アイスクリーム
高岩 沙由
幼なじみ
「ねぇ、今日暑いから、アイス食べに行かない?」
栞は一緒に歩いている幼馴染の匠に声を掛ける。
「あん? まあ、いいよ」
だるそうに答える匠に栞は口を尖らせる。
「なにその返事? 学校一の美少女がお誘いしてあげているのに!」
栞の言葉に目を丸くした後、盛大に噴き出す匠。
「自分で美少女っていう奴、いねーよ!」
匠は立ち止まってお腹を抱えて笑っている。
匠とは小学校からの幼馴染で、高校まで一緒に通っているから、もう10年近くの付き合いになる。
最近では、かっこよくなってきた匠にドキドキしている自分がいるが、こうやってじゃれ合えるのももう少しなので、栞は少々焦っている。
「あっ、猫耳カチューシャ!」
原宿の竹下通り沿いの小さなお店の店頭をみて、栞は思わず声を上げ、その近くに寄る。
猫耳だけかと思ったら、リボンまでついていて、かわいい!
「ねぇ、匠!」
「あん?」
振り向きざまに黒猫耳のカチューシャを匠の頭につける。
「似合ってるじゃん! お兄さ~ん、これ2つください!」
栞は財布を出して払おうとしたら、匠が払ってくれた。
「えっ? いいよ、私が出すよ!」
栞が慌てて匠を止めようとしたら、匠がものすっごいいい笑顔になっている。
「今日誕生日だろ? まぁ、誕プレということで」
「ええっ!!!! それなら、もっといいのが欲しいのに!」
栞は口を尖らせて盛大に匠に抗議をする。
「うっせえな」
匠が口を尖らせながらも猫耳にリボンがついているカチューシャを栞の頭につける。
匠は何を思ったのか、店頭にあったもこもこファーの尻尾も買って栞のスカートのベルト通しに取り付ける。
「かわいいじゃん」
店頭の鏡で確認すると、猫耳はグレーで赤いリボン、尻尾も同じでグレーに根本に赤いリボンがついている。
「もとがいいからね!」
栞は照れていることを悟られないように、強気な口調で匠に突っかかる。
「はいはい」
匠は面倒くさそうに軽く流した。
人通りの多い竹下通りをぶらついているとアイスクリーム屋さんが目についた。
「到着したよ!」
栞は匠の手をひっぱり店内に入る。店内にはイートインスペースがあり、高校生やカップルが座ってアイスを食べている。
『いらっしゃいませ!』
店員さん達が挨拶をしてくれるのを聞きながら、店頭に設置してあるショーケースを見る。
中には定番のバニラ、チョコ以外に季節のフルーツや野菜を練りこんだ珍しいものまで、20種類並んでいる。
「匠は何にする?」
栞の横に並びながら匠はショーケースの中を見ている。
「ん~、俺はバニラとほうれん草」
「じゃあ、私は、ラベンダーとバニラ!」
「ありがとうございます! カップにしますか? コーンにしますか?」
『コーンで!』
栞と匠が同時に言うと、店員さんは少し笑ったような気がする。けど、すぐに営業用の笑顔に戻る。
「ご用意する間にお会計させて頂きます」
「あっ、ぜったい私が出すからね!」
栞はけん制したが、匠はしれっとお金を出している。
「誕生日なんだから、黙っとけ」
「あっ、お誕生日なんですか? それでは、トッピングをサービスさせて頂きますね!」
店員さんの言葉に栞と匠は顔を見合わせる。
「お待たせしました! ご用意できました! こちらが、ラベンダーとバニラです」
栞が受け取ったアイスのてっぺんにはカラフルなスプレーチョコが邪魔をしない程度にのっている。
「こちらがバニラとほうれん草です」
匠が受け取ったアイスにはスプレーチョコがのっていない。
「えへ、ラッキー! 匠ありがとう!」
栞がラベンダーアイスを口にしたとたん、匠が栞の右手首を掴むとラベンダーアイスを一口かじる。
何が起きたが瞬時に理解できなくて、匠の顔を見てぽかーんとする栞。
「ラベンダーうまいね」
口元を指で拭いながら、それだけ言うと匠は自分がオーダーしたアイスを食べ始めた。
はっとした栞は、ぼそ、と、間接キス、と呟くと、顔が熱くなるのを感じながらアイスを食べ終えた。
家までの帰り道、栞は話すきっかけをつくらなきゃ、と思いながら匠の後ろを歩いていた。
そろそろ、家に着いちゃうな、と思った時にふいに匠が足を止めてくるりと振り向き栞に向き合う。
「イギリスに行っても俺のことを忘れるなよ」
「……! なんでそれ知ってるの!?」
「親同士も仲いいじゃん」
匠の言葉に納得した栞は決心を固めると口を開く。
「あのね、匠!」
勇気を振り絞り声を出す栞だが、匠も口を開く。
「むこう行っても、俺以外の男と付き合うなよ」
匠は真剣な表情をして栞を見る。
その言葉に栞は固まり、何も言えなくなる。
「栞、返事は?」
栞は匠の胸に飛び込んだ。
アイスクリーム 高岩 沙由 @umitonya
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