幕間 戦争分析班のため息
前書き
明確に話の流れを変えてくれる方々の登場(:_;)
◆
戦争が終わったら後始末が発生する。
それはジェイクがアゲート大公時代に設立した組織、戦争分析班の仕事も発生することを意味していた。
「始めるとしよう」
纏め役であるグレイソンの言葉に頷く者達だが、顔にはどこか疲れの表情が浮かんでいる。
「まずクォーツ民意国が戦争を仕掛けてきた理由だが……色々ありすぎるな」
「民意を広めるなど、はた迷惑この上ない」
「民意は建前ではないか? どう考えても略奪を主眼としているだろう」
「いや、末端は民意を信じ切っている筈だ」
「アルバート教が持つエレノア教への敵意も考えられます」
「旧サファイア王国と戦争した時の怨恨もあるでしょう」
「それぞれの理由が別々の頭で考えられた節が……」
武官達は戦争の要因を述べているのか、呆れの感情を吐露しているのか……。
戦争分析班からみたクォーツ民意国は纏まりがなさ過ぎて、あらゆる頭が各々勝手に考えた結果、戦争という手段に行きついた可能性が高いのだ。
しかし、特に理解できない現象があった。
複数。
「王政同盟との二正面作戦は……まあこの際いいだろう。だが幾らなんでも計画がずさん過ぎる!」
「どうも行軍中に馬車が壊れたようだが、なぜ組合を解散させたのに品質の確認をしなかったんだ?」
「思い付きで軍事行動を起こしたとしか思えないんですが」
「結局指揮官は誰だったんだ?」
「港なんて敵前逃亡だぞ……」
「落ち着け! 整理しよう!」
戦争分析班は、組織が成立してから常に頭を抱えている。
今回も一つ一つはまだ納得できるが、重なった失策により無能の極みとしか表現できないクォーツ民意国のせいで、悲鳴のような声が飛び交った。
「まずはそうだな……クォーツ民意国の青空の市民会のメンバーが、出陣する前の軍を数日待たせて、演説を行ったという情報がある。だがそれほど重要な人物ではないようだな。となると……」
「名を売るためでしょうかね」
「戦争計画を歪ませて演説を優先なんて、何を考えているんだ?」
「日程に余裕がないのなら、本当に思い付きで行動したのでは……」
「軍の方は上に睨まれることを避けたのだろう。こちらはまだ理解ができる」
戦争分析班を混乱させているのは、クォーツ民意国の頂点である青空の市民会の一人、エモリーが出陣しようとしている軍を待たせて、素晴らしい演説を行ったという情報だ。
この計画性の欠片もない行いは、多少の士気高揚に役立つかもしれないが、戦争計画を上回る程に明確な実利があるかどうかはかなり疑わしい。
だがそれを行ったのは、末端とは言え仮にも敵国中枢の一員であり、戦争分析班の面々に馬鹿と戦争をやっている事実を刻み込んでしまう。
余談だがエモリーは現在、青空の市民会の手により、サンストーン王国と通じて軍の出陣を遅らせた裏切り者として捕縛されている。
「次は馬車が不良品だらけで放棄されたという情報だが……組合を解散させておいて品質の確認をしなかったのはなぜだ……」
「思い付きで実行したから制度が間に合ってないのかも……しれません」
「あり得ない話……ではないか。青空の市民会は人気を得るため、組合は値段を吊り上げている庶民の敵であると言って解散させたのだ。長期的な視野での考えはあるまい」
「基準を設けて生産力が落ち、値段が上がれば意味がないと判断した可能性もある。のか?」
「連中は市場での自由や競争という言葉をはき違えているかもしれん。これでは無策と同じだ」
「しかしそれにしたって、誰かが確認くらいしてもいいだろうに」
「それこそ、誰かがやってると思ったのでは?」
「あ、頭が痛い……」
続いて彼らを悩ませているのは、行軍に影響が出るほどクォーツ民意国の馬車が不良品だらけだったという情報だ。
まだ戦争分析班は馬車の規格が違う上に、向いていない材木が使われていたことまでは把握していなかった。しかし原因を把握していなくとも、常識的に考えるなら組合を解散させた後になにかしらの基準を設ければ、不良品だらけの馬車が作られることは防げるはずだと考えた。
「それに指揮という言葉が存在しないぞ。国境沿いの戦いでは総指揮官がおらずバラバラに動いていたし、港での戦いは責任者が真っ先に逃げたと聞く」
「軍でこういったことはするなというお手本を見せてくれたのでしょうかね。はあ……」
「総指揮官を決められない程にバラバラで揉めている。責任感が全くないから逃げ出す……」
そして戦争分析班は、クォーツ民意国の烏合の衆としか表現できない失態についても頭を悩ませる。だがどう考えても、多少の背景はあるが組織として成立していない程に無能であるという意見しか出てこない。
「端的に表現するなら、敵は国家そのものが歪で全員が無能だ」
「……」
天を仰いだグレイソンに誰も言葉を発せられない。
王政同盟との二正面作戦、ずさんな管理、計画性のなさ。
目先のことしか考えられない指導者層、民意と我儘を混在して暴走する民衆、裏にいるくせに宗教的な盲目状態のアルバート教。
それら全てをひっくるめて分かりやすく説明するなら。
無能。
である。
「ふう……」
ある意味で、世界の秘密に挑んでいるに等しい戦争分析班のため息は、むなしくアゲートの地で溶けていった。
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