続く家族会議

 サファイア王国の情勢が混沌を深めるにつれ、ジェイクの私室で行われる家族会議の頻度も多くなり、ここ最近は毎日のように全員が顔を突き合わせている。


「サファイア王国王都の陥落も近いな」


「ええ。そうね」


 広げられた大雑把も大雑把なサファイア王国の地図と、そこに記されている反乱の起こった地点を見ているアマラ。水晶玉を覗き込んでいるソフィーの言うとおりだ。


 エレノア教の情報網が劣化している上に、混乱と狂気の中心地になることが分かり切っているサファイア王国の王都に、サンストーン王国の情報源は存在しなくなっている。そのため殆どを推測するしかないが、反乱軍は王都の周り全てで発生しているといってもよく、それに王都の市民が同調すれば陥落は間違いないだろう。


「サファイア王もまず助からんな」


「これで生きていたら占い師を廃業する」


「最近しょっちゅう廃業の危機だな」


 アマラがサファイア王はまず助からないと判断すると、ソフィーも同意して頷く。


「思いもよらない手段で脱出する可能性もあるが……パール王国の“貝”や“黒真珠”のようなものは、サファイア王国で確認されていないんだったな」


「はい。秘密裏に王とその周りを連れて、この状況下で国外脱出を図れるような組織は確認されていません。ですが裏の世界ですので、パール王国に把握されていないような腕利きがいないとも限りませんが……」


 アマラが非正規活動の専門家であるリリーに問う。


「ちなみにやけど貝と黒真珠がサファイア王国におったならどうや?」


「王を連れて脱出できると思います」


「ひょえええ。やっぱ凄腕やったんやな」


 エヴリンもリリーに質問して身を震わせる。


 暗闘の専門家を多数抱えていたパール王国は、サファイア王国に極められた裏の組織がないと判断しており、リリーもそれを知っていた。このように得た情報を漏らすから、他国に逃れた諜報組織の人間はなんとしても始末しなければならないのだ。


 そして事実として、壊滅直前の最盛期の貝と黒真珠がサファイア王国に存在したなら、秘密裏に王を連れて国外に脱出することができただろう。


「ちなみにのちなみにやけどリリーが一人なら?」


「多分いけるかと」


「あ、はい」


 続けた質問の返答にエヴリンはなんとも言えない表情になる。


 今現在サンストーン王国全土でサファイア王国と同じことが起こったとしても、追っ手を全て殺し尽くして家族を国外へ逃すことが容易い【傾城】ならば尚更始末する必要があった。


「そんな組織が確認されていませんし、あまり逃げ場もありませんしね」


「ええ」


「まあそうだな。隣国全部と戦争中なんだ。海路で遠方に逃げるしかないが……無理だろう」


 微笑むイザベラにソフィーとアマラが同意する。


 隣国全部であるサンストーン王国、アメジスト王国、ルビー王国と事実上戦争中のサファイア王国国王は、陸路ではなく海路で遠方に逃れるしかない。しかし、必ず港町に行かなければならない海路はかなり人の目につく。


 なお余談であるが、ある意味サファイア王国から脱出できている者達。サンストーン王国の捕虜となっているサファイア王国の貴族は、一族が壊滅したため身代金を払う存在が消え失せ、完全なお荷物と化している。しかし、捕虜を殺す訳にもいかないので飼い殺しが決定していた。


「やはり問題なのは、アルバート教がその類の組織と人員を抱えていた場合ですね」


「そうだな」


「その場合、イザベラが狙われるかもしれない」


「困りました」


 レイラの言葉にアマラが同意すると、ソフィーは頬に手を当てていかにも困っていますと言いたげなイザベラを見た。


 レイラ達が懸念している事案は、サファイア王国ではなくアルバート教に裏の部門が存在した場合だ。


 パール王国は宗教勢力であるアルバート教を必要以上に探っておらず、裏方が存在していたかを把握していない。だが、エレノア教に一歩譲るとはいえ、最古に近い宗教勢力に神の信仰を守り神敵を抹殺するための部署がないとは言い切れなかった。


 そして狂信者の類が裏の技術を所持して離脱していた場合、理性に制御されていない凶刃は、目障りなイザベラを害そうとする可能性があった。


 この可能性を補強する現状もある。あくまでもしそんな部署があると仮定した場合だが、破門されながらも好き勝手している連中が今現在も生きているということは、アルバート教は追っ手を差し向けていない。もしくはその追っ手となる人員が離脱して、アルバート教からいなくなっているかもしれないのだ。


「人間の熱意と善意を全て否定するつもりはないが……」


「盲目的に突っ走った場合は周りを巻き込む」


 千年生きているアマラとソフィーは、アルバート教から離脱した者達の根幹である善意が、恐らく碌なものにならないと判断していた。


「幸い国内から傾く気はしないから、外から来る連中に気を付けないと」


「うちのことヤバい呼ばわりしたヤバい女が、なんか傾く気とか言うとるけど、具体的に分かるかリリー?」


「いやあ……」


「ふふふ。私も分かりません」


 顎を触るレイラにエヴリンが呆れ、リリーは困ったように頬を掻いてイザベラがほほ笑む。


 それからも暫く家族会議は続くのであった。


 ◆


 そして。


 サファイア王国王城陥落、王族は全滅。


 反乱者達は、王や貴族ではなく市民を主体にしてこそ国家であると宣言。


「宣言に意義も意味もある。今はない」


 イザベラから報告を受けたジェイクはそう呟いただけだった。






 ◆

 あとがき

 単に演出として、ジェイクを最後に一言だけ喋らせたかっただけですので、合間合間に話していたと思っていただければ。

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