波乱が起こるはずもない旅

 前書き

 第二王子ですが、なぜか最初ジュリアンだったのにジュリアスになってたので、ジュリアスに統一しました(無能の中の無能)



 ジェイク・アゲートがサンストーン王国王都を発ったが、当然その旅は波乱に満ちて山あり谷あり困難の連続


(順調すぎ。暗殺者が来るくらいは思ってたんだけど)


『おほほほほ。面白いこと言いますわね。アマラとソフィーがいて、最上級の騎士達が護衛している大公に暗殺者なんて送って成功してみなさいな。冗談抜きに責任問題で大臣クラスの首がぽんぽん飛ぶことになりますわよ』


 にはならない。


 馬車の中で揺られているジェイクは、自分がこれでもかと疎まれている自覚があるため、旅の最中に肉親から暗殺者の一人や二人は送られるのではないかと思っていたが、【無能】が高笑いしながら否定する。


 そうならないようにアマラとソフィーはアーロン王に手を回し、しかも直接ジェイクと同行することによって守りを完璧なものにしたのだ。もし古代アンバー王国の末裔である2人が同行する一行で暗殺騒ぎなど起これば、同行する最上位の騎士達は名誉にかけて絶対に阻止せねば騎士として生きていけず、万が一ジェイクが暗殺されれば、他国から双子姉妹が同行した大公が暗殺されたとはいったいどうなっているのだと突っ込まれ、下手をすればアーロン王が直接謝罪の行脚を行わなければならない事態になる。それほどアマラとソフィーの格は大きいのだ。ジェイクの前では姉さん女房のアマラと、甘やかしたがりなソフィーであってもだ。


 とにかく毒婦と妖婦が1年以上手を回した旅なのだからその手の可能性はなく、様々な戦闘スキルを所持している最高位の騎士達とその配下の者達、合わせて100人ほどに襲い掛かるような賊やモンスターなども存在する筈がなく、ジェイクの旅は非常に平穏なものであった。


 一方で心穏やかでない者がいた。


「苛立たしいな」


「言うと思った」


 その毒婦であるアマラが、ジェイクとは別の、外に声が漏れない特別製の馬車の中で顔を顰めながら呟き、ソフィーが呆れながら肩を竦めた。アマラの本心としてはジェイクと一緒の馬車に乗りたいのだが、まだ表向き未婚のジェイクと、女である自分達が同じ馬車に乗るのは立場的によくないと自重していた。だがそれは理性での話。女としては今すぐジェイクの馬車に乗り込み、彼が不安を感じていたなら叱咤しながら抱きしめたいと思っていた。尤も、ジェイクは図太いためそのように繊細ではなかったが。


「不老不死だった頃から短気だからどうしようもない」


「この前、妾を出し抜いて1人で行っただろう」


「ふっ。記憶にないわ」


 ソフィーが似ていない双子の姉であるアマラに短気だと宣ったが、ソフィーはソフィーでアマラを差し置いて、ジェイクのベッドの中に潜り込んでいた前科がある。それを突っ込まれたソフィーだが鼻で笑いながら魔法を使い水晶玉を虚空から取り出して宙に浮かせ、くるくると回転させた。


 ああ麗しき姉妹愛。不老不死の呪いが解けたら、そうしてくれた男を共に愛そうと誓い合っていたのに、いざ男が見つかったら抜け駆けが行われていたのだ。


「まああの子も我慢してるから」


「話を逸らせてないぞ」


 ソフィーが話を逸らすために取り上げたのは、今でもジェイク専属の踊り子と自称しているリリーだ。リリーは今回も従卒として男に化けて同行しており、ジェイクの馬車の隣で歩いているが、今回はイザベラがいないため、野営する際はジェイクの天幕の入り口は騎士の従卒達が守ることとなっていた。その際に何かあった場合、急に天幕に入ってくる従卒に女の姿を見られるわけにはいかないので、リリーは男の姿のままジェイクの少し離れた場所で泣く泣く眠りについていたのだ。そして流石のジェイクも悲し気なリリーに気が付いていたが、騎士達が護衛をしているのに、大公が女を侍らせているところを見られる訳にはいかなかった。


「まあいい。向こうに付いたら暫くは調査の名目で滞在するんだ」


「ええ」


 アマラは話を逸らそうとしたソフィーを捨て置いて、これから自分に訪れる薔薇色というか桃色の未来を思い描いて、現状の苛立ちを我慢する。彼女達は忌むべき地がきちんと管理されているかを調査するという名目で、ジェイクのところに居座るつもりで、忌むべき地どころか愛の巣と考えているような有様だ。


「それに実際は」


「ふっ」


 ニヤリと笑ったアマラに、ソフィーも鼻で笑う。


 万が一誰かに聞かれていた場合のことを考えて、ぼかした話をしていた彼女達だがこれはとびっきりだ。


(アゲートが忌むべき地と定められたのは、神々があの場所で静かに眠ろうとしていたからだ。まあ、間に合わなかったが)


 独白するアマラ。


 忌むべき地アゲート。この場所に関して古代アンバー王国の王族しか知らない秘密があった。なにもないという秘密が。


 アマラ達が青春を送っていた頃、まだギリギリ存在していた神々だが、古代アンバー王国の王族にだけ伝えていたことがあった。それは自分達が死した後の体を悪用されないため、アゲートの地を忌むべき土地として伝え、誰も近寄らない墓所を建設しようとしたのだ。これは人は神聖なる場所には踏み入りたがるが、呪われた地には来ないだろうと思っていた故だ。しかし墓所の建設は間に合わず、それどころか計画段階で神々は死を迎え、仕方なしにその寸前に自らの体を消滅させていた。


 そのためアゲートの地には忌むべき理由は何もなかったのだ。そうでなければアマラとソフィーは、ジェイクの避難場所に選ばない。


 だがその忌むべき地として定められた事実は残り続け、またアマラ達も神々から口外を禁じられ、特に訂正する理由もなかったため、今現在もアゲートの地は忌むべき場所のままだった。


「着いたら忙しくなるな」


「ええ」


 ニヤリと笑う2人。似ていない双子姉妹だが、口が裂ける様な笑みはそっくりだった。


「着いたらゆっくりできそうだな」


『ええ。貴方の中ではそうなんでしょうね』


 一方、無能は無能だった。


 ◆

 

 ◆


 ◆

 

 「ジェイク大公。ここからがアゲートの地になります」


 「うむ」


 そして無能はアゲートの地に足を踏み入れるのであった。



 後書き

 重装備の騎士達と配下100人に突っ込む賊とかモンスターなんかいる訳ないですし、道中の領主がちょっかい掛ける訳もないっすからねえ! 特に何事もなく到着!

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