第6話 ピンチ! ピンチ! ピンチ!
翌日。
晴れやかな青い空。心地の良い風が吹く冒険日和。
そんな爽やかで清々しい空気の中。
「うぉぉおああああああああ!!」
――俺たちは凶暴な魔獣に追われていた。
★★★
昨日、ステラに誘われてパーティーを組むことになった俺たち。
「よし、今すぐ探索へ!」
ともう日が暮れかけているというのに、すぐさま行こうとするステラを制して翌日にしようと提案した。
ステラはブーブー言っていたが、夜の森は危険で、ステラがいくら慣れていたとしても出来るだけ避けた方が良い。
熟練の冒険者でも夜は避ける。
とかなんとか言って、受け入れさせた。
――しぶしぶだったけど。
まぁ最近は特に物騒だからな。
ここ一ヶ月、凶悪な魔獣が出たようで、小さな子から俺くらいの年齢の奴らが姿をくらます事件が多発している。
ラースさんが管理している孤児院でも五歳くらいの少年が失踪したって聞いた。
「火を扱う良いギフトを授かっていたのに……残念です」
とラースさんが落ち込んでいたっけ?
そんな物騒な事件が起きている街だ。
運良く森から帰れたとしても、そんな目に遭うのはごめんだ。
明るいうちに森へ行って、帰りたい。
魔獣もまだ見つかっていないしな。
というわけで、翌日、街の近くにある冒険者初心者御用達の比較的安全な森に入ったわけだが……。
今の俺たちの現状は安全とは程遠い。
というか、既に死にそう!
「さすが『テイム』だね! ライノスなんて滅多にお目にかかれないよ」
「言ってる場合かぁ!? 俺たちの状況、理解できてるか!?」
「うん。ライノスに追いかけられてる」
ステラの言う通り、俺たちは今、俺のギフトに引き寄せられてきた魔獣ライノスから全力で逃げているところだ。
普通のサイよりも一回り、二回りでかいそいつは木々を倒しながら、俺たちを追いかけ回している。
突進されたらひとたまりもない。
なのに、なんでこのお姫様はこんなに呑気なんだ!
「でも良いの?」
「何がぁ!?」
「テイムしなくて」
「はぁ!?」
この状況でテイム? 何を?
まさかあんな危険なやつをどうテイムしろとでも!?
「でも君、パートナー見つけたいんでしょ?」
それはそうだ。
パートナーを見つけるためにパーティーを組んだんだ。
けど『テイム』は身体の一部を触れていないとテイムができない。
だから、ライノスをテイムするにしてもあの突進を耐え抜いて、身体に触れなくてはならない。
そんなことできるか!?
「あの子が君のパートナーになり得るかもよ?」
「だけど! こんな状況で、どうやってテイムしろってんだよ!?」
「そりゃあもう。……身体を張る?」
「だろうと思ったよ!」
ステラの言い分は理解できるが、やり方に無茶がありすぎる。
こんな方法でテイムしようと思うなら、命がいくらあっても足りない。
無理なものは無理だ!
その旨をステラに一生懸命、死ぬ思いで伝えると、
「もうしょうがないなぁ」
と急停止する。と同時に息を合わせたようにウィーも止まる。
もしかしてライノスを倒すつもりか!?
「お、おい! 何して――」
「行くよ、ウィー!」
「がう!!」
無茶無謀だと思って逃げようと手を引こうとした瞬間だった。
ステラの呼びかけに反応したかのように、突然ウィーの身体が白く発光した。
そしてそれとほぼ同時くらいのタイミングでステラに突進すると、二人は光に包まれた。
ものの数秒で光が収まると、そこには――、
「――――!?」
誰もいなかった。いや、消えてしまったわけではない。
微かに砂埃が舞い、地面にくっきりとした蹴り跡が。
ステラ達は、猪突猛進しているライノスに突撃していたのだ。
そして――、
「てい!」
軽い掛け声と共にライノスの顎を蹴り上げた。
その衝撃に空気が振動する。
顎を蹴られたライノスはその拍子に前足が上がり、上がりきったかと思えば後ろ足が宙に浮く。
勢いそのままに身体は後方へ半回転。
ドシン! という大きな轟音と共にライノスの背中は地面へぶつかった。
仰向け状態となったライノスはもう足一本動かそうとはしなかった。
「これでどう?」
と振り返るステラの笑顔は可憐そのもの。
それとは裏腹の一発KOのクリティカルヒット。
一瞬でケリがついてしまった。
「へへへ。強いでしょ?」
自慢げに笑うステラの力に度肝を抜かれる。
いったいどこにそんな力があったのか、疑問に感じずにはいられない。
付け加えると、さっきまで近くにいたはずのウィーの姿がない。
それにステラの足にはさっきまで履いていなかった白いハイブーツ。
あのブーツには見覚えがあった。
昨日、俺にぶつかってきた時に履いていたのをちらっと見た。
その時にはウィーの姿は見えなかった。
……あ……そういうことか?
「ウィー、お疲れ様」
ステラがそう言って、つま先をトンと地面に打つと、ハイブーツは淡く白光した。
かと思うと、ブーツが独りでに脱げ、隣にウィーが現れた。
やはりあのブーツはウィーだった。
ブルブルと首を振って一仕事終えたとでも言うように背筋を伸ばしている。
俺の予想は大当たりだった。
だけど、そんなギフト、今までも見たことも聞いたこともなかった。
珍しいギフトを目の当たりにして、俺が固まっていると、
「これはまた驚きました」
隣からいきなり男の声が聞こえてきた。
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