第17夜

次の日、月を迎えに月の家に向かう。

家の前では既に月が木葉さんとお母さんが待っていた。

「あ!!安倍君!!」

月は俺を見るなり、こちらに走り寄ってくる。目を輝かせている。犬かな?本当に可愛い。

途中で躓き、俺が急いで月の身体を支える。

「こらー、危ねぇだろ?」

「ご、ごめんなさい…」

月は顔を赤くして言う。

「ごめんなさいね?月ったら本当に安倍君見ると見境なくなるんだから…」

月のお母さんが呆れた様な顔で言う。

「だって寂しかったんですもん」

「昨日も私の話を聞いてるのか聞いてないのか分からないくらいボーっとしてたし、夜なんて月の部屋から寝言が聞こえて、ずっと安倍君関連だったし…」

「お、お母様!?」

月は顔を真っ赤にさせて焦っている。それを見てつい吹き出してしまった俺。

「安倍君ー?」

月が俺をジトーと見つめてくる。俺は「ごめんごめん」と言って彼女の頭を撫でる。直ぐに満面の笑みになる。可愛い。

「それじゃあ行くか!」

「はい!!行って参ります!お母様!!」

月の母さんと木葉さんは頷き、手を振ってくれた。


「安倍君…」

「うん??」

月は途中まで歩くと立ち止まりモジモジしながら言う。こう言う時の月は大体お願いがある時だ。しかも俺関連で。大体分かってきた。

「あの、せっかく恋人になれたので、安倍君をお名前で呼んで良いですか??」

「うん?……あぁ!良いぜ!」

月は嬉しそうな顔で俺の名前、清市を君付け(別に呼び捨てでいいぞ?と言ったら、それ以上はハードルが高いと本人が言っていたが)で呼んでいた。

「俺は特に君の呼び方は変える必要ないな…」

「ニックネームつけてもいいですよ?」

月はそう言って微笑むが、ニックネームなど付けなくてもそのままで呼びやすい上に、俺が月の名前が好きなのでそれは必要ないだろ。

それを伝えると月は顔を赤くして「そう言うところですよ?」と言ってきた。そう言うところとは…?

そんなやりとりをしていると、俺の後ろから急に抱きついた者がいた。俺は誰か分かっていたので舌打ちをして後ろをジロっと見る。やはり藤原だった。

「お、何だ?分かったのか??」

「オメェ以外に俺に抱きつく奴がいるか??」

「ま、だろうな?」

そう言って藤原は笑う。荊は笑いながら俺と月に挨拶をする。

「あぁ!藤原君、鬼怒川さん!!!」

「うん???」

「あー、そうだ説明してなかったんだが…」

俺は二人に月の記憶が戻った事を話す。それを聞いた、藤原も荊も非常に驚いた顔をして、直ぐに涙目になった。

「お、おめでとう!!!月さん!!」

「本当に良かったよ…良かった……」

荊に至っては月の手をぎゅっと握り、大泣きしている。本当にこんないい仲間を持てて幸せだなって感じる。

「しかし、何で急に記憶が??」

藤原がそう言った瞬間に俺も月も固まる。言える訳無い。昨日の記憶が鮮明に蘇る。月は鼻血を出している。それを見た荊は驚き、ポケットティッシュを取り出し、渡す。月は礼を言い、鼻の穴にティッシュを詰める。

