相変わらずの家族会議
サンストーン家の家族会議は、ジェイクの私室で夜に行われるが、相変わらず【傾国】、【奸婦】、【傾城】、【悪婦】、【毒婦】、【妖婦】が一堂に揃うのは、その美貌だけではなく立場とスキルを考えると壮観の一言だ。
「民衆による国家の打倒か……なるほど。今のサファイア王国ならあり得るな」
「確かに」
その家族会議でジェイクから民衆による国家打倒と、その思想を押し付けられる懸念を伝えられたアマラとソフィーは、今まで持っていなかった概念でも現実に起こる可能性があると判断した。
「普段ならまず成功しない。兵士でもない民衆が魔法攻撃のようなスキルを見たら、腰が引けるからな。実際この千年間、苛政で反乱を起こされた領主はいるが、大抵は民衆が攻撃スキルに怯えて波及しなかった。それに偶に現れる貴族以外のスキル所持者も、体制側が取り込むから同調しない」
「でもサンストーン王国での敗戦と、アメジスト王国、ルビー王国に攻められた時に戦闘スキル持ちの連中も多くが戦死しているはず。後は単に数の問題になる」
アマラとソフィーは歴史上に他国で起こった領民の反乱を思い出す。
領民のことを気にもかけないような、どうしようもない領主というのは時折存在する。そういった者は苛政が原因で領民から反乱を起こされるが、大抵の場合は武力と攻撃的なスキルに怯えて波及しない。
特に農村で暮らす者達にとって、世界とはまさにその狭い農村であるため、攻撃的なスキルで火の玉を投げつけられたら、完全に未知の体験で世界がひっくり返るような驚愕と恐怖を覚えるのだ。
しかしソフィーの言う通り現在のサファイア王国はボロボロで、兵数と戦闘スキル持ちの貴族の数が激減していた。それを考えると民衆を制圧するための余力もない。
「それと疫病が流行って、その病人をサンストーン王国に送り込んでくる計略の可能性はあるかな?」
「ふむ……」
「……」
ジェイクが提示したもう一つの可能性に、薬師でもあるアマラと暗部のリリーが考え込む。
サファイア王国の領民がサンストーン王国に大挙としてやって来ることはない。領地の領民とは文字通りそこに縛られている。言葉を悪くすると彼らは領主の所有物であり財産でもあるため、勝手に他の地へ動いたとなれば罰せられるし、周囲の領主も揉める原因は追い返そうとするだろう。
それに加え、実際に行動に移したとしても国家間の移動に必要な食料や物資を、混乱しきっているサファイア王国の民が準備することはまず不可能だし、距離の近い国境に住んでいる者達はサンストーン王国と戦争状態であることを実感している。
だが、サファイア王国が計略として疫病に蝕まれている者達を送り込もうとしたならその限りではない。
「可能性は全くない訳ではないが……実行した場合幾つか問題に直面するな。大規模はまずない。その疫病が他の街々に広がるし、統制が緩んでいる情勢でそれをやると移動先の貴族が反乱を起こす」
「少数を秘密裏に送ろうとした場合はかなり専門的な部隊が必要です。陸路は事実上封鎖されて国境貴族の警戒網がありますし、足手纏いの病人を常に気にかける必要があります。海路も限定された空間で暮らすことになりますので、下手をすれば全滅します。そして途轍もなく秘匿されている可能性もありますが、知る限りサファイア王国にそのような組織は確認されていません」
「なるほど」
油断は禁物だが、その計略はかなり難しいと判断を下した専門家の意見にジェイクは頷いた。
「混乱しているサファイア王国と違い、侵入されたとしても病をどうにかする類のスキル持ちは健在ですしね」
「そうだね」
イザベラの捕捉にもジェイクは頷く。
旧エメラルド王国とパール王国の一部を吸収しているサンストーン王国は強国の部類で、病に対抗できるスキル持ちもそれなりにいる。ここにいるアマラもスキルで薬剤を作り出せるため、そのうちの一人だ。
全く別の側面から対抗できる者もいるが。
「薬の売り上げが伸びる感じもせんなー」
(そのうち占いは廃業)
国内で薬の需要は伸びないと感じたエヴリンの言葉に、ソフィーは内心でそろそろ占い師を廃業しようかと思った。
「……ただ、サファイア王国でもそれほど伸びん感じがするなあ」
「それほど病が流行らないということでしょうか?」
「うーん……」
続いてエヴリンは、サファイア王国でも流行り病の薬の需要がそれほどないと判断したが、イザベラの言葉には妙に思い悩んで首を傾げる。
「疫病が発生するは発生するが……なんというか……なんだ? 収束してそれも国が傾く原因になるのか?」
ここで今までずっと集中していたレイラが目を見開いたものの困惑していた。
「それほど疫病の質が悪いものではなかったか。あるいは収束させた腕前を持つ者が担がれるか」
ソフィーはレイラの困惑を解釈したが、完全無欠なスキル【予知】や【予言】の類は存在せず、人である彼女達は推測をするしかない。
「見極めて備えないとね」
ジェイクの言葉に頷く女達。
未だアメジスト王国とルビー王国が睨み合っている時点での会話だった。
『おほほほ。口を挟まなくていいのは楽ですわね。おほほほ』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます