家族計画
場所は悩める国境貴族から戻って、アゲート大公の私室。
「レオ王子が婚姻を結ぶなら、我々もそろそろだな」
ニヤリと笑うアマラがとんでもない爆弾を投下した。紆余曲折あるが、レオが婚姻すればそれに配慮しているジェイクは、いよいよ何の障害もなく、部屋にいる女達と婚姻関係になることが出来る。
「そう言われてみればそうですね」
言われてみればと、何気ない返事をするレイラだが、ただでさえ光り輝いているようなのに、妖しい輝きまで宿し始める。
(とりあえず子供は十人だな)
脳内の輝きは桃色だったが、第一夫人として大公の子を産む必要があるので、仕方がないと言えば仕方ない。
「国境貴族達からご祝儀貰わんとなあ」
エヴリンが、冗談めかしてニタリと笑う。今現在頭を抱えている国境貴族を支援しているのは、エヴリンが主導して行っているため、彼らが真相を知れば直接お礼を言いに来るのは間違いない。
「僕はいつでも大丈夫ですので!」
大丈夫という言葉に色々と含んでいるリリーは、女として急成長しているのに、少女のように元気がいい。尤も、淑やかな女にも、無垢な少女にもなれるのが彼女の恐ろしいところだが。
「祝福はお任せください。私は自分自身でしますのでご心配なく。うふふ」
愛の女神エレノアに仕えていることになっているイザベラが微笑む。女教皇に婚姻を祝福されるなど、大国の王族でも箔がついたと生涯自慢できる程だ。とは言え、イザベラが自分で自分を祝福する訳の分からない状況になるので他言は出来ない。
「酔ってるでしょ」
「馬鹿言え。ワインを少し飲んだ程度で酔うものか」
「じゃあジェイクと一緒にいる雰囲気に酔ってる」
「……」
唯一ソフィーだけがアマラに呆れている。今更婚姻を強調しなくても、ジェイクと女達の関係は揺るぎない。アマラがそれを態々言ったのは、ソフィーの言う通りジェイクがいるのが嬉しくて、ついつい口が軽くなっていたためだ。
「タイミングが難しいよね」
ジェイクが腕を組んで考え込む。
「レオ兄上が正式に結婚してすぐは無理かなあ……」
「ふふ。そうですね」
首を傾けるジェイクに、イザベラが苦笑して同意する。
いよいよレオの婚姻が形になっているが、彼とパール王国の姫に正式な婚姻が結ばれて、すぐにジェイクが婚姻を発表すると、話題を掻っ攫うつもりかと難癖をつけられる可能性があった。
「ジェイクはこんなに配慮してるのになあ」
(戦うことしかできんってのは面倒極まるわ)
「確かに」
(普通使者を無視するもの?)
肩を竦めるエヴリンにリリーが同意する。見た目は普段と変わりないが、内心では苛立ちを感じていた。
国境貴族との関わりもそうだが、ジェイクは細心の注意を払ってレオの面子を潰さないよう立ち回っているのに、そのレオが全くジェイクの立場を配慮しないのだから、彼女達が苛立つのも無理はない。
「思ったのですが、パール王国の姫がレオ王子の子を産んだとして、その子の立場はどうなるのです?」
レイラは頭の中が桃色に輝いて人生設計をしていたからか、レオとパール王国の姫の間に生まれた子供のことが気になった。
「いい質問だレイラ。答えは非常に微妙と言うほかない」
「政治的なリスクが増える」
アゲート大公の第一夫人として必要な疑問を口にしたレイラに、アマラは満足げなものの首を横に振り、ソフィーは率直に答える。
「えっと。アーロン王の許可を得ていない、非公式な婚姻関係の子供になるからですよね?」
「はいその通りです。このままならレオ王子が勝手に婚姻して、極端なことを言いますが私生児を作ることになります。なにせ、サンストーン家の家長であるアーロン王がなにも認めていないのですから」
可愛らしく首を傾げたリリーに、イザベラが説明する。
レオとパール王国の姫との間に子供が生まれた場合、その子供は非常に危うい立場になる。厳密にはアーロン王の許可がない正式な婚姻関係でないのだから、少なくとも現在の情勢では、その子供はサンストーン王家直系とは言えないのだ。
「レオ王子が存命の間はいい。でも死後の引継ぎで揉める可能性が高い」
ソフィーが顔を顰める。
レオ自身は間違いなくサンストーン王家直系で、逆賊を討つ旗頭なのだから、その立場は盤石と言っていい。だがその死後、血統だけではなくその正統性も重視する貴族社会で、正式なサンストーン王家と言い難い彼の子は、非常に苦労することが目に見えていた。
「解決するには、やはりアーロン王の身柄ですね?」
「そうだ。王都を確保できなくとも、アーロン王の身柄さえなんとかできれば、政治的な問題は大方解消される。大方な」
エヴリンにアマラが大方と念を押して答える。
レオの婚姻に関わる正統性の無さを解消するには、アーロン王を確保して、正しいものだと保証してもらえばいい。それを断った場合アーロン王は、病気になるだろう。
「尤もその前に、ジュリアス王子が国内の有力貴族の娘と婚姻して、自分とその子こそが正統なサンストーン王家の直系だと宣言するだろうがな。勿論、アーロン王のお墨付きだと言って」
「ああもう……」
アマラの予想だが、それがありありと見えたジェイクは嘆息した。
国内が混乱している以上、ジュリアスの婚姻相手を国外から招くのは不可能だ。それなら自派閥の有力貴族の娘と婚姻した方が、結束力を高められる。そして身柄を押さえているアーロン王の認可を得ている、正式なものと言い張ることも出来る。
「という訳で、こちらは正式なアゲート大公の子が必要だな」
「確かに」
「うふふふふふふ」
サンストーン王家の混乱を念頭に、アマラ、ソフィー、イザベラの姐さん女房三人は、レイラとジェイクに意味ありげな視線を送った。
「が、頑張ります!」
「まだ先の話だから」
真っ赤な顔のレイラを、ジェイクはなんとか落ち着かせようと試みる。
「大変やのう。ぷぷぷ」
「そういうお薬をお婆様から……」
それをエヴリンはニヤニヤ笑い、リリーはなにやら怪しいことを考えている。
世界の中心だろうと、そこは家族の形をしていた。
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