「あぁ!!あぁぁぁ!!」

急に藤原が大声でそう言うので驚く。

「何だよー千春ー」

藤原は何やら荊に耳打ちをする。すると、荊の顔が見る見る赤くなる。

「えぇぇ!?!?」

「おい、なんかヤベェ方に解釈してんだろ?」

「ま、まさか…二人で……」

「多分テメェらの考えてる事はしてねぇ!!!」


二人に俺達の経緯を説明する。親友だから話しておくべきだし、こいつ等なら秘密を守ってくれるだろ。

「何だ、そんなこと」

荊はしれっとした顔で言う。

「そんな事ってお前…」

「もっと先まで進んだのかと。てか、付き合ってなかったんだ…」

「出逢って数日で普通付き合わねぇだろ…」

「そんなの関係ないってー、僕なんか一目惚れだよ?」

そう言って荊は藤原を見る。藤原は何言ってんの?みたいな顔で荊を見つめる。

「ヘタレだよねー?」

「ヘタレだな」

「ヘタレ……でしょうか?」

「ちょーい!!!勝手に俺をヘタレにすんなよ!!あと月さんも乗る必要ねぇからね!?」

そんなやりとりをしているとあっと言う間に学校に着いた。

しかし、校門の前では行列が出来ていた。

『何なんだ?この行列!?』

『何でも風紀委員会が体育館に人を集めてるとか…』

『ゲェ!?マジかよ!!また暴力で何かしようってぇのか!?』

『いや?何か先生も協力してるみたいで…』

『マジかよ…センコー達も味方に付けてんのか!?ふざけやがって!!』

前の男子生徒と女子生徒がそう話しているのが耳に入ってくる。

「風紀委員長、大丈夫かな…??」

「まぁ、坂田先輩や生徒会も見てるんだ。大丈夫だろうよ」

藤原と荊がそう言うと、奥からよく通る声でこちらに指示が聞こえた。

「あー、在校生のみんな、とりあえず、上履きに履き替えたら直ぐに体育館に集合すること。二列になり押し合ったりしない様に!!」

あれは生活指導の家入いえいり先生だ。あの人は確か、鳴家っていう妖怪だったよな…?


暫くするとどんどん進んでいき、下駄箱まで来た。上履きに履き替えた俺達は2列の状態で体育館に進んだ。

体育館内は騒がしくなっていた。何で集められてるか分からない生徒が大半だ。困惑もするだろう。

暫くすると全員入ったのだろう。入り口が閉ざされる。そして壇上に坂田さん、風紀委員長と幹部が上がり、こちらにお辞儀をする。

「初めましての方もいるでしょう。自己紹介からさせていただきます。俺は生徒会書記の坂田貴文と申します」

坂田先輩は再び頭を下げる。

「今回皆様の貴重なお時間を頂きましたことを謝罪します。申し訳ございません。しかし、しっかりここでお話をしなければしこりが残り続けます…えーっと、まずは昨日の件お話を…」

