第16夜

「記憶が戻った!?」

「はい!!!」

月は嬉しそうにそう言う。でも何で…?

「出逢った日の事、悪路王と戦った事、そして先ほどのキスの事…全部覚えています!」

月はそう言って照れ笑いする。

「キスで気絶したけど…」

「あぁ…キスをした瞬間に頭が真っ白になりまして…それで気がついたら全部思い出してました!!」

キスの衝撃で記憶が…?まるで白雪姫の様じゃないか…あっちは眠りから覚めただけだが…

「俺の事も家族の事も?」

「はい!!私は夜裂家の長女、月。貴方は安倍君、お母様の名前は華…これで良いでしょうか?」

月はそう言って不安な顔をする。俺が信じないと思ってるのだろう。

「もう大丈夫だ、月。記憶が本当に戻ったんだ…良かった…本当に良かった…」

俺は月を強く抱きしめる。月は胸に顔を埋めてくる。月が戻ってくれた。それが本当に嬉しかった。

「それで、安倍君…わ、私にキ、キスをして好きって言ってくれたと言うことは…私は安倍君のか、彼女になれたと言う事でしょうか…?」

俺はその言葉に心臓が跳ね上がる。そうだ、流れで全部言ってしまってた……

月は不安そうに俺を見つめる。今更嘘だって言えない…いや、言う気もないが…俺は不安そうな顔の月の頬に手を当てる。

「あぁ、君が良いなら、俺を月の彼氏にしてくれないか?」

その言葉に月は目を大きく開き、首をブンブン振る。そして満面の笑みを見せる。

「夢じゃなかったんですね!!本当に嬉しいです!!記憶が戻って更に安倍君を好きになってしまって!!」

更に俺の心臓が跳ねる。あまりにも可愛すぎる。

「月…」

俺は月の頬に手を触れながら、顔を近づける。月は意味を理解したようで、ゆっくり目を閉じる。俺は再び月の口に……


「えへへ」

月は嬉しそうに俺が入れた紅茶の入ったマグカップを両手で持っている。そんな月の頭を撫でる。

「本当に俺は変わったよ、君のおかげなんだぜ、月?」

俺はコーヒーの入ったマグカップを飲み言う。

「安倍君が頑張ったからですよ」

月は言う。

「いや、俺は君に出会わなかったら絶対に今も妖怪を恨み続けてた。もしかしたら、風紀委員会に感化されて、風紀委員会に所属してたかもしれない…」

月は驚いた顔をしたが、微笑む。

「じゃあ私が安倍君を変えたんですね?なんか嬉しいです」

月は紅茶を飲む。優しい顔をしながら美味しいと呟いた。


「じゃあ帰ろうか。家まで送る」

そう言って俺が立つと、月は非常に残念そうな顔をする。俺はそれを見て笑ってしまう。

「明日も迎えに行く。それから明日は学校終わりに遊びに行こう。藤原達も誘って」

俺がそう言うと目を輝かせて「ゲームセンターに行ってみたいです!!」と言う。俺は微笑み、「良いぞ」と言う。月はガッツポーズを取り、足をバタバタとさせる。そんなに嬉しいのか。それにこんな月見た事ない…

月は俺の視線に気がつき、我に返ったのか、真っ赤にして顔を手で覆う。

「ご、ごめんなさい、こんなはしゃいでしまって…はしたない…」

「ハハハ、いや良いんだよ、でもそんなに嬉しいのかなって不思議で…」

「私、ゲームセンターに行ったことがなくて…一人で行こうと思ってたんですが、怖くて……」

俺はなるほどなと思った。月はかなりのお嬢様だ。ゲーセンは色んな人間がいるが、少なくとも女の子が一人で入るところではないし、あの駅近くのゲーセンは不良の溜まり場で有名だ。そりゃあ行かないよな…

「そっか、そしたら明日は絶対に行こうな。駅前のゲーセンはちょっと治安が悪いから、少し離れたところにある、俺がよく行く方に行こう」

月はそれを聞き、笑顔で頷いた。


「お母様!!」

「月!?記憶が戻ったって本当!?」

「はい!!木葉さんも覚えています、ご迷惑おかけしました」

「迷惑だなんてとんでもございません!!」

事前に月が月のお母さんに電話していた様で、月の自宅前では月のお母さんと木葉さんが待っていた。

「安倍君…本当に娘を大切にしてくれてありがとう…」

月のお母さんは涙を流しながら俺の手を握る。

「いえ、月の記憶が戻って本当に良かったです。俺も本当にホッとしてます」

「でも何で記憶が…?」

木葉さんがそう言うと月と俺の顔が真っ赤になった。それに月のお母さんは微笑む。

「良い関係になれましたね?」

「へ!?!?」

「あ、あぁ、お母様…わ、私は…」

「言わなくて大丈夫よ、月。私もお父さんとはそれはそれは大量にしてましたから」

月のお母さんはそう言ってウインクする。

「お母様!?!?」

月のお母さんは口元に手を当てくすくすと笑っている。

「す、すみませんでした!!!!」


「……と言うわけでして…」

俺が経緯を説明すると月のお母さんはニコニコしながら頷く。木葉さんは顔を赤くして、ソワソワしている。

「すみません、俺の責任です…」

「そうねぇー?これは安倍君が責任を取ってもらわないと…と言うことで、月と毎日登校して?それからお出かけもして?それからそれから…」

「あぁぁ!!大丈夫っす!!もちろんしますから!!!」

俺が大慌てでそう言うと、月の母さんは再びクスクスと笑う。

「お母様、安倍君を揶揄わないでください…」

「ごめんなさいね?ともかく、安倍君。この子は少し世間知らずで変な事を言ったりするかもしれませんが、本当に優しくて良い子です。どうか、月の事を大切にしてあげてくださいね?」

俺は月のお母さんの言葉に胸を張って「もちろんです!」と答えた。


俺は月と別れてから家に戻った。嬉しさが込み上げるがそれと同時に疲れも出てきた。風呂に入ろうとシャツを脱いでるとスマホから音が鳴る。

画面を見るとリインに月のメッセージが届いていた。先ほど帰る前に交換をしていたのを思い出し、リインを開く。

そこには可愛い犬の画像(スタンプというらしい)が届いており、そこにはピンク文字で大好きと書かれていた。俺はついニヤニヤとしてしまう。俺は基本スタンプを使わないが、文字で「俺もだよ」と送り、無料で使えたキスをする男の子のスタンプを送り、風呂に入った。

熱いシャワーを頭から被りながら今日の出来事を反芻する。

風紀委員長達と戦い、和解。そして刑事が学校に来た。月と両思いで付き合う……うーん、充実しながらもバタバタと目まぐるしい1日だった。

その後、食事を済ませ、月に寝る前にメッセージを送る。

明日は風紀委員長が集会を開くそうだ。上手く纏まるといいが…

俺はそんな事を考えていたが、やがて眠りに落ちた。

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