第11話 神父の秘密
「それがあなたの正体よ!」
ステラの指はまっすぐラースさんの方を向いていた。
ざわざわと不気味に森が騒がしかった。
指を突き付けられたラースさんは俯いていた。
「やだなぁ」
やがてラースさんは眼鏡を上げていつもの笑みを俺たちに見せる。
「魔獣なんて……それに人狼? とんでもない。私は紛れもない人間ですよ。それとも何か証拠でもあるんですか?」
「証拠がなくても、私の『眼』は誤魔化されないわ!」
行くよ、ウィー、とステラはウィーと合体すると同時にラースさんに向かって飛び掛かる。
ラースさんは慌てたように
「わ、わ……やめてください。私はにんげ――」
とステラに弁明しようとしたが、言い終える前にステラの足がラースさんの顔面を捉えて、鈍い衝撃音がこの場に鳴る。
だが。
「よくわかりましたね……!」
ステラの足はラースさんを――いや、ラースさんに化けた人狼を吹き飛ばせず。
狼化した右手でガードされた。
人狼は右手を横に薙ぎ払い、ステラを飛ばす。
飛ばされたステラは空中で体勢を整えて、また元いた位置に戻るが、
「……クッ……」
一発で仕留めそこなったことを悔しそうに顔を歪めていた。
「さすが、隣国の『竜姫』。噂は本当だったみたいですね」
右半分が狼、左半分がラースさんの顔をした化物は不気味な笑みを浮かべている。
「ギフト『魔眼』。魔を見分けることができるという左眼。魔獣を見分ける眼によって魔獣研究で数々の業績を残したばかりか、隣国の人狼はことごとくやられたと聞きますよ」
人狼によるその説明にステラは「知っていたのね……」と悔しそうな表情を見せる。
「大した眼じゃないわ。見つけても、結局、倒す力はないわけだし。この前初めて会った時も逃げるしかできなかった」
だから私の護衛に任せたんだ、とステラは説明する。
後で聞いた話だが、さっき合流した護衛たちには人狼がいるから駆除を、と頼んでいたらしい。
その人狼を誘き寄せるため、俺を使ったんだとか。
数日前にラースさんを観て、俺を美味そうな肉を見るような眼で見ていたらしいから、使えると思ったみたいだ。
それならそうと説明してくれ、って思ったけど、たぶん、ラースさんが人狼だって言われても信じなかっただろうな。
「……ふん。謙遜を」
人狼は鼻で不敵に笑うと、
「今は持っているじゃないですか」
とステラの足元を――正確にはウィーを指差す。
「子竜のギフト『変化』。とても魅力的なギフトだ」
美味しそうですねぇ、と右半分の口から涎がポタポタ流れ、左半分は恍惚と頬を赤らめていた。
ラースさんの顔で。その表情が気味わるくて俺は反射的に顔を歪めてしまう。
「もう一度、聞く。私の護衛をどうした?」
その問いに対して、人狼は口を大きく開ける。
大きな舌、牙に緋色の血がこびりついていた。
「この中だ。皆さん、とても美味かったぜ」
歯ぎしりを立て、ステラは人狼に突進する。
「ステラ様ぁ? 貴女は少し勘違いしている」
不敵に笑う人狼は突進するステラに向かって話しかける。
「貴女はダンに向かって、私が『神託』のギフトがないと言っていたが、それは誤りだ」
なんだと?
「私は……俺はまだ『神託』を持っている。『炎操作』も、もちろん、使える。そして――」
人狼はそこで言葉を区切ると、ミシミシと身体全体が膨れ上がる。
そのせいでビリビリと服が破けていく。
それはついさっき見たあの人が使ったギフトの現象に類似していて――。
「『筋骨隆々』も使える!」
「!!」
膨れ上がった筋肉によって放たれた拳は真っ直ぐ突進したステラを捉える。
ステラは、その反撃に驚きつつ、反射的に横に回避する。
だが、超スピードで人狼に向かっていたため、急な方向転換なんてできるはずがなく、人狼の拳がステラの身体を掠った。
増強された拳とステラ自身の運動量も相まって、掠っただけでもとてつもない衝撃。
ステラ自身の身体は吹き飛ばされ、
「ガハッ!!」
大木に突撃した。
その衝撃によるものなのか、ステラとウィーの合体も解けてしまった。
「ステラ!!」
色んな疑問が駆け巡るが、今はそんなことはどうでもいい、と俺はステラの元に駆け、安否を確認する。
「クゥッ……」
辛そうな表情を見せてはいるが、生存は確認。
死んでいないことに安堵しつつ、俺は人狼の方を向いた。
完全に恰好は人狼となり、さっきよりも二、三倍程膨れ上がっている。
試し打ちと言わんばかりに炎を掌から出していた。
「俺のギフトは『暴食』! 喰った者のギフトをそのまま使うことができる!!」
なるほど。これで全ての謎が解けた。
ここ最近でもラースさんは神託を続けていたし、さっきは火も使っていた。
あれは全て『暴食』によって奪った能力だったんだ。つまりラースさんはもう――。
「俺と『暴食』の相性は抜群だ!」
人狼である奴にとったらこれ以上のギフトはない。と同時にこっちからしたら堪ったもんじゃない。
――魔獣にもギフトが使えるということをステラに教えてもらっていなければ、もっと驚いただろうな。
もちろんギフトは万能じゃない。
何かしら制限――おそらく使えるギフトの数――があるんだろうが、今は関係ない。
「ステラの『魔眼』! ウィーの『変化』! どちらも魅力的なギフトだ!」
人狼はゆっくりと俺たちに近づいてくる。
「そしてダン! 貴様のギフトはクソだが、貴様からは常に美味そうな匂いがしている!
全てを手に入れた後、貴様の肉を、ただ、堪能するつもりだったが……」
人狼は涎をダラダラと垂らした。
俺たちを……俺をただの餌として見ていた。
「バレてしまっては仕方がない。『魔の王』となる前祝いだ!」
そして、俺たちの前に立ちはだかり、大きな口をあんぐりと開けた。
「いただきます……!」
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