坂田先輩はそこから昨日、風紀委員会がした事や暴走。悪路王の事など細かく話をする。体育館が騒がしくなる。

『やっぱり風紀委員会は妖怪を殺していたんだな!!』

『風紀委員長はヤバい!!』

その言葉に坂田先輩は悲しそうな顔をしたが、不意に風紀委員長が「違う!!」と声を上げる。坂田先輩も予想してなかった行動だったのだろう、委員長を見て固まる。

委員長は自分のした事に気がつき、口を押さえて、目を見開いている。

『何が違うんだ!!お前らは俺らを殺そうとしてたんだろ!?』

『罪がバレて退学になりたくないからそう言ってるんでしょ!?ふざけないで!!!』

生徒(特に妖怪の)がそう叫ぶと、全員が声を上げ出す。

風紀委員長は黙って俯いていたが暫くして掠れた声でいう。

「確かに私は妖怪を恨んでいた。異常な程に。でも今は違うんだ…今は共存を望んでいる…それから私は妖怪は殺害してない…それは本当です。信じてください…」

『殺人鬼はいつも嘘をつくもんだ!!信じられるか!!』

『そうよ!!私の友達もあんた達の性で大怪我したのよ!!許せる訳ない!!』

何かが投げられる。石だ!その石は委員長目掛けて投げられる。

「桜!!」

ガンッという音をマイクが拾う。見ると、頭から血を流している如月の姿が見えた。委員長の前に割って入ったようだ。

「雄大さん!?」

委員長は如月に近寄る。

「桜ちゃん……」

「雄大!!しっかりしてくれ!!華!!仁!!それから優香!今すぐ彼を安全な場所へ!!それから誰でもいいから北里先生も呼んできてほしい!!急いで!!!」

坂田先輩の言葉に全員が頷き、如月に声をかけながら垂れ幕の中に入っていった。

「皆さんの気持ちは良く分かりますがどうぞ落ち着いてください!我々に戦う意思は…」

坂田先輩がそういうと再び、何か投げられる。今度は缶だった。それからまた石やら危険物やらが投げ込まれる。

「お、おい!!いくら何でも!?」

「あぁ!!やりすぎだよな!!!」

俺達は坂田先輩の側まで近づき、憑依をする。

「そこまでにしとけや!!!」

「アンタらのやってることは風紀委員と一緒じゃないか!!!」

一瞬その言葉に怯んでいたが、直ぐに罵声に変わる。

『そこを退け!!!妖怪共を殺そうとしたんだぞ!!俺らが今度はそいつらを裁く!!』

『やめてください!!こんなの絶対間違ってる!!』

『アンタら、本当にいい加減にしなよ!?妖怪だから人間だからじゃねぇだろ!!』

月と荊の声も響く。

『うるせぇ!!死ね!!』

一人の鬼が襲いかかってくる。俺は攻撃を防ぎ、本当に弱い力で鬼を殴る。鬼は吹っ飛び、その場で気絶してしまった。それを見て、妖怪は後ろに下がる。

『な、何だよ!!お前らもそうやって力で解決するのか!?』

「殺しはしないさ!だがな、聞き分けが悪いならこっちもやるしかねぇんだよ!!」

俺の言葉に妖怪が次々と襲いかかってくる。そこには女の子もいたし、力の弱そうな奴もいた。何だ?この違和感??


「大丈夫ですか!?二人共!!」

安倍達が生徒を抑えてる後ろで坂田と桜はそれを放心状態で見ていた。それを生徒会が救い出そうと壇上に上がっていた。

「す、すまない…ありがとう…」

「礼は後だ。とりあえずここから降りよう」

二人は何とか立ち上がり、壇上から降りた。

その中で始と乃々は何かを感じていた。

「始、いくら妖怪でもこんなになるかのぉ?怒り、それは覚えるじゃろうて。傷つけられてた側じゃ。当たり前じゃろう。しかし、これは異常じゃ。しかも先生まで……なんか嫌な予感が…」

「だね。先ほどから変な妖気の変化を感じる……」


「何だ!?先生まで攻撃してきてるぞ!?」

「はぁ!?」

藤原はそう言って何とか一人一人、峰打ちをして気絶させている。良く見ると担任の時雨先生や先ほどの家入先生も無我夢中で藤原を攻撃している。

「な、何だ……?」

そう思っているとふと、目が奥の…ちょうど入り口に向く。そこに黒いパーカーを羽織り、フードを深く被っている人物が立っている。

俺がその出立やこの状況で不審に思って、合間に見ていると、そいつは手を前に出している。するとそこから紫の煙が出始める。

「!!!先輩!!!」

俺は今しがた降りてきた先輩方に言う。

「どうした!?」

「あのフード!!!」

俺は入口の方を目で見て示す。

それを見た先輩方は形相を変えて、そこの急接近する。既に全員が憑依をしており、渡辺先輩は素早く2丁拳銃でフードを撃ち抜く。しかし弾が当たる前に大きく飛び跳ねたそいつは壇上に上がる。そして大声で笑う。

「きひひ!!!まさか私を見つけるなんて…流石あの人が言ってるだけあるっすね!!!」

フードを外すとそいつは女だった。

年齢は多分俺たちと変わらないと思う。

ツインテールで青い髪のそいつはニヤニヤして言う。

「あーあ、あわよくば全滅してくれりゃぁ儲けもんだと思ってたけど、そんなに物事は上手くいかないっすねー!!」

「誰だ!?貴様!!!」

坂田先輩が怒鳴るとそいつは再び笑い、劇場のカーテンコールの時に取る、丁寧なお辞儀をして話す。

「お初にお目にかかるっすね?私は縊鬼いつき!皆さんを地獄に送るエンターテイナーっす!!」

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