第2章 美桜
美桜の記憶
あれから二年後、美月は奏多と結婚し、さらに二年後、女の子を出産した。
桜が満開のときに生まれ、
◇
小さい頃から、自分のまわりに何かがいることは知っていた。
病気のときはそばにいてくれたり、泣いていると涙をぬぐうように顔に触れたり、縁側から落ちそうになったときは腕を引っぱってくれたり、そんな風にいつも見えない何かに助けられてきた。
幼稚園の頃、母に聞いたことがある。
「おかあさん、いっつもみおのそばにいるの、なにかなあ?」
「それはねえ、優しい神様と白いきつねさんが美桜を守ってくれてるのよ」
「ふうん」
子供心に母がそう言うなら安心だと思った。
それからは、気配を感じるたびに話しかけたり、触れないものかと腕をぶんぶんと振り回したりして父と母に笑われていた。
『ふっ、
『しーっ、わたしたちに見えてることがばれちゃうでしょ』
なにやら内緒話をしている両親を見て、いつも仲良しだなと思ったものだ。
うちの庭は季節ごとに咲く花が変わる。そりゃそうだろうと思うだろうが、まさか一晩ですべての花が入れ替わるとは思うまい。
毎年、季節が変わる頃、「明日から違う花が咲くからね」と母が言う。
次の日の朝起きると、確かにすべての花が変わっているのだ。
これが当たり前だと思っていたわたしは、小学校で嘘つき呼ばわりされた。
「うそじゃないもん。うちの庭は一日で花が全部変わるんだから!」
「そんなわけないだろ。やーい、うっそつきー」
バカな男子にいじめられて泣きながら家に帰ると、父は怒り、母は困った顔でわたしを抱き締めた。
「くそガキめ。うちの子をいじめやがって! やっちゃっていいか?」
「いけません! しょうがない。また庭でお茶会しようよ」
「いいけど、なんかしょっちゅうやってる気がするな」
「まあまあ、これが一番効果あるんだから」
数日後、母が持たせた招待状を、わたしをいじめた高木くんと野田くんに渡した。
「お母さんが呼べって言うから、絶対来てよね」
彼らはびくっとして、おそるおそる招待状を受け取った。わたしの母に叱られると思ったのだろう。
当日の招待客は、わたしの友だちの萌ちゃんと雅美ちゃんと男子二人の計四人。
夏の庭には、黄色のマリーゴールドやひまわり、オレンジ色のカゼニア、紫の
庭の花を目にした途端、みんなきゃあきゃあと騒ぎ出した。
「うわあ、きれいねえ!」
「ほんと。植物園みたい」
男子たちまで口を半開きにして、「すげえ」とか「きれいだな」とか言っているのを聞いて嬉しかった。
お父さんは男子たちの肩に両手をまわし、「よく来たねえ。ちょっとお話しようか」とずるずると引っ張っていった。お父さんは目つきが悪いので結構迫力があるのだ。男子たちの怯えている様子を見て、ちょっと気分がスッとした。
そのあとは、庭にある白いテーブルで美味しいケーキやお菓子を食べた。
お父さんがわざわざ有名なお店から買ってきてくれた、フルーツがたっぷり載ったタルトや、苺のショートケーキ、モンブラン、チョコレートケーキなどがテーブルの上にずらりと並べられている。ここでもまた歓声が上がった。
ケーキを食べながら、みんなで楽しくお喋りした。
男子たちもいつのまにかお父さんと仲良くなったようで、アニメの話なんかで盛り上がっている。
食べ終わると、好きなだけ花を持って帰っていいと言われて、みんな大喜びで花を摘んだ。(ハサミで切ったのはお父さんだけど)
帰り際、高木くんと野田くんがわたしに謝った。
「うそつきとか言ってごめん。おまえんちの庭、なんかすごいよな。それに、おまえの父ちゃん面白いな!」
「おれもごめん。花、ありがとう。うちの母さん花が好きだから喜ぶよ」
「もういいよ。お母さんにも言われた。うちの庭は普通じゃないんだって」
もうからかったりしないと約束して、わたしたちは仲直りした。
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