相変わらずいつも通りの無能と【無能】
『アゲート大公陛下! 直訴いたしますわ! どうかお聞き届けくださいませ!』
世情の季節が移り替わろうとしても相変わらず【無能】は空気を読まず、執務が一息ついたジェイクの脳内で大声を発する。
(後ろ向きで善処しない。真逆のことをやる)
『んま! 文官的答弁かと思いきや全面否定するだなんて!』
(何度も言うけど、【無能】と真逆のことをやったら正解だろ)
『おほほほほほ! では勝手に直訴しますわ!』
(それ俺に聞いた意味ねえじゃん!)
ジェイクがお約束のように【無能】の直訴とやらをさせまいとするが、甲高い女の声はお構いなしだ。
『では筆頭家臣チなんとかさんからの直訴お便りですわ』
(勝手にチャーリー卿の名前を使うな)
『素晴らしく有能な【無能】さんに悩みを相談させてください。我らが大公陛下の婚姻とお世継ぎはいつになるでしょうか? またあの地獄の騒動には戻りたくありません。もうレオ殿下には遠慮されないのですから、婚姻も問題ないのではないでしょうか? とのことですわ』
(も、諸々の情勢を総合的に判断してなんちゃらかんちゃら……)
【無能】がチャーリーとしか思えない名を使うとジェイクが突っ込んだが、直訴お便りの内容を聞くと遠い目になった。これは今までの、レオに対する配慮からの婚姻時期に関する不透明さではなく、別の問題が浮上したからだ。
『お便りをしてくれた筆頭家臣チさんに、有能な私がお答えしましょう。全部上手くいけばですが、サンストーン王国に出戻る予定のアゲート大公陛下と第一婦人レイラの子は、サンストーン王国の第一王子になるため、いる場所はサンストーン王国王都になりますわ!』
(だよなあ)
【無能】の予想にジェイクも頷かざるを得ない。
ジェイクはレオ、ジュリアスと対抗するすることを決め、なにもかも上手くいけばという注釈が付くが、サンストーン王国王都に舞い戻る可能性もある。そうなればジェイクとレイラの第一子はサンストーン王国の第一王子になるのだから、その子をチャーリー達の望んでいる次期アゲート大公にすることができなかった。
(だけどアマラとソフィー、父上からアゲートの管理を任されたジェイク・アゲート大公の立場を利用している上に、アゲートは一大商業圏になりつつあるから、可能な限りサンストーン王国に紐付ける必要がある。俺の子供でかつ、エヴリンが能力的に問題ないと判断したら完璧なんだけど……)
だがアゲートはジェイクと政治的にも利益的にも密接に関わっているため、彼がサンストーン王国に戻った後も繋がりを保つ必要がある。最良はアゲートの管理を任されたジェイクの血を引いて、エヴリンが能力的にも問題ないと判断した子になるだろう。
『心配ご無用ですわ! ひ孫の代くらいまでは、このできる教育係がきちんと教育して差し上げますので!』
(俺の頭の中からどうやって出ていくつもりだよ。その頃には俺と一緒に墓の中だろ)
『な、なんてことですの。ゆりかごから墓場までなんて、すけこましさんは私まで口説こうと……ぽっ』
(んな訳あるか!)
『あ、唯一の教え子が人間のことをちっとも信用してないので、その反省を活かさないと。次の子には、人間は全員手を取り合える素晴らしい種族であると教えないといけませんわ』
(はいクビ)
若干天然気味なジェイクですら、【無能】の宣言にはツッコミを入れるしかない。
『えーでは続きまして、第一王子のレなんとかさんからのお便りですわ。配下に金を集めろと言っても集まりません。以前はそれでなんとかなったのに、急にできなくなったのはどうしてでしょうか?』
(もう金を集めろと命令すればいいだけの状況と立場じゃないからです)
『分かりました。ではあるところから持ってきます。ありがとうございました』
(マジでやめた方がいいと思います)
『お次は訳あって匿名のジなんとかさんから。馬鹿を取り逃した以外は全部上手くいっていますし、その馬鹿も自滅しそうなので笑いが止まりません。相談することはないですが、誰かにこの喜びを知ってほしくてお便りしました。とのことですわ』
(なら代わりに相談に乗ってほしいです。兄弟仲がくっそ悪いんですがどうしたらいいですか? ってお便り送ってくれ)
『最後にどこかの誰王さんから。息子が二人いるのですが、仲がくっそ悪くてどうしたらいいか分かりません。とのことですわ。似たような悩みをお持ちの方がいるみたいでよかったですわね』
(大体あんたのせいだから諦めましょう。あと息子は二人じゃなくて三人だ。落し胤がいなけりゃな。って返事をしておいてくれ)
ジェイクはとある家庭の事情に対してキレが増していく、と言うよりは雑になっていった。
そして残念ながらその家庭は最早骨肉相食むしかなく、生きて全員が揃うことはまずないだろう。元々数えるほどしかなかったが。
『直訴は以上ですわ』
(じき……そ? まあいいか。仕事に戻るからな)
【無能】の直訴に、途中から訳が分からなくなったぞとジェイクは首を傾げたが、【無能】が馬鹿騒ぎを起こすのはいつものことだと気を取り直して仕事に戻る。
例え季節が変わろうと、無能と【無能】はいつも通りだった。
◆
『おほほほほほ! さあてボチボチやっていこうとしますかね! 人類社会が想定していないことを、とある一家に教育してあげましょう! 全ての政治体制! 全ての国家! 全ての組織! それらの運用において所属する人員が、頭の先から足先に至るまで、なにもかも一切合切が無能であることを人は想定していないと! おーーーーほほほほほほほほほほほほほ!』
この世で最も悍ましく恐ろしい存在が……人類社会にとって天敵そのものがいつも通り蠢き始めた。
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