第18夜

「縊鬼!?江戸時代に世間を騒がせた、人々を自殺に導く鬼か!?」

「キヒ!!私の名前を知ってくれてるなんて僥倖っすねー!!」

「縊鬼ねぇー?そんで?なんでうちの高校にそんな悪鬼がいるんだね?」

坂田先輩が縊鬼を睨みながら言う。縊鬼はニヤニヤしながら続ける。

「さっき言ったじゃねぇっすか?皆さんを地獄に送る…その言葉の通りっすよ??」

「て事は、貴様がこの人たちを暴走させてると??」

「はいっす、縊鬼は自殺を促す鬼。その能力を持っている私には他人を操る能力を持ってるんっすよ」

縊鬼はそう言って指を弾く。その瞬間、黒い影が複数現れた。

「さぁさぁさぁ!!!そこの妖怪共を御しながら私が出した【影坊主】を退治してみるといいっす!!!」

縊鬼のその言葉に影坊主と呼ばれる黒い影は藤原の背中に目掛けて片手にもつ真っ黒い斧を振りかぶる。

「藤原!!!」

次の瞬間、黒い影が霧散する。黒い影を攻撃していたのは、委員長だった。

「風紀委員長!?」

「藤原君、安倍君!!私にも戦わせてくれないか!?」

「え!?」

「私は今まで妖怪に散々酷いこと…それこそ殺されて当然のことをしてきた。だから、今こうして妖怪のみんなが狂ってしまったのが許せない…!!」

そう言うと委員長は斧の先端に槍の付いた武器(ハルバードというらしい)をくるくる回転させて、黒い影に突っ込む。

素早い攻撃で次々と黒い影霧散する。

「は、早い…!!」

「チッ!!!なかなかやるっすね!!だがそんなの時間の問題なんすよ!!私は時間をかけてアンタ達と遊んでりゃあいい!!そんでアンタらは終わりの無い戦いで疲れ果てて死ぬんっす!!」

そう言って縊鬼は再び指を弾く。そうすると再び黒い影が現れ、こちらに迫る。それを何とか相手しながら妖怪のみんなを殺さないように加減して叩く。正直かなりきつい!!今までなら倒せば良かったが今回は力加減をしなくてはいけない!その上、あの影は加減した攻撃では霧散しない…どうする!?このままだと全滅を…

「安倍君!!戦いに集中!!!」

委員長の声でハッとする。目の前まで暗い影が迫っていた。俺は全力でその影を殴ると、霧散して後から妖怪の生徒が襲いくる。それを気絶させて息を吐く。

『清市くん!?大丈夫!?』

月の声が響く。

「大丈夫だ…でも今のは危なかった…委員長が声を上げてくれなかったら攻撃されてた。ありがとうございます、委員長!!!」

「桜で構わないよ、安倍君。礼は不要。私にそんな資格はない」

「そんな事ないですよ。今の貴女は変わった。俺と同じでね。俺からも頼みます。妖怪や人間。全てを助けるために力を貸してください!」

桜さんはそれを聞くと涙目で頷く。そして縊鬼を睨んだ。

「私は貴様の様な妖怪を憎むべきだったんだ。間違えてしまったなら今度こそその道を間違えぬと誓おう!!」

「その目…あぁそうだ!!!その目だよ!人間共!!!私の家族を殺した陰陽師だか武士だかしらねぇがアイツ等と同じ目をしてやがる!!あぁ!!腹立だしいなぁ!?」

そう言うと縊鬼の身体から先程の紫の煙より更に濃い色の煙が辺りを充す。縊鬼の横に人影が見えた。

「紹介するっす!!私のパートナー、伊勢いせ 晋太郎しんたろう君っす!!」

煙が消えたその場に立っていたのはフードを深く被り顔の見えない男だった。

「縊鬼、さっさと片付けよう。ここは陽が強い」

伊勢と名乗る男がそう言うと、縊鬼はニヤニヤしながら頷く。そして再び紫の煙が辺りを満たす。その瞬間、悪寒が走る。多分、桜さんや藤原も感じたのだろう。俺たちは顔を見合わせる。

