第3話

「よし」

ぼくは部屋を出た。廊下に出た。そして、右に進んだ。しばらく進むと、T字路があった。ぼくは、左に曲がった。すると、またT字路だった。ぼくは、今度は、まっすぐ進んだ。少し歩くと、またT字路だ。ぼくは、今度は、右に曲がり、さらに、右に進み、突き当たりを、今度は、左に曲がった。

「ふぅ」

ぼくは立ち止まった。

「ん?」

誰かの声が聞こえた。

「なんだ?」

声の方に振り向いた。

「あれ?」

誰もいない。

「気のせいか」

ぼくは再び、歩いた。

「やっぱり、聞こえるぞ」

どこからだ?

「こっちか?」

耳を澄ませた。

「あっちか?」

声がする方に走った。

「えっ?」

そこは、行き止まりだった。

「なんだ。幻聴か」

しかし、よく考えてみれば、ぼくの知っている範囲なんてたかが知れている。こんなところに、出口などあるわけがない。

「やっぱり、だめだな」

ぼくは、諦めて、元の場所に戻ろうとした。

「ん?」

ぼくは、後ろを振り向いた。そこには、小さなドアがあった。ぼくは、そのドアを開けた。中は真っ暗だった。ぼくは、その部屋に入った。部屋の電気がつけた。その部屋には、机や椅子や棚やベッドや鏡台やタンスや冷蔵庫や電子レンジや洗濯機やトイレやシャワー室やキッチンやクローゼットや本や雑誌やテレビやゲームや漫画や小説や辞書や事典や辞典や地図やカレンダーや時計や懐中電灯やライトやラジオや目覚まし時計があった。

「あれ? なんだこれ? おかしいな」

ぼくは、部屋を出て、元の場所に戻った。しかし、そこにあったはずの壁や床や天井や窓や扉は消えていた。

「どうなってんだ? なんだ? どういうことなんだ? さっきまで確かにあったのに、一体どこにいったんだよ!」

ぼくは焦った。

「おい! 誰かいないのかよ!? 助けてくれー!!」

ぼくは叫んだ。

「くそっ! なんてこった!」

ぼくは、走り回った。

「なんだってこんなことに……」

ぼくは、立ち止まった。

「まさか、あの時か?」

ぼくは、振り返った。そこには、小さなドアがあった。ぼくは、そのドアを開けた。中には、小さな部屋があった。

「あっ」

その部屋はさっきの部屋と同じものがあった。

「え? なにこれ? どういうこと?」

ぼくは、その部屋の中に入った。そこにはKがいた。

「よくもまあさっきはあることないこと言ってくれましたねえ」

「すみません」

ぼくは素直に謝った。Kは、少し黙っていた。

「でもね」

Kはそう言うと笑顔になった。

「いいんです。わかってもらえれば。ありがとうございました」

ぼくは頭を下げた。すると視界が揺れた。

気がつくとベッドの上にいた。どうやらぼくは病院に搬送されたらしい。どうやら助かったようだ。しばらくしてぼくは自分の病室に戻った。ぼくの荷物はなかった。

しばらく入院していたぼくのところにKはやってきた。

「元気ですか?」

Kの口調はとても軽かった。ぼくは答えた。

「はい。おかげさまでなんとか生きてます。」

「良かったですね」

「あの、Kさんはどうしてあそこにいたんですか?」

「いやぁ、実は、仕事を辞めようと思いまして」

「え、そんなこと初めて聞きましたよ?」

「はい。私事で申し訳ないのですが、どうしてもやりたいことがあって。それで会社をやめようと決めたんです」

「Kさんは会社員だったんですか?」

「はい。そうです。私はね、エンジニアをしていたんです。そして、ずっと前からやりたかったことがやっとできるようになったんです。」

「すごいなぁ、やっぱり、いろんな技術を知ってたりしますよね」

「はい。知ってます。全部じゃないけど、いろいろやってたんですよ」

Kは笑顔になった。

「じゃあ、僕より先輩ですね」

「いえいえ。まだまだですよ。これから、もっともっと勉強しないと」

Kの口調はとても軽い。

「はは。そうですか。ところで」

「なんですか?」

「あの、お名前は?」

「ああ。言ってませんでしたね。私の名刺です」

Kは鞄の中からカードケースを取り出した。

そこには、K 株式会社 代表取締役@XXX という文字と住所と電話番号と、Kの名前らしきものと会社のメールアドレスが書かれていた。ぼくはその名刺をもらった。Kが言った。

「では私は失礼します。お元気で」

「はい。またいつか会いましょう」

ぼくたちはお互いに握手を交わした。そして別れた。

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