コミック配信記念 一話冒頭別視点
コミック配信記念に、別視点から見た第一話冒頭を投稿。
みなさまありがとうございまああす!
◆
王宮の片隅を歩く少年、名をジェイク・サンストーン。青の目と金の髪を持って生まれた彼は、このサンストーン王国の王族であり王子だったのだが、付き人が一人もおらずぶらぶらと歩いている様は、王宮という安全な場所であっても異常な事だった。
「父上、おはようございます」
「……」
肥満気味の王は実の息子からの挨拶を無視して歩き続ける。
(所詮は下級貴族が母の出来損ないだな)
だが意識はちゃんとジェイクに向けられている。悪い意味で。
王にすれば取るに足らない下級貴族が母であるジェイクは、栄えあるサンストーン王族に相応しくない存在だ。
(やはりレオとジュリアスだが……王はどちらにすればいいものか)
一方、自慢の長男と次男は、今のジェイクと同じ十歳頃には覇気も能力も宿しており、それは神の名を持つスキルを宿していたことで確かな証明となった。
(レオならば武王。ジュリアスなら賢王か)
暖かな太陽はサンストーン王国の未来を祝福しているかのようで、どちらが王になっても歴史に名を残すだろう。
王はそれを嫉妬せず素直に祝福できる程度には父親だったが、王家の家長としては失格もいいところだ。
(さて……)
そして神ではない王は破滅へ転げ落ちる。
愛している息子に裏切られ、頭から完全に消え去った末っ子が王になるなど想像もできなかった。ましてや自慢の息子二人は斃れ、己の名が残らないなど……。
じっと見ていた。
「兄上、おはようございます」
「話しかけるな。汚らわしい」
兄であるレオがジェイクを見る目も冷たい。
(始末するべきか?)
一瞬だけジェイクの始末を考えたレオだが、危険視や王位継承争いの一環ではなく単純に王家の恥部を消す程度の発想だ。
(いや、俺が王になる前に騒動を起こすと面倒事になるな。無能が死ねばジュリアスも警戒するだろう)
だが既に政敵と化しているジュリアスに付け入るスキを与えかねないし、ジェイクはどうあがいても王になれない木っ端だ。
それを考えるとレオが真っ先に始末する必要があるのはジュリアスであり、王城をうろちょろしているごみは後回しでも全く問題ないと判断した。
(父上も父上だ! 王位などすぐ決まる問題だろうに!)
そしてレオが怒りを向けている先は父にもだ。
レオにすればすぐに片付く問題を先延ばしにしている父は全く頼りにならない男であり、その点ではちゃんとレオとジュリアスを愛している父とは違う。
(大体、女に金を使う余裕があるなら軍備にもっと金を使え!)
更に続けて心の中で悪態を吐くレオは、ジェイクのことなどすぐに忘れてしまった。
散々政治的な失敗を重ね、王都から追い出され、配下からは主としての能力を疑問視された挙句、異国の地で斃れることなど想像すらせず。
じっと見ていた。
「兄上、おはようございます」
「ふんっ」
ジェイクから挨拶されたジュリアスにすれば、実務能力が全く感じられず呑気な顔を見せているジェイクはゴミと同じだ。
(こいつが弟だと?)
ジュリアスにすれば憎き兄のレオだが、一瞬で潰せない敵であるということは同格だと認めることでもある。
そのため能力も才気も感じず、敵にすらなれないジェイクが同じ兄弟とは思えないのだ。
(まあいい。それよりレオめ。これ以上の軍事費を求めているなど……!)
ジェイクのことなどほぼ眼中にないジュリアスは、レオの求めている軍事費が過剰にしか思えず、自分に対するものではないかと疑っていた。
半分正解だ。
レオはジュリアスを粉砕することと同じくらい、よその国を攻め落とすことも求めている。
(こちらも団結を急がねば)
ジュリアスはレオに対抗するための思考に耽る。
他国に焦りを利用され、反逆者として名を刻み、最後は当然の裏切りに斃れることなど夢にも思わず。
じっと見ていた。
そして……。
「貴様を王城から追放する」
王城から追放されたジェイクは……。
(やったぜ。王城にいたら下手すりゃ殺されてたし!)
喜んでいた。
彼にすれば王位なんてものは完全に無縁であり、兄二人の争いなど関わることすらできない。
そんな環境なのだから追放されたところで悲しむはずもなく、寧ろ気楽な生活を送れると喜んでいた。
『お勉強は継続ですからね!』
(あ、はい)
なおそんなだらけた生活は自称教育係で上品なお嬢様が許さず、ジェイクの脳内でキンキンと釘をさしていた。
(まあ、王位のことが落ち着いた後に、なにかしらの仕事をする必要があるかもだし、勉強は必要だな。うん)
『おほほほほほ。貴方が生きてる間に落ち着いたらいいですわね』
(ご、五年。いや、十年以内に落ち着くんじゃないか。多分。恐らく。きっと)
騒がしい身内が落ち着いたらいいなあと天を仰ぐジェイクが知る筈もない。
国を滅ぼしかねない女達と出会い、大公となり、女達と結ばれ、戻ることはないだろうと思っていた王城の主になるなど。更には彼の息子は王位継承者ときたものだ。
だが、夫となり、父となってもあの日から始まった物語はまだ続いていた。
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