ボク

@Pretzel0406

第1話

なんだ。周りが暗い。

丸い鏡の向こう側に男が立っている。

視野が鏡のフレームのせいで狭くなっている。

おかしい。


1.

東京の街は今にぎやかだ。大きな地震からの復興工事が始まり、活気に満ちている。大規模な工事になることは明らかだ。震度7.5の影響は只者じゃない。強化コンクリートで造られた高速道路まで破壊された。

「そこの君!油を売ってないで早く働きな!」

その人の動きを見てればわかるだろうが、ここの工事場のボスだ。東京の街の復興のためにボランティアに来たようだ。着ているユニフォームはいかにも「ボランティア」の存在を目立たせようと

“がんばれ!東京!”

の文字と大きなハートのイラストが印刷されている。

「はい!すみません!すぐやります!」

注意された部下は背中を咄嗟に伸ばして、力強く答えた。

顔全体に黒い炭がかかって、腕にはすでに傷がある。おかしくもない。あれほどでかい強化コンクリートを一人で運ぶなど不可能に近い。

通りがかりの市民も同情的な目で彼らを見る。

そこには子供が彼らの汚い服装と顔を見てくすくす笑っている。

「ねえお母さん、みて!あのおじさんたち顔汚い!お風呂入ってないのかな?」

うるうるとした丸い目で子供はお母さんを見つめた。

周りのボランティアの人や横断歩道を渡りかけている街の人たちの目線は一斉に子供の母親に向けられた。

彼女は罰が悪そうに子供の手を引っ張って走って行っていた。



「な、なんで!は….あ、は…あ」

荒い息を立てながらボランティアの一人が体を震わせている。お気の毒だ。やりたくもないボランティアをやらされている上に恐怖に陥るとは。

周りの人はすぐ男に駆け寄ったが男は逃げた。

まるでみてはいけないものを見たかのように。

男に引かれるかのように俺は追った。声は出さずに静かに追いかけた。


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