反逆者の末路

 大逆賊ジュリアスに敗北が近づいている。サンストーン王国に存在する全ての貴族が、軍を率いるなどしてジェイクに合流するため行動を起こし、また賛同を表明しているのに、悪名で劣化しすぎたジュリアスの情報網はそれを完全に把握できていない程だ。


 しかし、流石にアゲート軍本隊に対しては、残された僅かなリソースの全てを振り分けているため、それなりに詳細なことを把握していた。


「アゲート軍、レオの勢力圏を完全に超えましたが、行軍が止まりません! また周辺の貴族の合流も続いており、王都から逃げ出したガーン伯爵らの旗もあったようです!」


「無能如きに!」


 ジュリアスは刻一刻と悪くなる報告を受ける。


 ついにアゲート軍がレオの勢力圏を抜け、ジュリアス側が支配していた地域に足を踏み入れたがそれだけではない。元ジュリアス派の貴族達が先を争うようにアゲート軍と合流しているため、立派な国軍ともいえる規模となっているのだから、離脱者しかいないジュリアスが抗う術などなかった。


(なぜ上手くいかない! 俺は【政神】持ちなのだぞ!)


 ジュリアスとレオ、哀れな兄弟だろう。幼少期に素晴らしいスキルを持っていることが発覚して、それだけを根幹として生きていたと言っていい。


 スキル【戦神】、【政神】。他にも幾つかこれ以上ない才能を表す意味で、神の名を冠するスキルは存在する。だが、神と呼ばれているため表立って貶していないものの、アマラとソフィーに言わせれば欠陥スキルに近かった。


「縛られしまうんだろうさ。その生き方に」


「レオはその中でも特に顕著」


 かつてアマラとソフィーは、肩を竦めながらジェイクにそう言ったことがある。


 自分がこれ以上ない才能を持っていると保証されたとき、果たして人は他の選択肢を取れるだろうか。まず無理である。


 戦うことに関してこれ以上ない才能の持ち主なら、全て戦うことで決着を付けようとするだろう。それが突き詰めていった結果、レオのように行動が読みやすい存在が生まれてしまったのだ。


 それはジュリアスにも言えることである。アマラとソフィーは千年も各王家を渡り歩いていたため、かつて存在したスキル【政神】所持者に会ったことがあり、分かりやすい傾向も掴んでいた。


 政治的中枢。即ち王都に対して非常に強い執着があるのだ。そのためもし放棄する場合はギリギリのタイミングになるし、かつ王城や王都全域を破壊するような命令を下すことができないと予想されていた。


 実際にジュリアスは、アマラとソフィーに行動を読まれ、エヴリンの味覚から逸脱せず、レイラの勘を凌駕することもできない。


 一方のジェイクにそのような才能はない。


『政治の場で全く何も知らないなんて許されませんわよ。必要なことは無理矢理叩き込み、微妙なものは広く浅く教えて差し上げますから、後は自分で日々学びなさいな。おほほほほほほ!』


 代わりに自称素晴らしい教育係が、ジェイクに様々なことを教え込んでいた。


 話を戻そう。


 ジュリアスの最期に。


 ◆


 それから暫し。アゲート軍は着々と行軍を進め、王都まであと少しの場所まで到着していた。


 それに応じてジュリアスは、山間部の砦に。


(最早王都を放棄するしかない!)


 逃げていなかった。


 スキル【政神】の感覚が、アマラとソフィーの予想通り大いに足を引っ張っていた。


 これが旧エメラルド王国との戦いのように、王都に帰還できる前提だったならここまで酷くはなく、ジュリアスも出陣することができた。


 しかし今回はいつ戻ってこれるか分からないため、【政神】がジュリアスに二の足を踏ませ続けていたのだ。これに関しては、ジュリアスのほぼ真後ろにいるといっていい存在は無関係に。


 そして突然……。


「逆賊覚悟!」


「なっ!?」


 ジュリアスのいる部屋に二十人ほどの男達が押し入ってきた。


 実際のところは突然というより必然である。


 ジュリアスの前提が崩れたように、別の存在達の前提も崩れていた。


「近衛が裏切るか!」


 ジュリアスの言葉通り押し入ってきたのは近衛兵の末端である。


 近衛の末端は犯罪の証拠を握られた主犯である隊長格に比べ、なんで自分達が反逆に巻き込まれたのだと被害者意識が強かった。しかし彼らもレオが自分達を許さないのは分かっていたため、ジュリアスに仕方なく付き従っていた。


 だがレオが敗れ、ジェイクが相手となれば彼らの前提は崩れる。


 敵対したのに許されている貴族達を知ったとき、彼らはジェイク相手に降れば末端の自分達は命までは取られないのではないかと考えた。そこへ手土産があれば完璧である。とも。


 事実その通り。反逆の主犯とほぼ同列である近衛の隊長格は話にならないが、末端の近衛兵が手土産を持ってきた場合、ジェイクはその功を認める必要があった。


 つまり近衛兵の末端は、手土産である近衛の隊長格の他に、ジュリアスの首も求めてやってきたのだ。


 そしてレオなら切り抜けただろうが、ジュリアスには不可能だ。


「死ね逆賊!」


「ぎっ!?」


 巻き込まれようと逆賊の一員である近衛兵が、大逆賊ジュリアスに剣を振るうと、文官らしく細い体は何の抵抗もできず剣を受ける。


 服ごと切り裂かれたジュリアスの鮮血が部屋に舞うが、それだけでは終わらず他の近衛兵達もジュリアスに刃を突き立てた。


(王に……)


 奇しくも最後の想いはレオと同じ。だが死の寸前まで玉座に囚われた男が、きちんと口にした最後の言葉は、近衛が裏切るか。である。


 あるいはサンストーン王国に富を齎し続けて偉大なる王国を築き、外敵によって無様に滅んだ可能性を秘めていた男のあまりにもあっけない死に様。


 【政神】ジュリアス、サンストーン王国王城にて斃れる。


 裏切りは裏切りを呼ぶのは当然。国家に反逆したジュリアスの最期は、自身が原因でもある反逆によるものであった。


 








ナニカはまた言葉を発さない。


まだ大本が残っていた。


そして友人と同じ目に会わせてやれる時がすぐそこまでやってきていた。

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