失せ物探し

 通常、願いを叶えたい人は神社などに参拝するが、うちは民家だし勝手に入って来られるのも困る。どうしたものかと考えていると、朝陽兄ちゃんが妙案を出してくれた。


「秘密の花園クラブみたいに紹介制にしたらどうかな?」

「そっか、それなら変な人が来ることもないもんね」


『秘密の花園クラブ』は、決して怪しい団体ではない。(名前は怪しいけど)

 うちの庭の花を買い取ってくれるレストランなどの経営者たちが勝手に付けたネーミングだ。彼らは美しい庭と私たち家族の平和を守るため、情報を洩らすことなく取引を続けてくれている。


「あと、光くんに何が出来るかだよな。神社によって、学業とか縁結びとか商売繁盛とか、それぞれの神様の得意分野みたいなのがあるから、それをメインに布教活動をしていけばいいと思う」


「ねえ、白狐。あなたの主は何が得意なの?」


「……別にないって言ってる」


「えーっ」


 わたしの不服そうな声を聞いて、朝陽兄ちゃんが言う。


「しかたないよ。神様たちの中では光くんは新米だろうし、他の神様とも付き合いがないからわからないんだろう」


「じゃあ、逆に出来ないことから考えようよ」


「そうだな。たぶん、学業とか恋愛とかは無理じゃないか?」


「光くん、経験もないしね」


「商売繁盛……少なくとも秘密クラブのメンバーは繁盛してるけど、いくら結界が張ってあるとは言え、これ以上メンバーを増やすのは危険だよね」


「え? この家、結界が張ってあるの!?」


「あれ、聞いてなかった? 敷地全体を囲むように結界が張られてるから、危険な人物や危ない物ははじかれるんだって」


「うわっ、そうだったんだ! 知らなかった……ずっとわたしたちを守ってくれてたんだね。ありがとう、光くん」


「『ぼくの大事な家族だから』だって」と白狐が伝えてくれた。


 ほんとに優しくて可愛い神様だ。早く顔がみたいなあ。


「おみくじって、学問や恋愛の他に失せ物や探し物ってのがあるけど、そういうのはどうかな?」


 スマホで“おみくじの内容”を検索しながら、朝陽兄ちゃんが白狐に訊く。


「『白狐が飛んでいける距離なら探せると思う』って」

「じゃあ、それで決まりだな」

 

 みんなで話し合い、町内またはその近辺で探せるものに限定し、犬や猫といったペットも含めると決めた。


「でも紹介だけだとあんまり来ないよね。どうやって依頼主を呼び込もうか……」


 わたしたちが頭をひねっていると、白狐がどこからか小さな木札をくわえてきた。

 

「なに、これ?」

「それを門にかけておけば、探して欲しい人が来るって主が言ってる」

「へえ、すごいね!」

「早速、かけてみよう」


 朝陽兄ちゃんが門に札を取り付け、わたしたちはなんとなくお札に手を合わせて拝んだ。

 

   ◇


 数日後、門の前でうろうろしている小学生の女の子がいた。

 わたしは怯えさせないようにゆっくりと近づき声をかけた。


「こんにちは。ここ、わたしのうちなんだけど、もしかして何か探してるの?」


「そうです。でも、わたしお金持ってないから……依頼料とか結構かかるんでしょ?」


 しっかりしてるなあ。


「何年生?」


「六年です」


「うちは探偵じゃないからお金はとらないよ」


「ほんとに? でも、タダほど高いものはないって言うし」


 なかなか用心深いな。


「大丈夫。うちの祠にいる神様にお願いごとを言うだけだから」


「なんだ。見つけてくれるわけじゃないんですね」

 女の子はシュンとした。


「まあ、絶対ってわけじゃないけど、この町内に探し物があるなら、かなりの確率で見つかると思うよ」

「…………」

「無理にとは言わないけど、庭に綺麗なお花が咲いてるから、ついでに見て行けば?」

「お花?」


 彼女の目が輝いた。ふふん、そうだよねえ。花が嫌いな女の子なんていないよね。

 

 わたしが門を開くと、彼女は黙ってついてきた。 

 庭に一歩足を踏み入れると、「わあっ!」と声を上げた。

「きれい……」

 ひとしきり花を眺めてから、彼女は祠に気がついた。


「もしかしてあれが?」


「そうよ。ここまで来たんだから、ちょっとお願いごとしていけば? うちの神様に聞こえるようにちゃんと声に出してね」

 

 そう言ってわたしはその場を離れた。

 少し戸惑っていたようだが、彼女は祠の前に立ち、手を合わせた。


「神様。うちで飼っている猫の小太郎が迷子になってしまいました。小太郎は腎臓の薬を毎日飲まないといけないので、どうか早く見つけてください。茶色の猫で青い首輪を付けています。よろしくお願いします」


 彼女が願いごとを言い終わると、光くんが指示したのか、白狐がすぐにどこかに飛んでいった。


「ちょっと、ジュースでも飲んで待ってようか」


「何を待つんですか?」


「もしかしたら、小太郎が見つかるかもしれないでしょ」


 私たちは庭のテーブルで一緒にジュースを飲んだ。

 彼女の名前は萩原莉子はぎわらりこちゃん。探しているのは十年飼っている猫の小太郎。一昨日いなくなったそうだ。


「病気だから早く見つけてあげないといけないのに、頼んでるペット探偵からもなんの連絡もないの」と心配そうな莉子ちゃん。

 白狐、うまく見つけられるかな。

 

 しばらくお喋りをしていると白狐が戻ってきた。


「ちょっと待っててね」


 わたしは祠の前まで移動して白狐に話を聞いた。


「いたよ。二丁目公園の草むらに隠れてる。くわえてきた方がよかった?」


「ううん、大丈夫。ありがとう、白狐」


 わたしは莉子ちゃんに言った。


「お告げがあったよ。二丁目公園の草むらの中にいるみたい。カゴとか何か捕まえるものを持って、親御さんと一緒に行ってみて」


「ほんとに?」


 莉子ちゃんが涙ぐむ。


「またいなくなるといけないから、すぐに行って!」


「はい! あの、お礼は……」


「じゃあ、見つかったらお菓子でも持ってお礼参りに来て」


「ありがとうございます!」


 走って帰って行く莉子ちゃんの後ろ姿を門の外で見送った。



 ―――――――――――――――――――


 いつも読んでいただきありがとうございます。

 


















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