第5話 101組目のパーティー
「私の名前はステラ・ドラグニア。よろしくね」
「…………」
「あれ? もしかしてわからなかった?」
俺が唖然としていたのを、ステラは勘違いしたのか、首を傾げて心配そうな顔をしていたが、安心してほしい。
「いや、わかる。わかるよ」
ただ顔を見せて名前を言った。
それしかしていないのに素性がわかってもらえる人はそんなにはいない。
「隣国ドラグニアの姫様だろ?」
「あぁ。よかった! その通りだよ!」
嬉しそうに笑顔になる姫様。
その前で少々混乱している頭を整理しようと顔に手を当てる。
「そんな姫様がどうして……?」
「だから、言ったでしょ? 探している生き物がいるんだって」
「あぁ~……確かステラ……様は魔獣研究の第一人者。特に竜の研究が専門で、『竜姫』って呼ばれている天才と俺の街でも噂になって……ますよ」
「いや、それほどでも~……あるかなぁ~」
俺の発言にステラはまんざらでもなさそうに頭を撫でる。
「それでステラ……様は――」
「ステラでいいよ。というより、そう呼んで。敬語も使わなくていいよ。たぶん同い年なんでしょう?」
ありがたい。実は敬語は少し苦手なんだ。
「ステラはもしかして竜を探しに?」
「ご名答」
そう言って俺に指差すステラは「そのために『テイム』が必要なんだ」と俺を勧誘する。
なるほど。
素性はだいたい把握した。彼女が俺を求めている理由もわかった。
――だけど。
「無理だ」
「えーーーー!!??」
俺はもう一度はっきりと断る。
というか、ますます無理になった。
ステラはただの女の子ではない。一国のお姫様だ。一緒に行動して、怪我でもさせたらそれこそ大変。
ましてや俺の副作用でそのリスクは大きくなるし、俺には彼女を守る術がない。
「俺は『テイム』ができないんだよ」
そう。ギフトがあるはずなのにテイムができない。
予め仲間を連れて行動することもできないし、襲ってきた魔獣を使役することもできない。
そんな役立たずを引き連れても、魔獣を無駄に寄せ付けるだけで、ステラの利益になりえるはずがない。
だからとっとと俺を諦めて去った方が良い。
そう思ってステラを見てみると、
「――――?」
ステラ自身はきょとんとした顔をしていた。
いったい何故そんな顔をしているんだ? 何かおかしな話でもしたか?
「えっと……それだけ?」
「それだけって……テイムができないんだぞ? ギフトを貰っているのに!」
「そんなの私の国では普通だよ」
「え?」
「『テイム』のギフトがあるのにできない人なんて珍しくもなんともないよ」
ステラは何をそんな当たり前のことを? とでも言うかの如く平然と答える。
「『テイム』はね、何も生き物全部をテイムできるわけじゃないの。
その人とその生き物の相性がとても重要なんだよ。
だから君がテイムできないのは今までテイムした生き物と相性が悪かったんじゃないのかな?」
特定のパートナーとしか結ばれない人もいるしね、と興味深そうに笑みを浮かべる。
衝撃的な発言だった。
まさかテイムできない理由が相性だとは思わなかった。
確かに思い出してみると、今までに『テイム』を与えられた人たちは特定の生き物のみ使役していた。
あれはその人の趣味ではなかったのか。
だけど根本が解決しているわけではない。
結局は俺には現時点で戦える力が、パートナーがいないのだから。
そんな状態でステラと行動するのはあまりにも危険だ。
ステラはそんな俺の懸念を察したのか、それともいつまでも答えないのに痺れを切らしたのか、
「じゃあこうしない?」
とまた顔を近づけてきた。
「竜探しに付き合ってくれる代わりに、君のパートナーを探すのを手伝ってあげる!」
「――――!!」
それは、俺が望んでいたこと。
疑っていたギフトを、彼女は、本物にしてくれるというのだ。
ステラの研究結果をもってすれば、確かに俺がテイムできる魔獣が出てくるのかもしれない。
これに乗らなければ、一生、俺にはパートナーができないかもしれないのだ。
「しかもこう見えても私、冒険の経験はいっぱいあるんだから!」
研究者なめるなよー、とステラはえっへんと胸を張る。
ステラの言葉を信じるならば、俺の懸念も一応は解決する。
魔獣研究の第一人者。
フィールドワークも経験済みだというならば、魔獣がいる場所の危険性も重々承知済みだろう。
俺と一緒に行動するのも覚悟の上ということか。
だったら――ひとつだけ聞かせてほしい。
「……どうして俺なんだ?」
「なかなか人に近づかないウィーが君に飛びかかるほどだからね。
悪い人なんかじゃないって直感した」
普通のテイマーでもなかなか近づかないんだよ、と笑みを浮かべている。
会って数分くらいなのに、ただ自分の子竜が近づいただけで、こうも人を信用するのか。
ステラの清々しい笑顔を見ていると、真面目に考えるのが馬鹿らしくなってきた。
「……わかった」
騙されたと思って、組んでみよう。
これが最後だ。
もしテイムができたら儲けものだ。
「ほんと!? 嬉しい! ありがとう」
嬉しそうな顔でぴょんぴょんと飛び跳ねている。
そんなステラを見ていると気恥ずかしくて、思わず頬をぽりぽりと掻いてしまう。
そして、ステラは急に手を前に出してきた。
「?」
どういうことだ、とステラを見ると、嬉しそうな笑顔を俺に向けていた。
「これからよろしくね」
そんな彼女の様子を見て、自然と笑みが零れる。
俺はステラの手をギュッと握ると、ステラの言葉にこう応じた。
「よろしく」
こうして俺は101組目のパーティを組むことになった。
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