指輪の行方
数日後、莉子ちゃんはお母さんと一緒にお礼参りにきた。
「お姉さん、小太郎見つかりました!」
「良かったね! もう元気になった?」
「少し衰弱していましたが、もう大丈夫です。このたびは本当にありがとうございました」と莉子ちゃんのお母さんが頭を下げた。
「いえいえ、これも神様の思し召しです。お礼ならこちらにお願いします」
わたしが二人を祠の前に案内すると、莉子ちゃんとお母さんは並んで手を合わせた。
「ちゃんと声に出して言わないと、ここの神様には聞こえないからね!」
莉子ちゃんがお母さんに教えている。相変わらずしっかりしてる。
「神様、小太郎を助けてくれてありがとうございます! わたしの好きなお菓子を持ってきたから食べてください!」
莉子ちゃんが大きな声で言うとお母さんもそれに
「小太郎を見つけてくださって、ありがとうございました。私達にとっては大切な家族で、本当に感謝しております。どうぞこちらをお納めください」
お母さんからはのし袋もいただいたので有り難く頂戴する。これも神格アップのためだ。
最後に、本当に困っている人以外には、うちのことは言わないでくださいとお願いした。
◇
それからもペットを探して欲しいという依頼が何件かあった。犬、猫、フェレット、インコなどで、インコは遠くに飛んでいったようで見つけられなかったけど、それ以外はその日のうちに見つけることができた。
「いい感じだね」
「うん。白狐が思ったより優秀だった」
朝陽兄ちゃんとわたしが縁側に座って話していると、「ぼくのこと褒めてる?」と白狐が寄ってきた。
えらいえらいと二人で白狐の顔や体をわしゃわしゃする。
「光くんもありがとねー!」
見えないけど、大きな声で光くんに礼を言う。このメンバーだと光くんだけ見えなくて仲間はずれみたいになるから気をつけないといけない。
わたしの中で光くんのイメージは六歳の少年だ。大きくなったと言われても、伝えてくれる白狐の喋り方が幼いので、どうしても子供の姿が浮かんでしまう。
失せ物探しを始めてから、朝陽兄ちゃんはちょくちょくうちに寄ってくれるようになった。晩御飯を食べていくときもある。いっそお泊りしちゃえばいいのにと思うけど、さすがにそれは言えない。
「朝陽兄ちゃん、最近よく来てくれるけど、大丈夫なの? その、彼女とか」
「やなこと聞くなよ。彼女なんかいません」
「へ、へえー。そうなんだ」
よし! 見られないように小さくガッツポーズをする。
「仕事が忙しくてそれどころじゃないなあ」
「それはあと何年くらい……」
「え?」
「ううん、何でもない」
わたしが結婚できるまであと五年。それまで彼女作らないってのは無理かなあ。
「朝陽兄ちゃんは何か探して欲しい物はないの?」
「うーん、そうだなあ……白狐と初めて会ったとき、天国があるならお父さんとお母さんに会わせて欲しいって泣きながら頼んだんだ。神様がいるなら、天国があってもおかしくないだろ? もちろん、亡くなった人に会うことはできなかったけど、美月さんと奏多さんに会えたし、美桜ちゃんにもこうして会えた。少なくとも居心地の良い場所は見つけられたよ」
そう言って朝陽兄ちゃんは、わたしの頭を優しく撫でた。
しょうがない。しばらくは妹みたいな存在で我慢しよう。でも、あと何年かしたら覚悟してね。
熱い想いを胸に秘め、わたしは無邪気に笑ってみせた。
◇
「秘密の花園クラブ」のメンバーのひとり、フランス料理店のオーナーの洋子おばさまから連絡があった。宝石を探して欲しいそうだ。
「しばらく使ってなかったから、紛失していたことに気がつかなくて。知り合いの方からいただいたエメラルドの指輪なの。今度その方の家でパーティーがあるから、つけていかないとまずいのよ」
「どこで失くしたかわかりますか?」
「それが全然わからないの。家に置いてあると思ったんだけど……」
「町内にあれば、もしかしたら探せるかもしれませんが、遠くだと難しいです」
「しょうがないわ。そのときはあきらめます」
その後、家に来てもらって指輪の大きさやデザインなどを詳しく聞いた。
「少し時間がかかるかもしれないので、また連絡します」
「わかったわ。わたしもこれから店だから。よろしくね、美桜ちゃん」
「はい。洋子おばさま」
わたしは上品で太っ腹な洋子おばさまが大好きだ。
小さい頃から、うちに来るたびに可愛いぬいぐるみやおしゃれな小物をプレゼントしてくれた。秘密クラブのメンバーは皆そうだが、うちの花を飾るようになってから売上が上がったので凄く感謝してくれている。
以前、火事で祠が消失した際も、建て直す費用を皆で出してくれたらしい。うちにいる神様の力を信じてるから、こんな小娘に頼んでくれるのだ。
わたしは白狐に簡単な指輪のデザイン画と、ネットで調べたエメラルドの画像を見せた。
「こういう宝石なんだけど、探せるかな?」
「ちょっと主の目の色に似てる」
「そっか、光くんの目って緑色なんだよね」
「うん。すっごくきれいだよ」と白狐が自慢げに言う。
わたしも見たいなあ。深い湖のような瞳だってお母さんが言ってた。ものすごいイケメンだから美桜には刺激が強すぎるかもって――蛇の
わたしは白狐とリビングに行き、テーブルの上に地図を広げた。
「うちがここで、ここがスーパー、洋子おばさまの家はここだよ。有川って表札が出てる。広い一軒家だからすぐわかると思うよ」
「じゃあ、行ってくるね」
「いってらっしゃい。気をつけてね」
白狐がガラス戸をすり抜け、空高く飛んで行く。
夕方の空には、ぼんやりとした丸い月が浮かんでいた。
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