第10話
それからというもの、僕は勉強をしながらティアと遊ぶ毎日が続いた。
彼女は次第に僕の家での扱いを理解していったようだが、それでも変わらず懐いてくれた。まるで2人きりの家族のように僕たちは仲睦まじく過ごす。
そうして僕は6歳、ティアは4歳になった。
今日、僕はそわそわして図書室に向かう。
なぜなら、今日は前世でもよく覚えてる彼女と出会ったあの日だからだ。
(今度は彼女との縁を切ったりしない。)
そう決意してその出会いを待つ。
図書室の廊下をうろうろしていると、とても懐かしい声が僕を呼び止めた。
「ちょっとそこのあなた!」
僕はバッと彼女を振り返る。
「ゾーイ・・・。」
彼女に聞こえない程度の小さな声でそう呟く。
すると彼女は、以前と同様に僕の顔を見て固まった。
「っ!き、綺麗・・・。」
またしても意味不明な感想を漏らす彼女に、今回は僕から話しかけてみる。
「どうしたの?」
「や、やだ私ったら・・・。えっと、私会場の場所がわからなくなってしまって。悪いけれど、案内してくださない?」
顔を抑えながらそう言った彼女に僕は「いいよ。」と微笑んだ。あの肖像画のある部屋に案内すればいいのだのう。
そうして先導するように歩き出す。
「僕はジョシュア。一応この家の子なんだ。よろしくね。」
「まあ、そうだったの!私はゾーイと言うの。アダムス伯爵家の長女よ!こちらこそよろしくお願いするわ。」
少し高慢そうな雰囲気が懐かしい。そう思って微笑むと彼女は「うっ」と再び顔を抑えた。
「あなたも会場に戻るところだったの?」
「いや、僕はお茶会には参加していないよ。多分妹のティアならいると思うけど。」
「どうしてあなたは参加しないの?」
「それは・・・僕は出来損ないだから、人前には出られないんだ。」
そう言うと彼女は怪訝そうな表情をする。
「出来損ない?」
「うん、この色。僕は属性を持っていないんだ。」
そうして髪を触って見せる。
「そう・・・なの。でもあなたの色、とっても綺麗だわ。」
彼女は少し間を置いてそんなことを言う。
僕は、一瞬何を言われたのかわからなかった。
「えっ?」
「だ、だから、髪も瞳も光を反射してとても綺麗だと言っているのよ。」
少し恥ずかしがりながら語気を強めてそう言った彼女に温かい気持ちになる。
ゾーイは前世でも僕の色のことや家での扱いを聞いても対等に接してくれたっけ。
「綺麗・・・か。ふふっ、初めて言われたよ。ありがとう。」
僕がお礼を言うと彼女は目を逸らしながら口を開く。
「そ、そう。あなたの家族は見る目がないわね!私でなくてもそう思うわよ。」
前世では僕が彼女の勢いに押されていたので、今回僕のペースになっているのがなんだか新鮮だ。
「ゾーイもとても綺麗だよ。特に瞳の色がまるでアメジストみたいだ。」
「そう・・・かしら?皆キツそうに見えるって言うのだけれど、本当に綺麗だと思う?」
珍しくゾーイが不安そうな表情を浮かべる。
「ああ、髪も瞳もゾーイらしくてとても綺麗だ。そんなことを言う人こそ見る目がないよ。」
「そう・・・ふふっ、ありがとう。」
照れたように笑う懐かしいゾーイ。
記憶の中にある会話よりずっと上手く話すことができたのではないだろうか。
そうしているうちに、お茶会の会場が見えてきた。
「ほら、あそこの部屋が会場だよ。」
「あなたも一緒にお茶会に参加しましょうよ。」
「いや、僕は・・・両親に嫌われてるから。」
「そんなになの・・・?」
さすがに僕が参加したら両親は血相を変えるだろう。それも一興かもしれないが、ここにしか居場所がない以上彼らの機嫌を損ねるわけには行かない。
そう思って、前世同様曖昧に笑って頷いた。
「僕のことは気にしないで。早く戻らないと、ご両親が心配するよ。」
自分の両親の話をした後で一般的な両親像に基づいて話をするのはひどく滑稽な感じがしたが、そうでもしないとゾーイは僕を気にしてなかなか戻れなさそうだった。
「ええ、そうね・・・あの!手紙を送ってもいいかしら?」
「僕に手紙を?」
僕は前世と同じ流れになったことに内心ホッとしながらそう尋ねる。
彼女から提案されなければ自分から言おうかとも思ったが、それは流石に前世のように引きこもっていない僕でもハードルが高かった。
「ええ。だ、だから気が向いたら返事を書いてね。」
「うん、もちろん。楽しみに待ってる。」
そう返事をすると、彼女は僕を何度も振り返りながら会場へと戻っていった。
悪役令嬢の兄のやり直し〜幸薄の兄ですが、せめて妹弟だけは幸せにしたいと思います〜 @aitoria
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