第98話 神様と弓
ギィ…と音を立てる重いドアを開けて、私とミレイユは店の中へと入る。店の中は、まるで血のような濃い鉄と油の臭いが充満している。それもそのはず。店内には壁中を埋め尽くす勢いで剣や斧、大剣、槍、弓に槌まで、武器という武器がギッシリ所狭しと並んでいる。
「いらっしゃい」
予想に反して枯れ木のような老人が営むこの店こそ、私とミレイユの目的地、武器屋だ。
「ここが……」
ミレイユが物珍しそうに店内を見渡している。まるでデートには似つかわいくない場所だが、その顔に不満の色はない。むしろニッコニコである。
今日は、試験的に導入された私の1日占有権の初日。トップバッターであるミレイユの日だ。今日1日、私はミレイユのものなのだ。
ミレイユが私の望んだこと。それは2人っきりのデートだった。なんともミレイユらしくて、かわいらしい望みであるのだが……。
なぜ、デートでこんな武骨な場所に来ているかといえば、私の悩みが関係している。
私の悩み。それは、弓の威力の不足である。ダンジョンの攻略も進み、敵もタフになってきた。今の主な敵はゴブリンとオークだが、ゴブリンは鎧を身に纏い、オークは分厚い脂肪の天然の鎧がある。もう私の弓の一撃では倒せなくなってしまったのだ。敵の中には、ゴブリンメイジのような早急に倒す必要のある敵の存在もある。ゴブリンやオークの鎧を貫けるような新たな弓が欲しい。
そんな訳で武器屋にやって来た私たちだが、店の店主は私たちを見るなり顔を顰めた。
「ここはお嬢ちゃんたちが来るような店じゃねぇよ。帰んな」
私もミレイユも見た目は10歳くらいの女の子だ。たしかに武器屋には似つかわしくないだろう。子どもが迷い込んだと勘違いしても無理はない。
「私たちはこれでも冒険者なんだ。成人してるよ」
私は苦笑しながら首の冒険者証を見せて言う。この冒険者証は、未成年に見られがちな私とミレイユにとって、成人していることを手軽に証明できて便利だ。
「お嬢ちゃんたちがねぇ……」
店主が疑いの目で私たちを上か下まで見回す。
「はぁ、冒険者ってんなら売らないわけにもいかねえか……。何が欲しいんだ?」
「弓が欲しい。できれば革鎧程度なら貫ける物が良いな」
「はぁ…。ここにはお嬢ちゃんの細腕で引ける弓なんて無えよ」
店主が私の腕を見て、ため息を吐いて言う。まぁたしかにルーの体は脆弱だからなぁ……。店主がため息を吐くのも分かる。
「これでも弓の扱いには慣れてるんだ。一番張りの弱い弓でいいから見せてくれないか?」
「そうは言うがな、お嬢ちゃん。ここにあるのはどれも冒険者向けの威力重視のロングボウだ。お嬢ちゃんには力も足りねえが、腕の長さも足りねえよ」
「うーむ……」
店主の言うことは尤もだな。ロングボウのような大きな弓を扱うには、私の腕は短すぎる。
「では無理か……」
諦めて別の店に行こうとした時だった。
「……あれならいけるか?ちょっと待ってな」
そう言って店の奥へと消える店主。
「どうしたのかしら?」
「何だろうな?」
ミレイユと2人して首を傾げてしまった。
「ミレイユ、すまないな。せっかくのデートだというのに……」
ミレイユにしてみれば、せっかくの私と2人っきりのデートだ。それが、こんな武骨な武器屋で時間を潰してしまっている。普通は呆れるなり怒るなりして嫌がると思うのだが……。
「いいのよ。寄り道って程じゃないし、それに、これはルーにとって必要なことだもの」
そう言って、屈託なく笑うミレイユ。今日のミレイユは、すごく機嫌が良い。それほど私を1日独占できることが嬉しいのかもしれない。
考えてみれば、ミレイユがハーレムに加わった時には、私には既にディアネットという恋人が居た。後から入ったということで、ミレイユはディアネットにどこか遠慮する気持ちがあったのかもしれない。
そこにきて、この1日占有権だ。機会は皆平等なので、誰にも遠慮する必要が無い、私と2人っきりの時間。何事にも気を使いすぎる気配り上手なミレイユにとって、誰にも遠慮する必要が無いというのは、とても開放感があるのかもしれない。
「待たせたな、お嬢ちゃん」
店主の老人は、わりとすぐに戻ってきた。その手にはわりと大きな箱を抱えている。
…箱?私が欲しいのは弓なのだが……。
箱は大きいとはいえ、弓が入るような大きさじゃない。いったい何が入ってるんだ?
「よっこいせ」
店主の老人は、カウンターに箱を置くと、箱の中身を取り出していく。どうやら細かくパーツに分かれているらしい。次々とパーツを取り出していく。
「待ってろよ。今、組み立ててやっから」
どうやら様々な素材を張り合わして作るコンポジットボウの類らしい。それにしては、パーツが多い気がするが……。
どんどんと組み上がっていくその姿に、私は店主の意図を察した。たしかに、これなら非力な私でも鎧を貫く威力が出せる!
◇
「まいどありー」
店主の声を背に、私はホクホク顔で店を後にする。
「ルー、本当にあんなへんてこなので良かったの?」
「ああ。アレこそ私が求めていた物だ」
「あなたがいいならいいけど。じゃあ行きましょ」
そう言って差し出されたミレイユの手を取ると、ミレイユが私の腕に抱きつく。繋いだ手も自然と恋人繋ぎになり、今の私たちは、どこからどう見ても恋人同士だろう。
周囲にラブラブな空気を漂わせつつ、私たちは道を歩いていくのだった。
風神様のお戯れ~TS神様が正体隠してダンジョンで遊んだり、百合ハーレムも作っちゃいます~ くーねるでぶる(戒め) @ieis
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