夏だっけ?「映画大好きポンポさん」もアニメ映画化したよね。あっちは映画業界で、「ハケンアニメ!」はアニメ業界で。大きくて長いストーリーを紡ぐって意味では同じだよね。プロもアマもなく創作屋を名乗る人はみんな見てほしい。漫画でも小説でも映像制作でも。

 クリエイターの作業は孤独だったとしても、創作する意気込みは共有できるから。一人だけど独りじゃないんだよ。


 最後に。

 ハケンアニメ!最高でした!!

 その場じゃなくて、思い出して泣いてます。感動は後からじわじわ追いついてくることもあるんですね!

 良い映画をありがとうございます!!



──以下、独り言──


「刺され、誰かの胸に──」

 創作者として大事なことはこの一言に詰まってる気がするんだ。

 創作をする理由は色々あると思うけど、私の場合は何かを伝えたい、これを誰かにわかってほしい、がいつも根底にあると思う。自分の自給自足のためだけに書く人がいるのは知ってるけど、私は伝えたい何かが強く溢れて、誰かの為になると思えないと書けない人だから。

 逆に言えば、別に伝わらなくていいやと思った瞬間に私の創作者としての死があると思う。

 若干今はそんなところがあって。伝わらなくて良い、自分の感情は自分だけのものだから他者にわかってもらおうなんて土台無理な話を突き進む理由なんてない……と。書きかけで放り出したままの小説はそんなわけでホコリ被ってるわけですが。

 だけど、ハケンアニメ!の映画を見て、ちょっと感覚が変わった。

 “目の前にいる人に”伝わらなくて良い、ここじゃないどこかに必要としてくれる人がいる。どこの誰かは今のところわからないけど、書いて、宣伝して、知ってもらう中に、その“誰か”がいるんじゃないか?って思えば良いって。

 確かセーヌ川の書店主にも出てきたっけね「本は必要とする誰かのために書かれている」(意訳)ってセリフ。

 ピンポイント過ぎると伝わって欲しい人に届く前に消滅しちゃうから、本来の対象じゃない人にもなんとなくわかってもらえるような表現を心がけるのも大事。創作屋としての能力を磨かなければ。

 刺され、誰かの胸に。目の前の人に届かなくて良いから、必要とする誰かの元に私の作品も届いてくれ。

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月猫文庫 伊野尾ちもず @chimozu_novel

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