第5話 Empty Dumpty
温かみのある木製といえど、気温がマイナスを超えるこの時間では、物置の中はすっかり冷え切っていた。狭い空間だ。掃除機やモップの隙間に無理やり体をねじ込んだ撤兵とBBQは、自然互いに身体を押し付けるような体勢になった。足元から伝わる冷気が相手の熱を嫌でも強調する。
「はぁ……はあ」呼吸の整わないBBQ。普段なら気にも留めないはずなのに、今はやたらと扇情的に思えた。「まったく……なんだってんだい」
ドクドクと脈打つ心臓の音は自分のものなのか、BBQのものなのか判断がつかない。若盛りの学生に、鳩尾の辺りに押しつけられる胸部の感触を気にするなというのは無茶だろう。撤兵は暗闇で目を凝らし彼女を見つめた。この暗さでも彼女の赤い髪が柔らかいのは分かった。すとんとおちるラインのワンピース――ネグリジェというのだったか――は生地が薄いのか、
「なんだい?」
「……BBQ」
ひんやりした頬に手を滑らせる。ニキビ一つない陶器のような肌だ。唇からは若干血の気が引いていたが、皮剥けもなくぷっくりとしていて愛らしい。
「ちょっと、なんだい」
怪訝そうに尋ねてくるその瞳は、この状況への不安からか水面が波打つように潤んでいた。ごくりと生つばを飲み込む撤兵。物置に鼓動がこだまする錯覚を覚えているのは、きっと自分だけじゃないだろう。
この雰囲気は、イケる。
女難の相とはそれすなわち女性経験の多さを裏付ける。撤兵は積み重ねてきた経験を信じ、優しく、しかししっかりと彼女の頬を引き寄せた――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます