国家の方針

 前書き 

 箸休めはこれで終了 


 ◆


 無人の野を行くと表現できるほど、ジェイクが率いる軍は順調に行軍を進めていく。しかし、政治的に勝利しているも同然だから、軍内部でも特に動きがない。という訳ではない。


「サファイア王国に攻め入ったルビー王国とアメジスト王国だが、やはり勝利を重ねているらしい」


 野営の準備のため行軍を止めた軍内で、ジェイクはアゲートから連れてきた者達や、レオの下から逃げ込んできた貴族達に、エヴリンから齎された情報を口にする。


「むう……」


 ジェイクに対して、今は目先のジュリアスについて考えましょうと言うものはおらず、ある者は唸るような声を漏らして現状を確認した。


 武闘派故に国防に関する意識が高い元レオ派の貴族達にとって、隣国で行われている戦争は自分達が行っている戦いと同じくらい重要な物なのだ。その結果によっては、サンストーン王国に侵攻してくる可能性もあるため猶更である。


「ただし、サファイア王国の弱体化に我慢できなくなった軍事行動であり、かなり急な軍の編成ということもあって準備が追いついていない形跡がある。それに、アメジストとルビーの間で話がすぐ纏まって連携しているとは思えない。欲張って行動した結果、両国が揉めて戦争どころではなくなる。もしくはサファイア王国の逆襲を食らう可能性もある」


 ジェイクの言葉にこの場にいる者達が頷く。


 サファイア王国が大失態を犯して弱体化したので、弱ったサファイア王国が取られる前に自分の取り分を確保するため、二国が軍事行動を起こしていた。そのため碌に事前の打ち合わせはなく、攻め入った二国間での調整も行われていなかった。


「そのため、サファイア、ルビー、アメジストに注意は必要だが今すぐサンストーン王国になにかをしてくる余裕はほぼないだろう」


 ジェイク言葉に再び全員が頷く。


「次にパール王国だが経済的にひどく混乱しているのは間違いない。こちらも我々に関わる余裕はないはずだ」


(これ以上ない機会だ)


 ある元レオ派の貴族は、現状が最善に近いものだと判断する。他国がサンストーン王国に介入してくる可能性がほぼなく、ジュリアスだけに集中すればいい状況だった。


 その状況に直接、もしくは間接的にジェイクが大きく関わっていたが。


(アゲート大公……外のことを調査できる余裕と手段、考えがあるか。我々にはなかったものだ……)


 また別の貴族は、財政的にカツカツでサンストーン王国の外のことについての調査ができなかった自分達と、とにかく玉座しか見ていなかったレオに比べ、ジェイクが方々に目を光らせていたのだと思った。


(王宮で一時囁かれていたスキル【無能】所持者という噂も所詮は噂だったか?)


 そしてこういったことを行える主なら、少なくとも大逆賊ジュリアスよりかはずっとマシだった。


『おほほほほほほほほ!ロペス男爵の顔を見てみなさいな。なんだ、別に無能じゃないぞと言いたげな顔をしていますわよ!』


(急にうっせえ!)


 本当に【無能】が引っ付いていたが。


(大所帯になったから男爵辺りは顔と名前が一致しないんだよなあ……)


『おほほほほ!』


 無難にこなしているように見えるジェイクだが、急な大所帯になったせいで末端貴族の名前と顔を覚えきれていない悩みを抱えていた。これが公爵や伯爵になると流石に分かるのだが、男爵や子爵になると記憶が怪しいのだ。


(アマラ様、ソフィー様、イザベラ様がいないとはいえ、この場に呼んでいただけるとはなんとありがたい)


 そんな末端の貴族達は、ある意味の軍議に呼ばれていることに感謝していた。


 あくまで古代の王権とエレノア教教皇は、大逆賊ジュリアスに対抗するためジェイクの軍に同行しているだけであり、サンストーン王国の国防を論じるこの場にはいない。しかし、きちんとした場に呼んで貰えるということは、それだけ自分達の立場が保証されていることに他ならなかった。


「さて、そろそろジュリアスに仕方なく与していた者達もやってくるだろう。また一つ内乱の終わりに近づくというものだ」


 ジェイクがなにを言いたいかは全員が分かる。反乱を受けた側の元レオ派が、理想を追い求めてジュリアスに味方した者を全員処断すれば、サンスト―ン王国は今度こそ手が回らなくなって、内から木っ端微塵に消し飛ぶだろう。


 何かしらの罰が必要といっても、国を二分したジュリアス勢力の貴族は非常に多かったため、内乱の混乱と合わさってやはりとんでもないことになる。


 そうならないためには、ジュリアスが全部悪いことにしてジュリアス派を吸収するしかない。理想で国家が死ぬか妥協で復活させるかの二択である以上、ジェイクもこの場にいる者達全員も、取れるべき手段はそれだけであり、貴族達は頷くことで同意したのであった。


(国王陛下は……病気療養だな……)


 国政によく絡む公爵という最高位の貴族達には別の悩みがあった。それがジュリアスに幽閉されているアーロン王のことである。


 レオやジュリアスとは全く違う理由で政治的に死んでいる王が、素直にジェイクへの王位を認めるとは思えない。そして、アーロン王が王位に留まることを望んでいる者は誰もいない以上、王宮の隅に引き続き幽閉するしかなかった。


 そしてジュリアスに対してだが……全員が同じ意見であり、そうなるだろうと結論を下していた。


 まずは王都の放棄だろうと。


 事実、その通りだった。

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