第8話 竜姫の目的

 ステラとパーティーを組んで数日が経過した。


 この数日、俺たちは街の近くの森へ赴き、小動物を見つけてはテイムし、凶暴な魔物を見つけては気絶させてテイムし、竜のような影を見つけては追いかけて、竜じゃないとわかればテイムし――。


 とにかく自分たちの目的――パートナー探しと竜探し――のためにほぼ休みなく歩き続けていた。

 とはいえ、未だ目的は果たせていない。


 それも当然だ。


 なんせ俺の方は今まで成功したことがないことをやり遂げようとしているし、ステラの方は手がかりがほとんどない中、探しているのだ。

 時間が掛かるのは致し方ない。

 もしかしたら何も成果を得られずに終える可能性だってある。


 けれど、諦めることはしたくなかった。

 やっと見出せた可能性だし、ステラに感化された、というのもある。

 ギフトを持たないステラが明るく自分の好きなことに挑戦している姿勢に。

 だから、ステラが諦めない限りは、俺も探し続けようと思った。

 俺のパートナーと、そしてステラが探しているという竜を――。


「そういえば、ステラが探している竜ってどんなのなんだ?」


 休憩がてら森にある動物の足跡を観察しているステラに俺はふと思ったことを聞いた。

 そういえば、どんな竜を探しているのか、聞くのを忘れていた。

 というか聞く暇もなかったというのもある。

 『テイム』の性質で、生き物がわんさか登場するからな。

 ステラも「あれ? 言っていなかったっけ?」と忘れていた様子だった。


「私が探しているのはね。背中に大きな翼があって、頭に立派な角が生えていて、白い羽毛に包まれている四本足の竜だよ」

「ふーん。まるでウィーがデカくなったみたいな?」


 俺はその辺に生育している実をポケットに入れつつ、ステラに俺のイメージをなんとなしに呟くと、


「そう」


 ステラは俺を指差し、頷いた。

 何かに肯定しているような表情をしているが、何のことだかわからない。


「ん? 何がだ?」

「当たりってことだよ」

「はぁ?」

「私が探しているのはウィーの母親なんだ」

「なんだって!?」

「ウィーはね、実は出会ったのはほんの3ヶ月前くらいなんだ」


 まさかステラとウィーがそんなに短い関係だとは思わなかった。

 仲の良さから、てっきり小さい頃からずっと一緒にいた相棒のような存在かと。

 ステラは思い出すかのように目を細めて、ウィーを撫でると、


「今みたいな森に入っていた時にね。衰弱しているのを見つけたんだ」


とウィーとの出会いを語り出す。


「今よりも小さくて、だいぶ痩せこけていて……たぶん群れから逸れたか母親の背中から落ちたか、何かしらで離れ離れになっちゃったんだと思う」


 まだ空も飛ぶこともできない子竜で、空から落ちたからか大怪我をしていて動くこともままならない。

 当然、自分で食料を確保できない状態だった。

 そんな様子のウィーを見つけたステラはそのまま放置していくわけにもいかず。

 急いでウィーを抱えて、自身の部屋に持ち帰った。


 ウィーは、最初はステラに対しても警戒心が強く、治療さえも上手くさせてくれなかったそうだ。

 更には夜泣きが酷く、いつも母親を探していたように見えた。

 だが、懸命な世話のおかげか、徐々にステラだけには心を開くようになった、という。


「今はだいぶ落ち着いているけど、ウィーはきっと親にもう一度会いたいんだと思うんだ。

 だから母親を探すと決めた。ウィーがどういう選択をするにしても、一生会えないままだったら悲しいでしょ?」


 呑気そうにうたた寝をしているウィ―。そんな子竜にも大変な事情があったとは……。


 今、明るく鳴いていたり、活発に走っていたりするのを見ると、心底、良かったと思うのと同時に、それが空元気かもしれないと考えると何とも言えない。

 唐突に離れ離れになってしまった。

 巣立ちの時期でもないのに別れの挨拶も言えずもう一生会えないのかもしれない。

 それが自然の摂理だと言ってしまうとそれまでだが、それで諦めてしまうのは悲しすぎる。

 ステラの言うようにもう一度再会させてあげたい、と思ってしまう。


「俺のパートナー探しをしている暇なんてないんじゃないか?」


 そうなると、俺のパートナー探しなんて時間の無駄とも思ってしまう。

 ここにウィーの親竜がいるかもしれない、という情報を掴んで、探しにきているそうだが、竜がこの場に留まり続けているとは思えない。

 俺の目的を果たす暇があるなら、ウィーの親探しに時間を割いた方がいいのでは?


「ううん。そんなことないよ」


 だが、ステラは迷わず首を横に振る。


「どうしてだ? ウィーの母親、このままだとどっか行っちゃうかもしれないんだぞ?」

「そうかもしれないけれど、きっと見つかると思うよ」

「なんでだ?」

「ダンがいるから」


 即答するその言葉に俺は首を傾げざる負えない。

 いくら『テイム』の副作用が魔獣を引き寄せるのだとしても、ピンポイントで目的の竜を誘い出すことは至難の技だ。

 もしそれが可能なら、苦労なんてしない。

 しかも『テイム』の副作用が目的なら俺じゃなくても有能なテイマーを雇えば良い話だ。

 むしろそっちの方が俺という足手まといの手伝いをする労力が削られるから竜探しに専念できるはずだ。


「君じゃないと、ダメなんだよ」


 そんなことを説明しても、ステラは俺を手放すつもりはないらしい。

 そして、ステラは俺にとって衝撃的な言葉を発した。


「だって君の『テイム』、特別だからね」

「――!? それってどういう――」


 しかし――、


「やっと見つけましたよ……姫様」


 静かな森。その中で一際大きな声が響き渡った。

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