あなたから連絡が来たら死なない。
(ひどいよ)
実家から持ってきたお気に入りの木の椅子に腰掛けて、画面の中の彼に話しかける。
既読すらつかないメッセージ、電話も取らない。
もう付き合えない、ごめん別れよう。ってメッセージが来てそろそろ一ヶ月が経とうとしてる、5年も付き合ったのに。
大学で出会った頃はこんなに好きになるなんて思わなかった。
(隣、いいですか?)
地元から上京して入った大学の入学式でそう言って彼は隣に座った。
短く刈り上げた黒髪に、焼けた肌、筋肉質で大きな体、威圧的な細い目に圧倒されて。
小さく返事をして、軽く頭を下げた。
ガリ勉って言葉が良く似合う子たちばっかだった私の高校では見た事ないタイプだった。
色んな人がいるな。最初彼を見た時はそう思っただけだった。
大学生活にも慣れてきて2年目の冬に友達に連れられた飲み会でまた彼と出会った。髪は入学式の頃と変わらず短く刈り上げた黒髪だったがツヤのあるワックスをつけて、ピアスもついてて、どこか垢抜けていた。
元々人見知りでお酒にも慣れてない私にとっては飲み会なんて人にあわせて笑うだけで窮屈だし早く帰って眠りたいなって思ってた。友達のりなは私をほったらかして先輩達と話しているし。
(入学式隣だったよね、覚えてる?)
私の隣にどかっと座って低い声で彼がいった。
狭い座敷の居酒屋で彼が隣に座ると圧迫されている様だった。
(うん、体が大きくてびっくりしたからよく覚えてる)
これって失礼かな、言ってからそう思った。
(そんなにでかいかなぁ)
こちらを見ていた視線が照れ臭そうに下へと向けられ、またこちらを見直した。
照れ臭そうな彼を見た時、私は初めてこの飲み会の当事者としての感覚が芽生えた。
(俺、杉本拓也。よかったらスギタクって呼んで!みんなもそう呼んでるし)
まだ少し照れの残る声色で彼はいった。
(えっと私は西村瑠海。よろしくね、杉本くん)
圧迫感や緊張は充分に溶けていた。
まだ、スギタクなんて呼べないけど。
(えっスギタクって呼ばないの?)
彼は少しおどけた声でいった。
これがきっかけで連絡先を交換して、何度か連絡を取る様になり、
彼に誘われて試合を見に行った、彼はサッカーをしていてポジションはGKだった。細身の選手が多い中、一際身体の大きな彼はゴールを守る姿がよく似合っていた。最初にあった時とも飲み会であった時とも違う。
闘志剥き出しでゴールを守るそんな姿にいつのまにか見惚れていた。
その日はそのまま帰り、後日私から誘った食事で、拓也に告白された。
それからの大学生活は本当に幸せだった。2人で色んな所へ行った。
卒業してお互い仕事が忙しい時期だって合間をぬって2人で出かけた。
少し落ち着いたら同棲しようなんて話もしてたのに。
それなのに何で?急にもう付き合えない別れようなんて意味わからないよ。
拓也の事だから何か事情があるのだと思うけど、
女の影なんて全然なかったし、仕事だって上手くいってそうだった。別れるにしても理由がわからないと。
それでもこっちの気持ちなんて無視して拓也からの連絡は来なかった。
(死にたい)
今日あいつが私に鉄砲を渡していれば、今すぐ引き金を引いて死ねたのに。こんな気持ちのまま明日を迎えずに済んだのに、なんでさっさとくれなかったの?
あいつだって死ぬつもりだったくせに。死にたい私を見て救いたいとでも思ったの?馬鹿じゃないの。
拓也、返事をしてよ。あなたの彼女はあとちょっとで死ぬつもりなんだよ?
部屋のあちこちにある思い出に目を向けない様に目を伏せてひたすらどうにもならない時が過ぎていくのを祈った。
寂しい男と銃と死にたい女 楽楽 @harunoashita
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