第5話 Empty Dumpty

 温かみのある木製といえど、気温がマイナスを超えるこの時間では、物置の中はすっかり冷え切っていた。狭い空間だ。掃除機やモップの隙間に無理やり体をねじ込んだ撤兵とBBQは、自然互いに身体を押し付けるような体勢になった。足元から伝わる冷気が相手の熱を嫌でも強調する。

「はぁ……はあ」呼吸の整わないBBQ。普段なら気にも留めないはずなのに、今はやたらと扇情的に思えた。「まったく……なんだってんだい」

 ドクドクと脈打つ心臓の音は自分のものなのか、BBQのものなのか判断がつかない。若盛りの学生に、鳩尾の辺りに押しつけられる胸部の感触を気にするなというのは無茶だろう。撤兵は暗闇で目を凝らし彼女を見つめた。この暗さでも彼女の赤い髪が柔らかいのは分かった。すとんとおちるラインのワンピース――ネグリジェというのだったか――は生地が薄いのか、ぬくい肌の温度が余計に伝わってくる。交差する太ももが撤兵を変な気分にさせた。視線に気づいたのかBBQはこちらを見上げてきた。自分の方が身長が高いので、当然彼女は上目遣いになる。当たり前のことなのに、どうしてこんなにも――!?

「なんだい?」

「……BBQ」

 ひんやりした頬に手を滑らせる。ニキビ一つない陶器のような肌だ。唇からは若干血の気が引いていたが、皮剥けもなくぷっくりとしていて愛らしい。

「ちょっと、なんだい」

 怪訝そうに尋ねてくるその瞳は、この状況への不安からか水面が波打つように潤んでいた。ごくりと生つばを飲み込む撤兵。物置に鼓動がこだまする錯覚を覚えているのは、きっと自分だけじゃないだろう。

 この雰囲気は、イケる。

 女難の相とはそれすなわち女性経験の多さを裏付ける。撤兵は積み重ねてきた経験を信じ、優しく、しかししっかりと彼女の頬を引き寄せた――

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