姐さん女房達の光景
ジェイクの私室に、イザベラ、アマラ、ソフィーの姐さん女房達が集結してソファに座っていた。その中でも、イザベラはジェイクと同じソファに座り、二人は手を握り合っていた。
「本当にこれだけでいいの?」
「至福の時間です!」
「そ、そう」
ジェイクがイザベラに訊ねると力強く断言されて、彼としては珍しく気圧された。
女達の中で、アゲートの地にやって来たのが最も遅かったイザベラは、その分ジェイクとの触れ合いを求めていた。それ故彼女は、ジェイクに手を握らせてほしいと願い、今も彼の手を柔らかく握って感触にうっとりとしていたのだ。
「もう片方の手が空いてるから先にどうぞ」
ソフィーは、アマラに快くジェイクの手を握る順番を譲ってあげることにした。世間では女帝などと言われているアマラだが、愛する男とスキンシップをしたいのを我慢している乙女なのだ。
「せんわ!」
「素直じゃないわね」
「なにがだ!」
アマラは顔を真っ赤にして拒否する。しかしその顔色で、彼女も手を握りたいと思っていることが丸分かりだった。
「じゃあアマラもどうぞ」
「そう言われたら仕方ない」
「ぷふ。ほ、本当に涎が出るところだった……」
そんな照れ屋のアマラだが、ジェイクに誘われると直ぐ席を立ち、彼の隣に座るとその手を握った。その前言の翻しように、ソフィーは本当に吹き出してしまい、もう少しで涎が垂れるところだった。
「ふむ。意外とゴツゴツしているな」
「今でも素振りはしてるからね」
アマラはソフィーを無視して、ジェイクの掌を確認する。彼の掌は、ボケっとした外見とは違って意外と逞しく、これは習慣となっている素振りの結果、皮膚が厚くなっているからだ。
「いいことだ。結局、どこまで行っても己を守るのは己だからだな」
「確かに」
古代アンバー王国の戦乱を見届けたアマラとソフィーは、ジェイクのある意味用心に感心した。例え王であろうとも、最後の最後には自分で身を守らなければならないのだ。それは独立国の大公でも例外はない。
(何があっても守ってみせると言いたいが……)
(人間、死ぬ時はあっけなく死ぬ……)
幾つもの死を見届けてきたアマラとソフィーは、人間の脆さを知っている。その千年の経験を持っているからこそ、ジェイクの命を守るという安請け合いが出来なかった。
(もしもの時は……)
(一緒に冥府を歩こう)
アマラとソフィーは、ジェイクに万が一のことがあれば、その後を追うことを決めていた。彼女達が望んでいるのは、愛する者と生き抜いた先にある永遠の静寂なのだ。その愛するジェイクが欠けた生を許容出来なかった。
「とりあえず九十ちょいまで生きてるから心配しなくていいよ。その後は孫とひ孫に囲まれて大往生」
「ふっ。そうか」
「うん」
「その予定なら、子も産んでおかないとな」
「よろしく」
ジェイクは、アマラとソフィーの雰囲気を感じ取り、自分の予定を根拠なく保証する。そんな都合がいい言葉でも安堵したアマラは、冗談のような本気のような予定を返した。
『ジェイク・すけこまし・アゲート大公の本領発揮ですわね。それとも、ジェイク・女殺し・アゲート大公がよろしくて?』
そんなやり取りに、【無能】が訳の分からない名をジェイクに送っていたが、いつものことだったので彼は無視した。
「アマラ、退いて」
「譲ってくれるのではなかったか。とは言うまい」
立ち上がったソフィーが、アマラにジェイクの隣から離れるよう要求した。当初の約束では、アマラが優先されるはずだが、彼女は仕方ないなと肩を竦めてジェイクから離れた。
『いい加減、女を必要以上に喜ばせたらどうなるかを学習するべきですわね』
(うん?)
「ジェイク」
「え?」
【無能】の意味ありげな声にジェイクは首を傾げたが、その答えはすぐだった。
「子供は十人ほしい? それとも二十人?」
「ぶもももももも!?」
ジェイクは隣に座ったソフィーも、自分の手を握るだろうと思っていたがそれは大きな間違い。色々と我慢できなくなったソフィーは、これまた将来の予定について話ながら、ジェイクの頭を自分の体に埋めた。
「ああ! それなら私も!」
「ぐぼぼぼぼぼ!?」
淑女としてはしたないことはできないと思っていたイザベラだが、抜け駆けをされたら話は違う。彼女はただでさえ埋もれていたジェイクを、ソフィーと挟んでしまった。
「ええい! いっつもこれだ! 早く離れんか!」
「ぐももももも!?」
アマラはお約束の光景を止めさせようとするが口だけだ。ソフィーとイザベラの間に無理矢理入り込んで、結局はジェイクを更に埋めてしまっていた。
相変わらず激しいスキンシップだが、アゲートの調査が終わったことでアマラとソフィーは、あと数日でこの地を発つことになっており、イザベラも忙しいのでいつまでもいられない。そのためこの行為は、寂しさを紛らわせるために必要なことなのだ。
「ぐも」
ジェイクもそれが分かっているからこそ無抵抗だ。ひょっとしたら、力尽きているだけかもしれないが。
とにかく、世界で最も権威ある女教皇と、古代王国の生き残りである双子姉妹は、たっぷりと愛する男を堪能したのであった。
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