第5話

後日、ぼくはこのことを日記の文章として書いてみたのだけれど、それを読んだN氏が「そんなバカな!」とか言ってめっちゃ笑っていたっけなぁ……。うむ、まあそう思われても仕方がないな、と今では思えますけどね。

ただ一つ確かなのは、あの当時ぼくは確かにそういうことを真剣に考えておりまして、しかもそのアイデアを実現することに少なからずワクワクしていたということです。もちろんその先どうなるかも知らずに。いや、だからこそワクワクしたんでしょうけどね。だって、今のぼくには「そんなことありえないだろう?」と思うもんなぁ。実際、当時の日記を振り返ってみても、ぼく自身かなり荒唐無稽な夢想をしていることがよくわかりました。

N氏曰く、「お前の言っていることは基本的に妄想だが、ただ一つの点においてだけは本当に可能性があると思っている。」との事でしたが。うん、まあ確かに、もし仮に「あらゆるものがコンピュータに管理され、人類はデジタル世界で生きるようになる」というようなことが実現したら面白いですよね(いやマジな話、本気で)。そういう時代があったら楽しそうだし、いろんな可能性を探れそうな気がするじゃないですか。

そして、そういうことが実現するのはSFや未来小説だけの話ではなさそうに思えるんですよね。特に最近だと仮想通貨に関わっている人たちにとっては常識的になってきているように思います。というのもですね……そもそも、ぼくがN氏と話すことになった原因というのが実はビットコインのマイニング問題だったわけですが、このN氏が仮想通貨業界でも有名な方と繋がりがあって、「今度Nさんとお話しする機会を作るよ!」と仰っていただいて。で、それがこのタイミングだったんですよ。つまり「今度お会いする時にちょうどいい話題を提供できそう」だと思ってくださったので、わざわざこんな機会を作ってくれたわけで……。ま、結局それは無駄になってしまったんですけどねぇ(笑)。

それにしましても、世の中、ほんの少し前まで誰も考えつかなかったようなとんでもない発想やアイデアが実現したりすることがあるんだなあと。これはやっぱりぼく自身の考え方にも影響してるんでしょうか。まあ確かに「なんでも可能にする技術は作れないだろうか?」と考えた時期がありましたが(笑)、「不可能を可能にする技術」というものが本当に存在するなら「誰でもそれが実現できたとしてもおかしくない」とも思ってきましたが。しかし実際に実現してしまうとなると話は別。なかなか想像できないものです。

例えば、「世界中の銀行を全てハッキングする」とかそういうことでさえできるのかもしれません。ただこれに関しては、ぼくは別にお金の問題じゃなくてですね、要はセキュリティ上の問題なんですよ。例えば仮に銀行のシステムに侵入したとして、そのシステムを乗っ取ることができるかどうかはわからないですよね。しかも、乗っ取りに成功するかどうかも怪しいじゃないですか。だって、もし仮に銀行のコンピューター・ネットワークを完全にコントロールすることができても、それを操作する人がその操作に慣れているとは限りませんし、逆に、その操作の仕方を知らないとダメでしょう? さらに言えば、銀行のコンピュータは世界中に何千万台とあるんでしょう? それを全部一人で管理することは誰にもできませんよね。まぁ「ハッキングされて盗られた金を取り戻すこと」だけを考えても無理ってことになります。なぜなら、もし銀行員がその金を「元の持ち主」に送り返したところで何にもならないんですよ。また、たとえ警察に訴えたとしたら、結局は、誰がやったのか突き止められるかはわかんないし、犯人を割り出すことは不可能だと思われます。つまり犯罪を立証することはできないんです。もちろん犯罪者を裁くこともできないです。そうなると……やはり、ハッキングをする意味はないというか……、うーむ。難しいですね。こういう問題は。

でもぼくの考えでは、「誰かの人生をめちゃめちゃにするような行為や悪事を実行するために使われる技術は作らないだろう」ということで、その可能性は低いと考えていました。ところが、その考えは覆されたわけで。まぁそれでも、その可能性が完全にゼロだと言えないことは否定しないけど。まぁそんなに気にすることでもないかもしれないけれど。

まぁいずれにせよですね、仮にそんなことをしたら大変なことになってしまうことは間違いないと思います。なので、ぼくはその「最悪の場合に備えておくべきだ」と考えたんです。だから、ぼくは、「最悪に備えた行動を取るように心がけていた」というだけです。

さてここで一つ重要なことがありまして、もしも誰かが自分の大切な人の命を奪うつもりなら、その相手を殺すだけじゃ足りず、自分も一緒に死ぬということを選ぶ人もいるということを想像して欲しいなと思うのです。例えばの話だけど「自分の愛する人を殺され、自分も殺されることを選んだら」なんてね……。いや~……実際にあったとしても怖いっすよね? だってそれ、その人たちにとっては、「その選択以外には何も選べなかった、それしか選択肢はなかったんだろうな、だから仕方なく選んだんだろ」とか言っても「どうせ本当は違うんだろう」って思うんですよ。そう思われたらダメだと思うんですよねぇ……。それに実際そういう風に考えた人は本当にいたし。なお、これはあくまでも仮定の話をさせてもらっています。実際には、その人がその状況に置かれた時にどういう気持ちになったのかということは分かりませんのであしからず。

「自分は誰かの人生の邪魔をすることに興味があるわけではない、興味があるのは他人を苦しめることであって殺すことじゃない、むしろそれはやるべきではない」という考えの人ももちろんいますしね。しかしまぁ実際の話、もしそういう行動を起こせば大問題になることはまず間違いないので止めておいた方がいいでしょう。あともう一つ言うと、そんなリスクを冒さないでも「別のやり方を考える」こともできるのでそっちの方が確実かもしれんね。……というかそういう考え方をして実行に移す時点で「その人にそこまでする理由はない」ということでしょ? ただその人がやらないだけだ。別にそれで責めることはない。……いやそもそもそういうことするやつが悪いんですが。ちなみに自分がこういう思考回路になっている理由の一つとしては、やっぱり自分が今までそういう行動を取ってしまったことが関係しているような気がします。ただそれでも「自分は絶対こんなことをしない!」と言えるほど自分を信用することはできないけれど。

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