アマリリスの咲く夜に〜転生先は死亡率99%のグロゲー世界でした〜

ランドセルとキッズ

序章 プロローグ

 ――夢……夢をみていた。


 男?女?……少年?少女?そのどちらとも言えない存在が目の前に立っていた。


 その存在の背中からは美しく見事な翼が生えている。


 ……天使?


 そうとしか表現できないような神秘的な姿。翼を広げた天使が一糸まとわぬ姿でこちらを見下している。


 たえなる存在であるはずの天使がいやしく口元を歪め、下卑た笑みをってしてこちらを嘲笑あざわらうかのような顔で見ている。


 そんなひどく不愉快な夢を。ここ数日、何度も何度も繰り返しみていた。


 その理由に気づいたのはあの日。一度、そしてあの瞬間だった――。



✳――――――――――――――


 突然だがこの世界はクソだと思う。

 

 この世界はオレにとって紛れもない悪だ。悪で満ち溢れている。

 

 この世界においてオレの命にはなんの価値もありはしなかった。

 

 断っておくが、オレは別にペシミストでもなければニヒリストでもない。

 

 それにもかかわらず、こんな感情を抱いているのにはそれなりの理由があり、

 それは、前世のオレの人生におけるあり方が気に入らなかったとかいう、訳のわからない理由で天使がオレに与えた試練にある。


 崇松真也たかまつしんやは善良な一般市民だった。


 生まれた家は、お世辞にも裕福ゆうふくな家庭とは言えなかったが、それでも苦しいとか不幸だとか、そんなことを考えたことは一度もなかった。


 両親から溢れんばかりの愛情を注がれて育った俺は、友人にも恵まれ、さしたる不自由も不満もない、十七年の人生を生きてきた。


 友人達と何気ない会話をかさね、時には喧嘩をしたりと、平穏極へいおんきわまる日々。


 きっと誰が見ても俺の人生は幸せなものだと評するだろうし、俺自身もそう思っていた。


 けれど、何一つ悩みや、つまずくことがなかったと言われれば、決してそんなことはなかった。


 勉強や恋愛、日々の生活の中で小さな悩みがいくつも積み重なったいた。


 その中でも、彼の頭を一番悩ませていたのはあるゲームのことだった。


 ある同人サークルが制作した【アマリリスの咲く夜に】というタイトルのPCゲーム。通称アマ咲く。


 当時ブームに乗っかり、かなり本気で取り組んでいた俺は、日々そのゲームの攻略に励んでいた。


 そのゲームは平穏な学園生活を送る主人公が小さな出来事から事件に巻き込まれ、そしてその度に必ず死んでしまうというものだった。


 世間では『攻略不可の無理ゲー』『ヤバすぎるグロゲー』『主人公の生存率1%のゲキムズゲー』と呼ばれており、それがこのゲームを作ったサークルの売り文句でもあった。

 

 数ある猛者達がハッピーエンドと呼ばれるルートを求めて日々攻略を続けていた。


 俺もその一人であり、ゲームに没頭ぼっとうする毎日を送っていた。


 友人たちともよく攻略を目指してプレイをしていたのだが、学生間のブームというものは短いもので、攻略が完了するよりも前に俺は友人たちと一緒に新しく発売されたVR格闘ゲームへと移行し、すっかりアマ咲くをプレイすることはなくなっていった。

 

 俺の人生の終わりが訪れたのはをそれから少し経ってからのことだった。


 俺は車にかれそうになった同級生をかばって死んでしまった。


 ……そして、クソみたいな天使によってこの【アマリリスの咲く夜に】の世界へ、死亡率99%主人公、一之瀬いちのせさとるの身体へと転生させられてしまったのだ。




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