本をよむワルツ

@aono-haiji

第1話

ワルツは白い犬


ぼくの大切な友だち


いつもいっしょに遊ぶ


ボールでも、棒でも、ぼくがそれを手にするだけで


もう、ぼくのことしか見ていない


いつもいっしょにごはん


いつもいっしょにお昼寝


夜も、ぼくとおかあさんのベッドの下だ


でも、朝はちょっとちがう


おとうさんの部屋にいて


ゆかの上で、おとうさんの本をひらいて


その上に前足をのせて、あごをのせて


寝てるんだ


ゆうべ、本を読んでたのかな


ぼくは、ワルツに本を読ませないでって


おとうさんに言う


おとうさんは知らないって言う





ぼくは朝日の中でワルツをだっこする


ありがとう


今日も会えたね


今日もいっぱい遊ぼうね


ぼくとワルツはいつでもいっしょ


いつもいっしょにごはん


いつもいっしょにお昼寝


夜も、ぼくとおかあさんのベッドの下だ


でも、朝はちょっとちがう


おとうさんの部屋にいて


ゆかの上で、おとうさんの本をひらいて


その上に前足をのせて、あごをのせて


ねむってた


何の本を読んでたの?


おとうさんにきいてみた


おじいさんの、そのまたおじいさんの本だって


へんなワルツ




ぼくは朝日の中でワルツをだっこする


ありがとう


今日も会えたね


今日もいっぱい遊ぼうね


ワルツは、いつもよりいっぱいはねた


いつもよりいっぱいワルツした


でもぼくは、いつもより元気じゃなかった


いつもより早くお昼寝した


おかあさんとワルツがそばにいてくれた


ぼくは、どこかにいく夢を見た


どこかにいく夢を見た


教会のすみっこで本を読んでいた


だれかが今、病気でうなされている


おかあさんの腕の中でうなされている


早く良くなりますように


ぼくは祈った



だれかが今けがをしてたおれてる


そばにはだれもいない


ぶじに、おうちに帰れますように


ぼくは祈った


泣いているおかあさんがいる


泣いているおかあさんがいる


いっしょに涙を流しているひとがいっぱいいるよ


この思いがおかあさんに届きますように


ぼくは祈った


教会の外に犬がいてぼくを呼んでいる


ワルツに似てる


ぼくはかけだした


ワルツを追ってかけだした


知らない友だちがたおれてた


ぼくに本をわたして、その子は言った


生まれなかった、ぼくの子の名前がかいてある


その子に会って、名前を呼んであげて


ぼくはワルツといっしょに旅をした


遠い町に旅をした



ベッドの上にその子はいた


ぼくは本に書いてある名前を呼んだ


女の子の名前だった


その子は、ぼくの本に三つの名前をかいた


生まれなかった、わたしの子の名前


その子に会って名前を呼んであげて


ぼくとワルツは、また遠い旅をした


三つの国に行って


三人の子供に会った


三人の名前を呼んであげた


三人の子はぼくの本に、いっぱい名前をかいた


生まれなかった、わたしの子の名前


その子に会って名前を呼んであげて


愛してるってつたえて


ぼくとワルツは、いっぱい旅をした


いっぱい旅をして、いっぱい子供たちに会った


子供たちは、ぼくの本に、いっぱい名前をかいた


ぼくは、ひとりのこらず、名前を呼んであげた




夜があけた


ぼくは、ワルツといっしょに


本の上にあごをのせてねむってた


君の本は、子供たちの名前でいっぱいだね


ありがとう


ワルツ


君に会えてよかった


君の本のさいごにかいてある名前


ぼくの名前


ワルツ


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