「さぁ、皆殺しだ」

煙が消えるとそこには禍々しい妖気を放つ黒い刀を持つ、伊勢の姿が有った。


「憑依!?!?!?」

何とか俺たちと合流した渡辺先輩が叫ぶ。

「そうだよ。憑依が出来なきゃ僕は大会には参加できない。そしたら僕の目的も果たせないんだ」

「君は一体……」

渡辺先輩がそう言うと、伊勢は刀を高く上げる。

「狂い柳」

その言葉が呟かれた瞬間、急に頭痛が走る。

「ガァ!?頭が……!」

「ッツ!!何だこれ!?」

「僕の妖武だよ。みんなコレを喰らうと、自殺願望を植え付けられる。そしてもう一つおまけ付きだ。蠱毒こどくって知ってる?」

「大量の虫を壺の中に入れて食わせ合い、最後に残った虫が強い呪いの力を手にいれる儀式…なっ!?!?まさか!?」

「うん、そうだよ、この体育館が蠱毒の壺だ。自殺する前に全員が殺し合う。そして果てに残った一人は強力な呪いを帯びて自殺する。どうなるかな?」

「そんな事になればとんでもない怨霊が産まれる…この地域全部を包むほどの強大な呪いに…」

「正解。じゃあ早速始めようよ」

そう言うと更に頭痛が強くなった。

「痛……!これはまずいな!!みんな逃げろ!!!」

「先輩、そうは言いますが、生徒やあの黒いのに囲まれて無理ですって!!いたた!!!」

藤原はそう言って顔を歪めながら刀を振るっている。

『僕達にも効くなんだね、これ…痛みで感覚が鈍ってきた…」

『清市君…逃げて……』

月も荊も痛みで声が震えている。俺の意識もぼやけて……


その場で痛みを感じず、困惑していた人物が二人いた。一人は桜。そしてもう一人は……

「皆、どうしちゃったというの!?」

桜の耳に一人の女子生徒の声が入る。桜は急いでその女子生徒に近づく。

「大丈夫か、君!?」

「ひっ!?風紀委員長!?こ、こないで!!」

その女子生徒は白い髪に青い目の生徒で恐怖と憎悪の顔で桜を睨む。

「い、いや、私は君を……」

「何!?また痛みつけるんでしょ!?この状況も全部アンタが作ったんだ!!」

「ち、違う!!話を……」

「来るなって言ってんの!!!」

その生徒はそう言ってどこから出したか、槍の様なものを桜に向ける。

「アンタはね、妖怪達にとって害なのよ!!今すぐ殺す!!!」

「た、頼む、話を……」

次の瞬間、女子生徒の前に黒い影が現れる。それは斧を振り上げており、今まさに女子に振り下ろされる所だった。

「は?」

「危ない!!!」


周りに血液が飛び散る。

女子生徒は呆然とした状態で今まさに自分を守った桜を見つめている。

桜は背中を深く切られ、シャツが赤黒く染まる。

「はぁはぁ…くっ!!大丈夫ですか??」

「アンタ、なんで……」

「私は間違っていたんだ。妖怪は全部悪だって。私の家族を殺したのは妖怪だ。妖怪なんかいなくなればいい。妖怪がいるから…そう思ってたら妖怪全部を恨んでしまっていた…妖怪の集まるこの学園も世界も全部間違ってるって思ってしまった…でも違った。それを兄や彼が教えてくれた。であれば……私は今度こそ間違ってはいけない。正義を正しく使いたいと…だからこうして守れて良かった…こんな程度で私の罪は洗い切れないだろう…でもせめて貴女だけでも正気なら逃げてくれ…生きて…」

「何勝手な事をして言ってるの!?勝手に私を守って死ぬなんて許せないんだけど!?」

「だが…このままでは二人共…」

「こんな状況じゃ逃げられないわよ…」

彼女はそう言って顔を上げる。そこには黒い影が桜たちを見下ろして囲んでいる。顔が無いそいつらがなぜかニタニタと笑っている様に見えた。

「すまない…私の性で逃げられなく…」

「……私の考えを改める必要が有ったみたい…」

「え?」

「アンタを許す!!3年の生徒代表として」

「許す?私を…?」

「ええ。どっちにしろ私もアンタも死ぬ。なら最後に許された状態で死にたいでしょ?私もアンタに助けられた事実を噛み締めながら死んでくわ」

「……本当にすまない。私は絶対に貴女を逃さないといけなかったのに……」

「状況が状況よ。アンタを責めないし、むしろ助けてくれてありがとう…」

彼女はそういうと桜の手を握った。

「でも怖いものは怖いわね……」

彼女の目からは涙が溢れていた。桜はそれを指で拭い、彼女を抱きしめた。

「こうすれば一緒です。大丈夫。離しませんから」

影が斧を振り上げる。

(ごめんなさい、お兄様…先立つ妹を許してください。安倍君達…こんな私を許してくれて感謝する。もっと長くみんなのことを知りたかった…そして名も知れぬ貴女。本当にごめんなさい。守れなかった私を許して……)

そして斧は振り下ろされた。

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逢魔時の妖怪嫌い 鍋屋木おでん @nabeyakiodenn

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