第7話 子竜のギフト
「!? ラースさん!?」
声の主はラースさんだった。
ラースさんはたまに音もなく現れるから心臓に悪い。
ラースさんは相変わらず眼鏡をクイッと掛け直し、興味深そうに見ていた。
「ダンが隣国の『竜姫』ステラ様とパーティーを組んでいるだけでも驚きですが、まさか、こんな珍しいギフトを見られるとは」
「あぁ。そうだ。今のがステラのギフトなのか?」
「私じゃないよ」
ステラはウィーの頭を撫でる。
「ギフトを持っているのはこの子」
「まさか……竜がギフトを?」
俺とラースさんは目を丸くする。
俄かには信じられなかったからだ。
「竜だけじゃないよ。神様は何も人だけにギフトを与えているわけじゃない。
この世にいる全ての生き物がギフトを持つ可能性を持ってるの」
「じゃあ……いったいこいつにはどんなギフトが……?」
「ウィーが授かったのは『変化』のギフト。
人に触れることでその人の性格や思いを感じ取って自分自身を変化するの」
思い出してみると、さっきのライノスとの戦闘では、確かにウィーがブーツへと変化していた。
ステラが騎士に追いかけられた時にウィーの姿がなかったのも、ブーツに変化していたからなのか。
人以外もギフトを授かるという新事実。
神は皆に対して平等だった。
聖職者でありつつ薬学の研究者でもあるラースさんも「……すばらしい」と一言ぼやく。
聖職者としての立場でも、研究者の立場でも興味深い新事実だ。
ただ俺にはひとつ疑問ができた。
ウィーがギフトを持つことはわかった。
しかも竜という珍しい種族のギフトで、ライノスを倒すくらい強力だ。
でもそうすると、ステラは? ステラはどんなギフトを持っているのだろうか?
今までステラがギフトを使っている素振りは見せなかった。
何かしらウィーのギフトを補助するようなギフトなのだろうか?
それとも珍しい竜種が懐いているくらいだから、もしかしたら俺と同じの……?
そんなことをステラに聞くと、
「私のギフトは……うーん、そうだなぁ。ここじゃ言いにくいかな」
テイムじゃないことは確かだよ、と頬をポリポリと掻き説明しづらそうにしていた。
「そんなことより、ライノス。『テイム』してみない?」
「あ……あぁ。そうだったな」
ステラの言う通り。
せっかくライノスを倒してくれたんだ。
動かないとなったらもう心配ない。
緊張しつつライノスに近づいていく。
目の前に立つとその大きさに更に驚く。
こんな大きい魔獣に追いかけられていたかと思うと身の毛のよだつ気分だ。
ライノスの身体に触れる。ざらざらとしていて皮が厚い感覚。
今までずっと走り続けていたのか、元からなのか、自分よりも熱い体温。
俺はふぅと一息吐き、気持ちを落ち着けると、
「『テイム』」
俺の掌から出る光がライノスを包んだ。
体格に合わせた光。今まで小動物しか試したことなかったから、こんな大きな光になるのは初めて見る。
やがて、その光が収縮していき、ライノスが再び姿を見せて、光は消えた。
ライノスはステラの攻撃で気絶し続けている。だけど、テイムできたかどうか、俺にはなんとなく理解できていた。
「どうだった?」
心配そうにこちらを見ているステラ。
俺は首を横に振った。
「ダメだったみたい」
「そうですか……」
ラースさんの少しトーンが下がった声が聞こえたが、俺はというと、そんなに落ち込んではいなかった。
まぁそう簡単に上手くいくわけがないことは分かっていたしね。
「じゃあ次ね」
「次だな」
「おや?」
俺たちのそんな様子を見て、ラースさんは意外そうな声を上げていた。
「あまり気落ちしていないのですね」
「まぁね。ステラが言うには、『テイム』って全ての生き物をテイムできるわけじゃないらしいからね。ここで落ち込んでいたらキリないよ」
いつものことだからな、と俺はラースさんに説明する。
「がう! 」
「おわっ! なんだなんだ!?」
気に病んではいないことに「これで良いんだ」と言うかのごとく、嬉しそうにウィーが俺の足元から飛び掛かる。
身体を這い上がり、やがて俺の頭に前足を乗っけた。
若干重いし、耳にウィーの毛がかすってくすぐったいけど、そんなに不快感はない。
むしろ何故かしっくりくる。その俺の姿を見て、ステラは口元に手を当て微笑むと
「さ、次の生物に会いに行こうか!」
「お、おい、待てって」
そうやってステラは俺を引っ張って走る。
言葉とは裏腹に真剣な表情に一瞬気になったが、すぐに気のせいだろう、と忘れて俺は笑みを浮かべる。
今までパーティーらしいことをしたことがなかったから楽しかったのだ。
「じゃ、じゃあな! ラースさん! また教会遊び行くから」
「えぇ! この様子だと、ダン。君のパートナーもすぐに見つかるかもしれませんね!」
そう叫ぶラースさんはいつも通りに戻った様子。
眼鏡を上げながら微笑んでいた。
ラースさんに良い土産話を持っていけるのもそう遠くないかもしれない。俺は意気揚々とステラの後をついていく
「なぁウィーは誰でも……人が触れれば必ず変化するのか?」
「ううん。ウィーが懐いた人間だけ。私の護衛の人たちは全員、ダメだったみたい。そもそも近づこうともしないし」
そうやって談笑しながら俺とステラは森の奥へと進んで行く。
俺のパートナーを見つけるために、ステラの探している竜を見つけるために。
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